第49話 リコとお買い物

 カイリさんに買い物を頼まれて、俺とリコさんは駅地下の地下街に来ていた。

 あまりこういう人が多い場所には慣れてないから、周囲を見渡しただけで圧倒されてしまう。

 中でも驚いたのは魔物を連れて歩いている人がちらほらいることだ。


「あ、あのトカゲみたいな魔物は? リコさん?」

「えっ!? あ、はい! あれ、あれはファイアリザードです! 探索者のパートナーとして人気が高いんです!」

「へー、あの足が長い鳥みたいな魔物も?」

「モーシンドリ……凄まじい足の速さで探索者を乗せて走ります……」


 魔物用品店に行った時にもちらほら魔物を連れている探索者はいた。

 だけど町を歩けばこんなにもいるなんて。

 

「それでもセイちゃんとケンちゃんは珍しいけど……」

「うぉうっ!」

「きゃんっ!」


 確かにヘルハウンドを連れて歩いている探索者は一人もいない。

 近いものといえば、あそこにいる団子みたいな体をしたおばさんが連れている犬みたいな魔物だ。

 手足にだけ毛が残されて、残りは肌が露出している。


「リ、リコさん。あの犬は?」

「ヘルプードル……。一般の人に人気な魔物ですね……番犬としても役立つんです。トリミングコンテストなんてのもあったかな、確か……」

「へぇぇ! さすがリコさん! 詳しくて頼りになるなぁ!」

「た、頼られてるんですか、私っ!」


 リコさんの様子がずっとおかしい。

 トリミングか。トリミングってなんだろう?

 そういえばわからないことがあったら検索して調べる癖をつけろってカイリさんが言っていたな。

 それでトリミングは、なるほど。


「セイとケンの毛もあんな風に切ったほうがいいのかな?」

「ぐるぅぅ~~~」

「くぅぅん」


 すごい嫌そうなんだけど。

 ここまで嫌がるようなことをあのおばさんは自分の魔物にやっている?

 画像を見ると、信じられない奇抜な体毛をした犬や魔物がたくさん出てきた。

 確か昔、床屋へ行くお金を惜しんだじいちゃんが俺の髪を切ってくれたことがあったな。

 あの髪型はどうだったかな?

 近所のおばあちゃん達は私の青春とか喜んでくれけど、若い女性は苦笑いしていたっけ。


「まぁトリミングはともかく買い出しは済ませないと……。何を買ったら」

「あーーー! トウヤじゃん!」

「トウヤだ!」


 突然、俺を指して叫んだ人達がいた。

 そしてあっという間に人の波が押し寄せて囲まれてしまう。


「地下鉄ダンジョンの活躍見てたよ!」

「俺、スパチャしたんだけどわかる?」

「握手して! 握手お願いします!」

「やーん! かわいいー!」

「セ、セイとケンだ! ふひっ……も、もふっていい? ふひっ……」


 一人がセイに触ろうとしたけど、ぷいっと離れてしまった。

 どうも誰にでもなつくってわけでもないみたいだ。

 ファリーちゃんには一瞬でなついたのに、あの太ってすごい汗をかいている人には見向きもしない。


 学校の校門前でもマスコミの人達がすごかったけど、ここにきてもこうなるのか。


「そっちは誰? リコがいながら別の女性と付き合っているんですか!? どこまでいったんですか!」

「え、どこまでってここまでだけど……」


 駅の地下街に来ているんだから、そう答えるしかない。

 というかリコさんって気づいてない?


「マジで誰なんだ……?」

「ねぇ、あなたってトウヤの彼女?」


 まずいな、リコさんによくない疑惑が集中している。

 こういう時はどうしたら――。


「い、妹です」


 リコさん? いいの?


「なんだー! 妹かー!」

「トウヤって妹がいたのか……」

「その割に似てないような……」


 もちろん俺に妹はいない。

 こういうのってどうなんだろう?

 カイリさんはなんて言うかな?


「あ、あの! サインください!」

「サイン? だったら私も!」

「俺も!」

「ワシも!」


 今度は一斉によくわからないことを言い出した。

 何かの印のことだろうか?


「えっと、サイン、サインと……。なになに、署名? 要するに俺の名前を書けばいいんですか?」

「そうそう! お願い!」

「わかりました。これでいいですか?」

「おおぉぉぉーーー! ありがとう!」


 渡されたメモ用紙に名前を書いてあげただけでこんなに喜ばれるとは。

 俺には剣術を示すしか己を証明する手段はないと思っていた。

 世の中、わからないことだらけだ。


「次! お願いします!」

「お、多いなぁ……。わかりました、横に一列に並んでください」

「横に?」

「一気に終わらせますので」  


 俺は並んだ人達が持っている紙に一気にペンを走らせた。

 剣術とは違うけど要領は同じだ。

 数十人分のサインを一気に書き上げることに成功した。


「す、すげぇ!」

「映像より迫力ある!」

「おぉ……六十年以上若返った気分じゃ! のう、ばあさん!」

「えぇ、えぇ……ありがたや、ありがたや……」

「一生の宝にします!」


 こんなにも喜ばれるとは。

 この俺が誰かに宝物を上げられるなんて、こんな日がくるとは思わなかった。

 おじいさんとおばあさんが俺に数珠をもって拝むほど感謝してくれている。


「ト、トウヤ様……そろそろ時間が……」

「あ、そうだね」


 確かにあまり遅いとカイリさんが心配するかもしれない。

 こういう時は――。


「じゃあ、そろそろ行くんで!」


 俺はリコさんの手を引いて、頭を下げながら人の波をかき分けた。

 二匹と一緒に走り出しながら、俺は今の出来事を振り返る。


(俺がいる意味、やったこと。すべて正しかったんだ)


 俺はなんだか感動して目頭が熱くなった。

 人気者になりたいわけじゃないけど、あんなにも皆が笑ってくれるなら俺はこれからも配信活動を続けたいと思う。

 それから適当なベンチに座ってようやく落ち着いた。


「いやー、すごかったね。ん? リコさん?」


 リコさんが茹でタコみたいに真っ赤になってベンチに寄りかかっている。

 あれ、もしかして熱でもある?


「手、トウヤ様と、手、手を、ちゅないで……」

「あ、ごめん。ずっと握ったままだったね」


 俺が手を離すとリコさんが自分の手を撫でている。

 俺の手、汚かったかな?

 確かに女の子の手を安易に握るもんじゃないか。


「か、買い物済ませちゃおうか」

「そう、そうですね……」


 なんだか妙な雰囲気になったな?

 俺自身も少しだけ違和感がある。こう胸が少しほんわかするというか。

 こんなの初めてだ。


 それから食材を求めて地下街を歩いた。

 新鮮な魚の匂いが漂う市場、香ばしい匂いが漂う総菜店、そのすべてが刺激的だ。

 じいちゃんからは揚げ物は体によくないと言われてあまり食べさせてもらえなかったな。


「トウヤ様。鍋の具材、ど、どうします?」

「うーん、迷うよね……」


 鍋ってなにを入れたらいいんだろう?

 俺がじいちゃんと鍋をした時は暗闇でよくわからなかったんだよな。

 これも修行だとか言ってよくわからないものを口に入れた記憶がある。


「唐揚げとかどうかな?」

「え、か、唐揚げ、ですか?」

「俺、好きだし……」

「それなら……」


 よし、鍋の具材第一号は唐揚げで決定だ。

 そうなれば次は――。


「はぁ? あんた、お金ないって本気で言ってんの!?」

「すまない……」


 別の店の前で何か揉め事が起こっている。

 あそこは食事もできる総菜店かな?

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