第4話:癒しの迷宮と星砂の扉

 星砂の鍵を手に入れた私たちは、砂の都から南西に広がる“星落ちの大渓谷”へと向かっていた。伝承によれば、星砂はその渓谷の中心に落ちた星の欠片から採れるものであり、古代より“記憶の迷宮”と呼ばれる場所に繋がる扉の鍵とされていた。


「この地図……“星砂の門”って刻まれてる場所、ほんとに実在するの?」


「魔導院の記録では、存在は未確認。でも魔力探知反応は確かにあるの」


 ミミの手元の水晶が、渓谷に近づくにつれて淡く輝き始める。


「反応してる。鍵が導いてるわ」


 渓谷の奥に進むと、岩の間に彫られた巨大な門が現れた。その表面は星の光を宿すようにきらめいており、中心に私たちが持つ星砂の鍵と同じ紋様が刻まれていた。


「ここが……星砂の扉」


 鍵をかざすと、門が重々しく開いた。


 中は静寂に包まれた石の回廊。壁には癒しと記憶に関する魔導術式が刻まれており、私たちは慎重に進んでいく。


 迷宮の内部は、不思議な仕掛けに満ちていた。


・泡の幻影が心の記憶を見せる“記憶の湯”

・一定のリズムで魔力を流さないと崩れる“癒しの橋”

・温度の異なる湯を混ぜて正しい温度に調整する“湯の試練”


「これ、温泉知識が問われるやつだ!」


 ルナの鼻が湯気の流れを読むのに大活躍。意外とペットというより“温泉ナビ”だ。


「にゃあ(これは源泉42.8度)」


「やるなルナ!」


 最深部には、静かに佇む湯の間があった。そこには星砂を敷き詰めたような地面と、中央にぽつんと湧き出る“光の湯”があった。


 湯に手をかざすと、心の中に語りかける声が響く。


《第四の光を持つ者たちよ。ここにて、癒しの契りを結べ》


 それぞれが湯に触れた瞬間、記憶と感情があふれ出した。


 クラリスは母の背中と、戦いに迷った日の涙を。

 ミミは幼いころの孤独と、初めて仲間と笑った日を。

 レオンは剣を持った意味と、手放した仲間の重さを。

 私は——この旅で出会った温泉と笑顔、そして皆との絆を思い出していた。


「……なんか、心がすごく温かい」


「湯って、体を癒すだけじゃないのね……」


 光の湯の中から、透明な“星の癒結晶”が浮かび上がった。


「これが……第五の光」


 迷宮を出たとき、空には流星群が降っていた。無数の星が夜空を横切り、地上の砂に星の影を落とす。


「綺麗……まるで、光が私たちを祝福してくれてるみたい」


「あと残る光は、たぶん“最後のひとつ”だね」


「うん。そしてそれは——」


「自分の中に、あるのかもしれない」


 私たちは新たな光を手に、次なる地へと歩き出した。

 その足取りには、少しずつ“終わり”の予感と“始まり”の決意が宿っていた。

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