Episode 08「翡翠×蛮人=憤怒」
『一回戦第二試合に出場する生徒は、一階、アリーナへ集合してください』
拡声の魔導具によって響き渡るアナウンス。
「じゃあ、行ってくる」
二人の友にそう告げ、アリーナへと入っていくヒスイ。
反対側の入口には、試合の対戦相手が見えた。
距離が近づくにつれて、相手の姿が鮮明に見えてくる。
深い青の髪色に、鋭い目つき。
シャツは制服のズボンから出ていて、ネクタイも緩い。
見るからに不良というような風貌だった。
「お前が、ヒナに手をあげたのか…?」
静かに、落ち着いた口調で問いかけるヒスイ。
「アァ?ヒナ?誰だソイツ」
興味が無さそうにレヴィはそう答える。
「お前が、長距離走でぶつかって怪我をさせた女の子だよ」
「女?あぁ、思い出したぜ。俺にぶつかってきたやつがそう言えばいたなぁ。それがなんだ?お前の女か?」
レヴィの挑発とも取れる言い草に、ヒスイは苛立ちを覚える。
「まぁ、あんなクソ雑魚あそこで脱落してて正解だったなァ。じゃなきゃ今頃、俺様にブチ殺されてただろうなァ」
今度は完全に挑発を飛ばすレヴィ。
その一言で、ヒスイの沸点は完全に臨界へと達した。
「もういいよ、お前。その汚い口を二度と聞けなくしてやる」
静かで淡々とした口調。だが、真顔を装ったその表情からは、どす黒い憤怒の色が滲み出ている。
「アァ?テメェ、俺様に舐めた口利くってこたァ、死ぬ覚悟はできてんだろうな?」
先程までのヘラヘラとした態度からは一変、ヒスイを睨みつけ、圧倒的な威圧感を放つ。
だがヒスイは全く意に介さず、無言で腰に差した訓練用の直剣を抜く。
「さっさと抜け。お前と会話する時間が勿体ない」
「おっと、奇遇だなァ。俺様も早くテメェをぶち殺してやりてェと思ってたところだぜ」
二人が剣を構えたことを確認した試験官は、試合開始の合図を唱える。
「決着は、どちらかが降参するかもしくは、私が続行不可能と判断したときだ。いいな。では、勝負……始め!!」
合図とともにまず仕掛けてきたのはレヴィ。
一蹴りで4メートルほどあったヒスイとの間を一気に詰め、剣を振るう。
ヒスイはそれを同じく剣で受け止め、甲高い金属音が辺りに響く。
だがレヴィの攻撃はそれでは終わらず、二撃目、三撃目と、次々に剣を振るってくる。
(重い...一発一発が、鉄の塊をぶつけられているような感覚だ...!)
レヴィの攻撃のあまりの威力に、一歩、また一歩と
しかしレヴィの攻撃の手が止まることはなく、受けきれなかった攻撃が腕や足に浅い傷を付けていく。
「どうしたァ、さっきまでの威勢はどこにいっちまったんだァ?」
攻撃の激しさはさらに増していく。
「どうしよう、ヒスイくん負けちゃうよ...」
観客席でルナトリアが不安そうに零す。
「いや、あれは......」
ルクスが何かに気が付いたようにそう呟くのとほぼ同時、ヒスイが攻撃の一瞬の合間を縫ってレヴィの足を払いい、レヴィは態勢を崩す。
追撃を仕掛けようと蹴りを放つが、レヴィは片手を地面に着くとそのまま腕の力だけで後方に飛び、間一髪のところで攻撃を躱す。
「へぇ、なかなかやるじゃねェか」
うっすらと笑みを浮かべ、戦いを楽しむようにレヴィは言う。
「次はテメェから攻めてこいよ。俺様は攻撃を受けるだけで、何もしねェ。いいだろ?」
またもや挑発を飛ばすレヴィ。
ヒスイは剣の柄を握りしめ、無言の肯定を示す。
数舜の沈黙の後、ヒスイが仕掛ける。
先程のレヴィのように、間合いを詰めると剣を振り下ろす。
高速の連撃。しかし、威力が足りていないのか、先程のレヴィに比べて金属音が小さい。
「ハッ、なんだ、口ほどにも無いじゃねェか。軽すぎるぜ、こんな攻撃」
がっかりだ、というように鼻で笑うレヴィ。
だがヒスイは攻撃の手を止めず、ひたすらに剣を振るい続ける。
大勢が見守る中、その違和感に真っ先に気が付いたのは、ルクスだった。
ヒスイの剣が、速さを増している。
速さだけなら、先程のレヴィの攻撃を圧倒的に上回っている。
そして次の瞬間、レヴィの頬に一筋の傷がつく。
「なッ!!」
驚きの表情を浮かべるレヴィ。
「今のはヒナの分だ。ヒナがやられた分」
そしてその一撃を皮切りに、次々とヒスイの攻撃がレヴィに直撃する。
腕、足、脇腹、頬、胸、瞬く間にレヴィの身体に傷がつく。
「そしてこれが俺の分、妹を傷つけられた俺の怒りだ。ちゃんと受け取ってくれたか?」
「テメェ...」
レヴィが怒りの籠った表情でそう呟いたかと思うと、剣を大きく振りかぶりヒスイを牽制する。
バックステップで間合いを取るヒスイ。
「攻撃はしないんじゃなかったのか?」
「サービス期間はお終いだ。とっととテメェをぶち殺してやる」
攻撃が軽かったせいで、ヒスイはレヴィに大したダメージを与えることができなかった。
レヴィが苛立ちと共にヒスイに斬りかかろうとする。
「そこまで!!」
しかし、それは予想外の一言によって止められた。
「レヴィ・バーブレスを続行不可能とみなし、ヒスイ・スーノロクの勝利!」
「なッ...!ふざけんな、俺様はまだやれ...」
「自分の剣を見てみろ、レヴィ」
レヴィの抗議する声を遮るように、ヒスイが言い放つ。
レヴィの剣を見ると、刀身がボロボロになっていて、とてもまともに使える状態ではなかった。
一方ヒスイの剣は殆ど
「あのまま真っ向から打ち合っていたら俺が負けていた。お前の敗因は俺を格下だと侮ったことだ」
そう吐き捨てると、剣を鞘へと仕舞い、踵を返して去っていくヒスイ。
「ふっざけんなッ...!俺様がこんなカスに負けるわけ無ェだろうがァッ!!!」
レヴィは怒りの叫びを上げ、ヒスイの背後へ斬りかかろうと地面を蹴る。
「なっ!?」
ヒスイが気配に気づいて振り返ったときには既に遅く、剣が防御不可能のところまで迫っていた。
(まずい、間に合わないッ!!)
☨
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