第30話 悪役貴族、人間大砲になる




 リヴァイアサンの攻撃によって四番艦『ガンテツ』が宙を舞った。

 このままで海面に叩きつけられ、甚大な被害が出るだろう。



「――結界魔法・イージス!!」


「おお!! ご主人様の結界が船を受け止めのじゃ!!」



 咄嗟の判断で結界に弾性を与え、トランポリンのように船を受け止める。


 初めてやってみたが、何とか成功した。


 俺は慎重に結界を解除して、安全に海面に着水させる。



「今の攻撃を連続でされると対処できるか分からん!! リヴァイアサンが水中に潜る前にありったけ砲弾を叩き込め!!」


「は、はっ!!」



 俺の号令に水兵たちが頷き、伝声管を通して各所に指示を飛ばす。


 しかし、間に合わなかった。


 リヴァイアサンはそそくさと水中に潜り、再び次の攻撃に移る。



「タマモ!! リヴァイアサンが来たら言え!!」


「っ、また来るのじゃ!!」


「次はどの船を狙ってるか分かるか!?」


「え!? ええと、ぬおっ!? 今度はこの船に真っ直ぐ迫ってくるのじゃ!!」



 タマモはきっと耳がいいのだろう。


 リヴァイアサンが次に狙うターゲットが分かるのが唯一の救いだ。



「各員、何かに掴まれ!! 振り落とされるな!!」



 アルロが伝声管で指示を出す。


 次の瞬間、旗艦『ベギル』の結界の下から凄まじい衝撃が加えられた。


 四番艦『ガンテツ』に続いて『ベギル』が宙を舞った。

 事前に来ると分かっていたら、俺の結界でキャッチすることは難しくない。


 難しくないが、何度もできるものではない。


 どうにか海面に着水した後、空かさずリヴァイアサンを砲撃する。



「っ、効いてないのか!?」


「リヴァイアサンの鱗は分厚いのじゃ!! 鉛の塊などものともせぬ!!」



 尾ビレにダメージは通っていたが、あれは鱗に覆われていなかったからか。


 おそらく目や口に砲弾が当たれば相当なダメージを与えられるはずだが、主砲の命中精度はそこまで高くない。


 俺がリヴァイアサンの対処に困っていると、そこでタマモがはいはいと手を上げた。



「ご主人様!! 妾の妖術ならば、リヴァイアサンに触れさえすれば奴の鱗を腐らせて脆くできるのじゃ!!」


「な、本当か!?」


「むふふ、妾も役に立つじゃろう?」


「ああ、見直したぞ!! しかし、どうやってリヴァイアサンに触れるんだ? 奴は常に水中にいるんだぞ」


「……」


「おい」



 急に黙り込むタマモに詰め寄ると、彼女はさっと視線を逸らした。



「見直して損したぞ」


「わ、妾は悪くないのじゃ!! 水中に引きこもっているリヴァイアサンが悪いのじゃ!!」


「それはそうだが……」



 と、その時だった。


 着水の衝撃で伝声管が壊れたのか、水兵の一人が慌てた様子でアルロのところまで報告にやってきていた。



「アルロ様!! このままでは上陸作戦に使う砲弾がなくなってしまいます!!」


「構わん!! どのみちここで全滅したら終わりだ!! ありったけ撃ちまくれ!! 砲弾がなくなったら砲弾の代わりになりそうなものを入れてぶっ放せ!!」


「は、はっ!!」



 ……砲弾の、代わりに……。



「おい、タマモ。ちょっと砲身に入れ」


「ふぇ?」



 間の抜けた可愛い表情を見せるタマモ。


 人間、限界まで追い詰められると意外といい案を思い付くものだ。


 タマモはふるふると首を横に振った。



「い、嫌な予感がするのじゃ!!」


「もうそれしか方法がない。お前は死んでも生き返るから大丈夫だ」


「絶対に嫌なのじゃ!! 妾はご主人様の手で首をキュッとされるのは好きじゃが、筒に詰め込まれて打ち出されるのは嫌なのじゃ!!」


「お前のしてほしいことをしてやるから」


「ならばご主人様が妾を乱暴に抱いてくれるなら考えるのじゃ!!」



 タ、タマモを抱く?



「……分かった。抱いてやる」


「ふぇ?」


「抱いてやるって言ったんだ。だからさっさと砲身に入れ」


「っ、た、滾ってきたのじゃ!!」



 そう言うとタマモが砲台の方に走り出し、砲身の中に入った。


 水兵たちは何事かと困惑していたが、俺が構わず撃てと言うと、彼らは躊躇なく発射をスオッチを押した。


 ドーン!!



「ぬおおおおおおおおおおっ!!!! ご主人様らああああああぶっ!!!!」



 尻尾に火を点けながらリヴァイアサンに肉薄するタマモ。


 そのままタマモ弾は直撃した。



「――――――ッ!!!!!!」



 すると、タマモが妖術を使ったのだろう。


 青く輝いていたリヴァイアサンの鱗がどろどろに溶け落ちてしまった。


 チャンスだ!!



「今なら砲撃が効く!! とにかく撃ちまくれ!!」


「「「「イ、イエッサーっ!!」」」」



 十五隻の船から一斉に行われる砲撃。


 鱗を失ったリヴァイアサンは全身から赤黒い血を流して、海を赤く染めた。


 すると、自らの不利を悟ったのだろう。


 リヴァイアサンは攻撃をやめて大慌てで艦隊から離れて行った。


 近くを通りかかったワカバが大喜びで叫ぶ。



「やった!! やったっすよ、ベギルさん!! リヴァイアサンを撃退したっす!!」


「……逃げられるのは嫌だな」


「え?」


「俺にできるか? いや、やらないと後が不安になるな。ワカバ、ちょっと俺も砲身に入るから撃ってくれ」


「は? ……え、は?」


「結界で身を守るから気にするな。ここでリヴァイアサンを逃がして後から上陸作戦を妨害される方が困る」



 ワカバは俺の言っていることが理解できなくてフリーズしていたが、構わず砲身の中に入った。


 ……結構狭いな。でも居心地は悪くない。



「ワカバ、撃て!!」


「え、あ、はい。え?」


「ッ!!!!」



 全身に凄まじい衝撃が走る。


 結界魔法がなかったら、文字通りの木っ端微塵になっていただろう。


 先ほどのタマモ同様、俺は血をだらだら流しながら逃げるリヴァイアサンに肉薄し、その背中に上手く着弾した。


 ちょうど傷口に当たったようで、リヴァイアサンの絶叫が海を揺らす。



「――――――ッ!!!!!!」


「魔王に操られているお前を殺すのは申し訳ないが、ここで仕留めさせてもらう。結界魔法の面白い使い方を見せてやるよ」



 俺はリヴァイアサンを結界魔法で隔離した。


 このサイズの生き物を圧縮しようとすると反動で多分死ぬのでやらない。


 では何のために結界魔法を使ったのか。


 結界魔法は俺の望むものを通し、望まないものを弾く。

 そして、リヴァイアサンに施した結界は『海水』を弾くように設定した。


 さて、何が起こるだろうか。



「海面に打ち上げられるのは初めてか?」



 結界は周囲の海水を弾き、リヴァイアサンは海面に打ち上げられる。


 リヴァイアサンは水棲生物だ。


 つまり、エラ呼吸をしているはず。長時間水から離れていれば、そのうち窒息して死ぬはずだ。


 え? なら最初からやれ、だって?


 いや、人間を撃ち出したらどうなるか分からないだろ。

 タマモが先にやったから「あ、大丈夫そう」と思ったのだ。



「うぅ、ご主人様ぁ!! 約束はしっかり守ってもらうのじゃ!!」


「ああ、分かって――」



 その時だった。


 海面に打ち上げられていたリヴァイアサンの全身が淡く光り始めたのだ。


 今度は何だ!!



「……勇敢な人間よ。どうやら、迷惑をかけてしまったようですね」



 ちょっと何が起こったのか分からなかった。


 リヴァイアサンの身体が光って小さくなったかと思えば、羽衣をまとった綺麗な水色の髪の美しい女に変身したのだ。


 それも身長が三メートルはあろうかという、胸の豊かなデカイ美女だった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

でっかい美女の腰に抱き着きたい。



あとがきに同意したら★★★ください。



「タマモが面白い笑」「三メートルはデカイw」「あとがきが作者の願望で草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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