第12話:すれ違う想い、言葉にできない嘘

窓辺から差し込む午後の陽光が、部屋の奥まで温かく照らしていた。

その柔らかな光に反して、私の胸の中は澱んだ感情でいっぱいだった。


ミレーヌ様――彼女の表情が、最近どこかおかしい。

宴席での華やかな笑顔の裏に隠された影を、私は見逃さなかった。


「ミレーヌ様、少しお話しできませんか?」


図書室の静けさの中で、私はそう声をかけた。

彼女は本を閉じ、ゆっくりと顔を上げた。けれど、その瞳はどこか遠くを見つめている。


「リディア……どうして私に話しかけるの?」


その声には、少しだけ警戒が混じっていた。

私たちは同じ“彼”を愛している。

それだけで、どこか距離ができてしまうのだろうか。


「最近、あなたが疲れているのが分かる。あなたが一人で抱え込む必要はないわ」


私は少しでも彼女の心が軽くなればと願った。

でも、彼女は微かに首を振った。


「ありがとう、でも私は大丈夫よ。リディアは……彼のことをどう思っているの?」


私の問いに、ミレーヌ様は少しだけ戸惑ったように目を伏せた。

「リディアは……優しい人ね。彼もそう感じているはずよ」


「でも、あなたたちは?」


その質問に、彼女は黙り込んだ。

やがて、か細い声で言った。


「私は、彼に……愛されていると信じていた」


その言葉が胸を締め付ける。

彼女もまた、誰よりも彼を求めていることが痛いほど伝わってきた。


「だけど、最近はその気持ちが揺らいで……怖いの」


涙が一粒、頬を伝った。

私もまた、胸の奥が熱くなった。


「ミレーヌ……私たち、きっと同じ気持ちよ」


私はそっと彼女の手を握った。

お互いに言葉にできない思いを、少しだけ分かち合えた気がした。


けれど、そんな私たちの間にも溝はあった。


「リディア、私たちは……どうすればいいの?」


その問いに、私は答えられなかった。


誰もが幸せになれる結末なんて、きっとない。

それでも、私は諦めるわけにはいかなかった。


彼を愛してしまった以上。

それがどれほど苦しい運命であっても。


陽光はまだ部屋を満たしている。

けれど、私たちの心には、暗い影が差し込んでいた。

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