最初の住人

 森の夜は、思っていたよりも静かだった。


 風もなく、虫の鳴き声もない。まるで時間が止まったかのような、異様な静けさだった。


 家の中では、俺が適当に作ったベッドに寝転びながら天井を見つめていた。


「……あれ、意外と快適だな」


 ふかふかの布団、木の香りが落ち着く空間、そして不思議と暖かい室温。まるで高級なロッジにでも泊まっているようだった。


 ――しかし、その静寂は突如として破られる。


 ドン……ドォン……ズズンッ!


 外から、地鳴りのような音が響いた。


 足音。それも、ものすごく重くて大きい。俺はすぐに起き上がり、扉の前に立った。


「……誰か、来た?」


 扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは――


 黒く輝く巨大な爪、赤く光る瞳、そして空を覆うほどの漆黒の翼。


 そう、それはまさに“ドラゴン”。


「……え?」


 威圧感が空気を裂く。普通の人間なら、その場で気絶してもおかしくない。けれど、なぜか俺は落ち着いていた。


「おまえ……人間か?」


 ドラゴンが喋った。しかも、意外と丁寧な言葉遣い。


「う、うん。一応、人間……かな」


「この森で人間を見るのは、数百年ぶりだ。なぜ生きている?」


「いや、俺も知りたい。気がついたらここにいたんだよ」


 ドラゴンは俺の姿をじっと見つめた。赤い瞳が、俺の中を覗いているようだった。


 数秒後――


「……まさか、おまえ。“あの存在”か……?」


「え、なに?」


「……フフ、面白い。ならば――」


 ドォン!


 突如、ドラゴンは頭を地面に下げ、俺の足元にひれ伏した。


「このルゥ・ヴァルグラド、命を賭して、貴様に仕えよう!」


「えええええええええええ!?」


 なんで!? なんでドラゴンが俺に忠誠誓ってんの!?


◇ ◇ ◇


「というわけで……村の住人、一人目が決まりました……」


 朝になり、ドラゴン――いや、ルゥは俺の家の隣に、巨大な巣を“創造神の手”で作り出した。


「住みやすいな、この家。うむ、気に入った」


「いやいや、あんたの体に合わせて作ったからな! 山一個分の大きさだぞ!」


 どうやら、俺のスキルはモンスターに対しても有効らしく、ルゥは完全に“村人A”として落ち着いた様子だった。


「この森は強者しか生き残れぬ。その中でも我を恐れて近寄らぬ者は多い。しかし……おまえだけは別だ。おまえの中には、神にも等しき気配がある」


「神……? まさか、あのスキルのせいか……?」


 俺はまだ自分のステータスを見れないままだが、ルゥの言葉により、少しずつ異変に気づき始めていた。


「まぁ、強いのはいいけど……俺はただ、静かに暮らしたいだけなんだ」


「では、我も静かに仕えよう。釣りでも始めるか」


「釣り竿持ってんの!?」


◇ ◇ ◇


 こうして、死の森に――


 人間とドラゴンによる、最も不可解な“村づくり”が始まった。

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