Episode 04「翡翠×朝=試験」

 入学式の翌日朝にて。


「おはよう。ヒスイくん、早いね。起きたらもう部屋にいないからびっくりしちゃったよ」

「ごめん、たまたま朝早く起きたから、一人でゆっくりしようと思って」

「そうなんだ。ところで、隣にいるのは、ルナトリアさんだよね?昨日はちゃんと挨拶できてなかったから。久しぶり、1年ぶりくらいかな?」


 微笑みながらルナトリアに話しかけるルクス。

 二人とも貴族の生まれだからか、昔からの顔なじみのようだ。


「久しぶり。確か、皇国魔導トーナメント以来だよね」

 ルナトリアの口からその言葉が出た瞬間、ルクスの頬が僅かに引き攣る。


「あの時は、私が勝っちゃったし、今回の試験はルクスくんに勝ちを譲ってあげてもいいけど?私、優しいから」


 ニヤリ、と薄笑いを浮かべながらルナトリアが放った言葉は、誰がどう聞いても挑発うしているようにしか聞こえなかった。

 ヒスイの直感が全力で警鐘を鳴らしている。


「いやいや、お構いなく。わざわざ譲ってもらわなくても、今回は僕が勝つから」

 いつの間にか二人の周りに黒いオーラが出ている(そう見えているだけ)。

 お互いの顔は極限まで引き攣り、血管が浮かび上がり、美しい顔を台無しにしている。


(どうしよう、止めた方がいいよね。なにかいい方法は...)

「二人は、昔からの友達なの?」

 苦し紛れに口を挟み、いったん冷戦を中断するヒスイ。


「「友達じゃないっ!!!」」

(そこは合うんだ...)

「その上でコイツとの関係を言うなら、ただの腐れ縁の知り合い。家同士の付き合いでよく関わる機会があっただけ。コイツの家も、四大貴族の一角だからね」

「そこまでいうなら僕も言わせてもらうけど、ルナトリアは昔っからなにかと僕に突っかかってきて面倒くさいんだよ!そのうえ勝つたびにいちいち煽ってくるし」


 今一瞬とんでもないカミングアウトがあった気がするがとりあえずスルーしておこう。


「それに、僕とルナトリアは同い年っていうのもあって昔から常に比べられてきたんだ。まぁ、僕の方が優秀だたっけどね。ルナトリアはよく負けて泣いてたよね」

「あはは、ルクスくん、自己紹介なら昨日したじゃん」

「いやぁ、ごめんごめん、あまりにルナトリアがブスになりすぎてて気づかなくてね」

「その言い方だと、昔は可愛いって思ってたんだ」

「いやいや、言葉の綾だよそんなこともわからないのか」

「あはははは」

「ははははは」

「「あはははははは」」


 二人とも口では笑っているけど目が全然笑っていない。


「ちょっと二人とも、喧嘩はその辺にしといたほうがいいんじゃない?ほら、みんな見てるよ」


 辺りを見回すと、気が付かないうちにかなりの生徒が登校してきていた。

 その内の何人かはヒスイたちを遠目に見ながらなにか話している。


「はぁ、仕方ない。今日この辺で許しといてあげるよ」

「許す?逃げるの間違いじゃなくて?まぁでも確かに、ここは一旦休戦した方がよさそうだね」


 二人は渋々矛を収めると、同時にヒスイに向き直った。


「ごめんね。止めてくれてありがとう、ヒスイくん」

「私も、迷惑かけちゃってごめん」

「いいよ、気にしないで。二人とも色々あったんだろうし」


 ルクスはそのまま自分の席へ戻ると、何やら勉強を始めた。

 教室の中にはもう相当生徒が登校してきていて、多少の騒がしさが辺りに満ちる。


「みなさ~ん、おはようございま~す」


 十分ほど経って、教室の扉が開いてアスナ先生が入ってくる。


「少し時間が押しているので~、とりあえず試験について説明しますね~」


 朝だからかより一層ゆったりとした口調で話すアスナ先生の話に耳を傾ける。


「今から皆さん受けてもらう試験は。大きく分けて、三つありま~す」


 指を三本立ててアピールする


「もう知ってると思うけど~、ウチの学校は世界で唯一、世界等級順位ワールドランクを模した、学園等級順位スクールカースト制度を導入しているんですよ~」


 "世界等級順位ワールドランク"、それは、頂上会議サミットによって、約15年前から制定された、魔術師の優劣を表すものだ。

 これまでは貿易以外で関わりの少なかった異国間での交流を増やし、さらに魔術師の競争心を促すことで互いの国のより一層の向上を目指すことを目的として制定された。


「今回の試験で~、皆さんの最初の順位だけじゃなくて階級も決まるので~、ぜひ全力で臨んでくださいね~」


 ここで名前が挙がったもう一つの制度、階級。

 こちらは順位を定めるものではなく、その魔術師の現在の実力を示すものだ。

 世界等級順位ワールドランクは、その人の実力ではなく実績で決まる。

 極論、弱い魔獣を討伐し続けていても順位は上がっていく。

 だが階級は違う。その人の魔力量、魔力操作精度など、純粋な魔術師としての力量で七つの階級に振り分けられる。

 上から順に、零級ジョーカー天級ワールド王級マジェスティー騎士級ナイト上級ハイクラス中級ミドルクラス下級ロウクラスだ。

 そして階級は、星遺物アーティファクト魔導具まどうぐといった物にも適用される。

 階級は、いわば魔術師や魔導具の力を正当に評価した、世界共通で信頼のおける評価基準だ。


「じゃあ、早速移動しますよ~。転移魔術で移動するので~、全員先生の周りに集まってくださ~い」


 そう言うと、魔術式の構築を始めるアスナ。


「我は旅人也…」


 アスナが詠唱の言葉を発するとともに、ヒスイたちの足元に大きな魔法陣が現れ、辺りを白い光が包み込んでいく。


「星々を渡り歩き、やがては天へと至る…」


 光は強さを増していき、眩しさのあまり思わず顔をしかめるヒスイ。


「闇は光へ、光は闇へ。異界の扉は開かれ、記憶は再現される…」


 その間にも光はどんどん強さを増していく。


「第七階梯魔術 ー方舟アークー」


 アスナ先生がそう唱えた瞬間、今までとは比較にならない強い光とともに、そこにいた全員の姿が消えた。

 身体が浮いているような感覚。まるで、無重力空間にいるようだ。

 数秒の間の後、徐々に光が弱まっていく。

 ヒスイは、眩んだ目を慣らしながら、少しずつ目を開く。

 視界に入ってきたのは、芝生が生えた広場とその奥に広がる森。そして、灰色の建物が一つに、巨大な円形の建物が一つ。


「みんな大丈夫ですか~?転移酔いした人はいませんか~?」


 アスナ先生がそう声をあげる。


「全員揃ってますね~。それじゃあ、今から試験について説明します~」

 第一回学園等級試験―――

 筆記、魔術、体力の三つの科目で実力を測り、それに基づいて学内等級順位スクールカーストが決定される。

 筆記は基礎学力、魔術は魔力量と魔力操作精度、体力は基礎体力と戦闘能力。

 これらの観点で試験が作られる。

 そして、学内等級順位スクールカーストが高い生徒ほど、学園内で大きな権限を与えられ、力を持つことになる。


「皆さんにはまず~、魔術試験から受けてもらいま~す。先生についてきて下さ~い」


 手を挙げてそういうと、先ほどの灰色の建物へと入っていくアスナ先生。

 ヒスイたちの初めての試験が、今始まった。

 


                 ☨

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