第7話 第壱章第壱部(続き)

 理由は色々あるが、自然分娩が無理になるくらい出産時期が遅れて赤子が成長してしまうことはままあった。

 そうした場合、たいてい出産も赤子も諦めるのが常だった。


 ところが、そういうお産を控えた女性が、魔法で出産したという事実を、この産婆は話に聞いたことがあった。だが、夢物語だと思っていた。

 まさかこの目で見る機会が訪れようとは、思いもしなかった。


 分娩を無理に促すのだろうか、それとも腹を裂くのだろうか、想像もつかない。

 この小さな魔法使いの爺さんは、産道を通さずに赤子を外に出すつもりだったが、自然分娩しか知らない産婆には当然分かろうはずもなかった。


 いくら魔法を使うとはいえ、妊娠の原理に通暁していなければ行えない。そのような医術、この国のものではなかった。どこで知ったのかは謎のままだ。

 周囲の村人に理解出来ようはずもないから、部屋から追い出したのだろう。


 魔法使いの爺さんが頼むのでその場に残った産婆は、初めて見る〈魔法での出産〉に心臓が飛び出しそうになっていた。


「産婆さんよ、妊婦の汗を拭い、腹が見えるように服を上げてくれるかの?」

「脱がさないんで?」

「あむ、膨らんだ腹を出しておくれ」


 魔法使いに言われた通り、妊婦の腹を露わにすると、水に浸した布巾を絞って腹回りを拭き、汗を拭った。

「見ておってもええが、儂がいいと言うまで決して手を出してはならん。二人の命がかかっておるからの」


 ゴクリとつばを飲み込むと産婆は頷いた。

 これから始まろうとしていることは、長年多くの赤子を取り上げて来た産婆にも初めての体験だ。


 世間によくいる自称魔法使いにも出来るような事なのかは分からないが、後の語り草くらいにはなろう。

 よく見ておこう。


 魔法使いは、妊婦の腹に両手を翳すと、何語か分からぬ言葉で何か唱え始めた。


「オワシマス神々ノミテヲカリテ 赤子ノ命ヲマモリタマヘ」

「コレヨリソトニダス赤子ノ 息ヲトメタモウナ」

「マズハ、赤子ヲソトヘ~~~」


 摩訶不思議なことに、唐突に妊婦の腹の上に赤子が姿を現した。産道を通さずに出て来た赤子に、産婆は腰が抜けそうになった。

 それでも、見るべきを見落とすほど経験に乏しくない産婆は、赤子がよい状態にないことを見て取った。


「ヘソノオ、ソノ役目ヲオエテ、消滅セヨ」

「ハナ、クチ、ハイヲミタス羊水、キエヨ」

「赤子ニシゲキヲアタエテ 呼吸サセヨ」


 何語が分からないが、魔法使いの口から紡ぎ出される言葉が、赤子の身体に流れ込んでいくのを感じる。

 赤子の顔色が見る見るよくなっていく。これが魔法というモノなのか……


 ほんの暫くすると、柔らかい光を全身に帯び後、赤子は元気に産声を上げた。

「ぅぅぅぅぅあああああん」


続く

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