最強なのに気づかない 〜死の森で村づくりスローライフ〜

@FaceMask

死の森の転生者

 ――気づけば、俺は空の中にいた。


 透き通るような空間。上下の感覚もなく、まるで夢の中に浮かんでいるような不思議な感覚。目の前には、長い髭をたくわえたローブ姿の老人が、申し訳なさそうに佇んでいた。


「すまぬ……本当に、すまぬ……我が不注意で、おぬしを事故に巻き込んでしまった……」


「は、はあ……」


 俺――神谷アオイ(17歳)は、登校途中に空から落ちてきた“神の魔力のかけら”に当たり、あっけなく命を失ったらしい。


「だからと言って、転生させるなんて……」


「償いとして、我ら神々はおぬしに幾つかの特別な力を授けようと思う。そう、たとえば――【創造神の手】、そして……まぁ、あとはお楽しみに、ということで」


 そう言って、老人はにっこりと微笑んだ。


「いや、今の“お楽しみに”って何? 何か隠してるでしょ?」


「……時が来れば、すべて分かるさ。では、良き異世界ライフを――」


 そして俺の意識は、ふっと闇に包まれた。


◇ ◇ ◇


 次に目を覚ました時、俺は土の上に寝転んでいた。


 ……うわ、くっさ。森の匂いってレベルじゃねえ。これは、腐った獣の臭いか?


「……って、ここどこだよ?」


 辺りを見渡せば、黒い木々が不気味に揺れ、濃霧が地面を這うように漂っていた。動物の気配も、鳥の鳴き声もない。あるのは、どこからか聞こえる低いうなり声と……巨大な足跡。


(これ……もしかして……)


 思い出す、あの老人の「転生させてやる」という言葉。これが、いわゆる異世界ってやつか……!


 そして俺の頭に、ぴんと走る感覚があった。


『スキル【創造神の手】が解放されました』


『ステータス確認:エラー。表示不可』


(……エラー?)


 え、ちょっと待って。ステータスが見れないってどういうこと? チュートリアルどこ?


 しかし考えていても仕方がない。まずは、安全を確保しよう。


「よし、とりあえず――」


 俺は地面に手をかざして、思考してみた。


(家……ログハウス……あったかい、屋根付き、一人用……できれば、囲炉裏も……)


 その瞬間、ドォォォン! という地響きと共に、巨大な木造の家が地面からせり上がってきた。


「……は?」


 自分でも信じられなかった。イメージしただけで、完璧なログハウスが目の前に出現したのだ。


 まるで、シムシティでもやってる気分だった。


「これが……【創造神の手】……マジかよ」


◇ ◇ ◇


 それから数時間後――


 俺は家の中でコーヒー(っぽい飲み物)を飲みながら、外の霧をぼんやりと眺めていた。


「よし、これからどうしようか」


 思い描くのは、静かで、誰にも邪魔されない生活。畑を作って、自給自足して、適度に寝て、本でも読んで……最高じゃん。


 だけど俺は知らなかった。


 この森が“死の森”と呼ばれる、世界最悪の禁域であることを。


 この森には、魔王ですら近寄らない超級モンスターたちが徘徊していることを。


 そして、俺のステータスが、神すらも凌駕する“世界のバグ”であることを。


 その日から――


 死の森に、一人の神が村を作り始めた。


 それは、後に世界を揺るがす大事件の始まりだった。

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