日本最強の剣術を極めた底辺配信者、S級の魔物を一刀両断したら唯一のファンである有名美少女配信者の雑談ライブで紹介されて侍伝説が始まった~

ラチム

第一章 地下鉄ダンジョン事変

第1話 だからお前は底辺なんだ

「何か悪いところがあったら遠慮なく言ってください!」


 俺、トウヤは頭を抱えていた。

 一年前にダンジョンでの配信活動を始めたはいいものの、ほとんど反応がないからだ。

 チャンネル登録者はわずか5人、ライブの同接は3人。

 ちなみにチャンネル登録者は昨日まで6人いた。


 一人減った事実に直面した俺は自分の記憶違いと強引に納得しようとした。

 最初から5人だった。6人というのは自分の勘違いだ、と。

 だけど、どう考えても6人いた。

 現実逃避している場合じゃなく、めげずにダンジョン配信を続けるしかない。


「あ、今からあそこの魔物を倒します!」


 魔物は小型の亜人のような見た目で名前は知らない。

 こちらに気づいた魔物がギロリと血走った目を向けてきた。


「ギギィーーーーーッ!」


 俺は刀を構えて、魔物目がけて一閃。

 胴体と下半身が分かれた魔物が一瞬だけ足掻いた後、すぐに動きを停止した。 


「今のどうですか!? 何か俺の動きとか、至らない点があったら遠慮なく言ってください!」


 俺はすがるようにいるはずのリスナーに呼びかけた。

 チャット欄を凝視すると――。


【普通】


「ふ、普通!? 普通ってよくないですよね!? どうすれば普通じゃなくなりますか!?」


 普通とはつまり価値を見出されなかったことだ。

 俺のじいちゃんが生前にそう言っていた。

 そのじいちゃんが俺に心気一天流の免許皆伝を許したんだけど、リスナーからの評価は普通。

 じいちゃんが間違っているとは思えない。

 つまり原因は俺自身にある。


【今時スキルなしとか見る価値ねーよ】


「スキル……なし……?」


 リスナーが何を言ってるのかわからなかった。

 実は薄々勘づいていたことだ。


「ス、スキル……俺、スキルないんですよ」


 その瞬間、同接が一人になってしまった。

 俺はショックのあまり、配信を落としてしまう。

 そしてダンジョンの壁に背を預けて座り込んだ。


 スキルがない俺を見限ったんだろう。

 俺は脱力した手でスマホを操作してスキルについて検索した。


 表示されたのはスキルの意味、そして数々のスキル例だ。

 人が生まれながらにして持っている超能力のようなもの、か。


 例えば大手ギルドの探索者は武器に炎を纏わせてあらゆるものを切断する。

 ある探索者は凍てつく冷気を放ち、ある探索者は傷を一瞬で癒すことができる。

 どれも確かに超能力だよ。


 探索者をやっていくならスキルは必須だ。

 でも俺には必要ない。だってじいちゃんから受け継いだ剣術があるから。

 そう思っていた。


「じいちゃん……俺、どうしたらいいんだ」


 じいちゃんは両親を亡くした俺を引き取ってくれた。

 幼すぎてあまり覚えてないけど、じいちゃんの話によれば俺は極度の人見知りだったらしい。

 じいちゃんにもなつかずに途方に暮れていたけど、剣術を見せたら目の色を変えたそうだ。


 それからじいちゃんは俺に剣術を教えてくれた。

 学校に通うようになってからも俺は友達作りもしないで、ずっと剣術に夢中になっていた。

 おかげで16歳の今に至るまで恋人はおろか、友達もいない。


 それでも俺は満足していた。

 俺の唯一の生き甲斐が剣術、そしてじいちゃんだったから。

 でもそのじいちゃんはもういない。


(ダンジョン……考えてみれば不思議な場所だよな)


 ダンジョン。おおよそ百年前に突如出現した危険地帯。

 猛獣よりも狂暴な魔物と呼ばれる生物が潜むこの場所は、当初政府が管理して誰でも入れるような場所じゃなかった。

 そうなると当然、政府は軍隊を編成してダンジョン探索に乗り出す。


(じいちゃんの話によれば全滅したんだっけ)


 世間に向けて大々的に発表した軍隊はほぼ全滅。

 世間がざわつく中、一人の男がダンジョン攻略に名乗り出る。


――私にお任せください。


 軍隊のような武装をせずに男は鋼鉄の鎧を身にまとって、手に持っていたのは西洋風の剣のみだ。

 誰もが笑っていたけど、男は単独でダンジョンを踏破。

 じいちゃんが生まれる前のことだ。


 それから政府は探索庁を設立した。

 重火器を持たない男の戦い方は一見して無謀に見えたものの、軍隊すら成し遂げられなかったダンジョン制覇を達成してしまった。

 闇雲に重火器をぶっぱなすのではなく、魔物の動きを読んで武器で弱点をつく。

 その上、男が駆使していたのは後にスキルと呼ばれるものだ。

 それは軍隊の重火器以上の効率性を見せつける魔物への対抗手段だった。


 それから間もなく人々にスキルという力が発現する。

 爆発的にスキル持ちの人間が増えて、それと共に魔物との戦い方があらゆる機関で研究が進められる。

 この世の流れに当時の政府は対応しきれず、ダンジョン探索時代到来の足音が近づく。


 ここで政府がなぜかダンジョンを一般に向けて開放するという衝撃的な出来事まで起こる。

 更にダンジョン探索に限り、企業が開発した武器を持つことが許される法律を発表した。


(じいちゃんによれば、様々な利権団体が武器を売るために政府に圧力をかけたとかなんとか……ホントかなぁ?)


 ダンジョンの中には貴重な資源が眠っていることが判明して、人々はより熱狂する。

 そんなダンジョン探索を配信する配信が流行り出したのは、つい最近のことらしい。


「じいちゃんが俺のダンジョン配信を見たらどう思うかな……」


 じいちゃんは生前、ダンジョン配信に熱中していた。

 そんなじいちゃんを俺は遠目に見ていたんだけど、ダンジョン配信に興味を持てなかった。

 そんなことより剣術を教えてよ、なんてせがむ子どもだったから。

 でも一度だけじいちゃんとこんな会話をしたことがある。


――じいちゃん、なんでこの人達は危険なことをするの?


――それがやりたいからじゃよ。


――でも危ないよね? 怖くないの?


――怖いじゃろうな。

  じゃがそういう刺激を求める人もおるんじゃ。


――うーん、よくわかんない……。


――刺激を求める人がおる。

  それを見て熱狂する人々がおる。

  仕事の在り方なんて、それだけで十分じゃろうて。


 子どもの頃は理解できなかったけど、高校生になった今なら少しはわかる。

 確かに世の中、安全に稼げる仕事はたくさんある。

 それでもダンジョン配信という魅力にとりつかれた人達がいる。

 じいちゃんもその一人だったんだろうな。


 そのじいちゃんが死んでから心に穴が空いた俺は、ようやくダンジョン配信に手を出したんだ。

 そうすることで、大好きだったじいちゃんを今でも身近に感じることができると思ったからだ。


(考えてみたら俺だって剣術の魅力にとりつかれた人間だ)


 物心ついてからは、ひたすら剣術に打ち込んできた。

 その剣術すら誰にも認められないなら、俺はどうすればいいんだろう。

 なぁ、じいちゃん。どうすればいい?


――思考を巡らせよ。答えは己の中にある。


 ふとじいちゃんの口癖を思い出した。

 剣術でも思考を止めた瞬間に成長が止まる。

 道に迷った時こそ常に思考を巡らせよう。


 俺に足りないもの、スキル。いや、それ以外で。

 ないものねだりをするつもりはない。

 考えろ。俺の配信に足りないものはなんだ?


――映えじゃよ


「……じいちゃん、そういうことか」


 じいちゃんが生前よく言っていたことだ。

 配信には映えというものが必要らしい。

 いわゆる画面映え、そう考えたところで俺は周囲を見渡した。


「俺の配信に足りなかったのは映えだ! そしてここは映えない! じいちゃん! わかったよ!」


 ここは今一映えない。

 見ている人達が退屈するのも当然だ。

 俺にスキルがないなら、せめて映えを意識しないといけない。


 そうと決まったら行動開始だ。

 俺は帰宅してすぐにスマホで映えるダンジョンを検索した。

 検索結果が羅列されたけど、そこにちらほらと他の配信者達の動画が表示されている。


 どれもチャンネル登録者数が数万や数十万ばかりだ。

 それだけの人達を引きつける配信か。

 中でも不思議と目を引いたのがクールプリンセス・リコというチャンネルだった。


「登録者数150万かぁ。俺とそう変わらない年齢に見えるのにすごすぎる……」


 思えば俺は他のチャンネルをろくにチェックしていなかった。

 なんとなく動画を再生した瞬間、俺の視界が圧倒的な光で埋め尽くされる。


 クールプリンセス・リコ。

 西洋風の大剣を小さな体で振るう少女は実に鮮やかだ。

 チャット欄でコメントが土石流のように流れていく。


「……映えすぎている」


 透き通るような声、無口でクール、それでいて女の子が大剣を振るって魔物を叩き潰すというギャップ。

 俺はしばらくの間、見入ってしまった。

 この子と俺、一体何が違うんだろうか?

 映えとは本当に場所だけのことか?

 考えろ、考え抜け。何が違う?


――衣装映えしとるのう


「じいちゃんがいつか言っていたな……」


 衣装映え、いつかじいちゃんが呟いていたことだ。

 あの時はなんのことかさっぱりわからなかったけど、配信者そのものも映えなきゃいけない。

 俺は改めて自分の姿を再確認した。

 じいちゃんに稽古をつけてもらった時はいつも時代劇に出てくるような着物を着ていたけど――。


「着物の色合いが少し地味かも」


 そうと決まればまずは着替えだ。

 こんな地味な色合いじゃ画面映えも衣装映えもしない。

 確か錦鯉の柄の着物がタンスの奥にあったはずだ。

 あれなら絶対に映える!

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