ダンジョンの幽霊編
第1話 幽霊、話題をさらう
【ダンジョン実況板『刃桜の剣舞』スレ part341】
14 :名無しの視聴者
配信始まったァァァァ!!
17 :名無しの視聴者
今日は『白影の洞』かー、B級の中でも罠キツめなとこだっけ?
20 :名無しの視聴者
カメラえぐ、画質やば
光の入り方綺麗すぎて映画じゃん……
22 :名無しの視聴者
「本日はB級ダンジョン『白影の洞』に挑みます」
この一言でもう震えてる俺がいる
25 :名無しの視聴者
服、今日もセンス良すぎる
私服の上に軽鎧ってあんな似合う??
28 :名無しの視聴者
カーディガンと鎧って普通喧嘩するのに、あのまとまり感は何?
30 :●推し刀子絶対信者(狂)●
ふおおおおおお!!!
刀子様ぁぁぁぁぁぁ!!!
軽鎧がぁぁぁ!!文明が滅びるううう!!!
32 :名無しの視聴者
≫30
うるせぇけど言いたいことは分かるw
36 :名無しの視聴者
もう最初の斬撃で鳥肌立った
やっぱり刃桜様の剣舞、唯一無二だわ……
38 :名無しの視聴者
剣技に合わせて髪とスカートがふわってなってんのヤバい
演出じゃなくてあれ実力だよね?
43 :◆KsT0kn//8o
スケルトンの初期配置と処理速度からして、動体視力と地形把握のスキルが極めて高いです
実際、敵を誘導して壁際で纏めているのは明確な戦術ですね
48 :名無しの視聴者
うおおおぉぉぉぉ!
火札炸裂ゥゥゥ!!派手すぎィィ!!
50 :名無しの視聴者
札爆発からの回転斬りでスケルトン消し飛んだww
何回見ても飽きん!
53 :◆Sl1m3LOv3
スライムは!?今日のダンジョンには出ないの!?!?
ぷにぷにしてるやついないの!?
55 :◆KsT0kn//8o
≫53
残念ながらスライム系は出現しません
このダンジョンはアンデッド系の比率が高く、今回の階層ではリッチやワイトも確認されています
60 :名無しの視聴者
ふつうに参考になる考察班すき
62 :名無しの視聴者
わあああああ!?
モンスターハウス!!やばいやばい囲まれてる!!
64 :名無しの視聴者
ドローン視点、スケルトンの数多すぎィィ!!
30体以上いるぞこれ!!
67 :名無しの視聴者
あ、でも処理速度エグい
囲まれても冷静に捌いてる刃桜様……惚れ直した……
69 :名無しの視聴者
動きに淀みが出てきた……
ちょっと疲れてるっぽい?
71 :名無しの視聴者
奥からなんか来た!でかい!
……マント……杖……え、あれ、もしかしてリッチ!?
73 :名無しの視聴者
おわったああああああ!!!
リッチ来たああああ!!!
75 :●推し刀子絶対信者(狂)●
ぎゃあああああああああ!!
刀子様があああああ!!血ィィィィ!!!
だれかあああ助けてええええ!!!
78 :名無しの視聴者
いやマジでやばい、符術すら通らない!?
刀子様の札が……吸われてる!?
80 :名無しの視聴者
カメラ揺れてきた、ドローン耐えてくれ……!
82 :名無しの視聴者
あ……画面に……
なにか、白い……人影?
85 :名無しの視聴者
フード……双剣!?
めちゃくちゃ速い!ドローン追えてねぇ!!!
88 :名無しの視聴者
影から出てきてリッチ斬った!?!?!?
マジでなにこれ!?
90 :名無しの視聴者
うおおおぉぉぉぉ!
美少女!?美少女きたああああ!!
92 :名無しの視聴者
斬った斬った斬った!!リッチ真っ二つwww
速すぎる!動きエグいって!
95 :◆KsT0kn//8o
影を使った瞬間移動、分身、視覚妨害──
全て“虚術”に分類されるスキルです
扱える者は非常に少数。しかもこの精度……規格外です
98 :◆Sl1m3LOv3
白い髪と赤い目!超きれいだったよね!?
なんかふわってしててカッコよかった!!!
100 :名無しの視聴者
刀子様の前に立って、守って……
そっと触れて……そして……
102 :名無しの視聴者
影に消えた……
え、あれ本当に人間か?
105 :名無しの視聴者
配信、切れた……
ノーコメントで終わった……
110 :名無しの視聴者
あの子、誰!?
刃桜様と面識あんの!?
112 :名無しの視聴者
白髪赤目のフードの子で、双剣でリッチ斬るって何者よマジで……
115 :◆KsT0kn//8o
「ダンジョンの幽霊」と呼ばれる都市伝説をご存じでしょうか
探索者登録されていないが、度々配信に映り込む謎の存在
外見、挙動、スキル構成からして、一致する可能性が高いです
118 :名無しの視聴者
≫115
それマジでいたの!?都市伝説じゃなかったの!?
120 :名無しの視聴者
名前も出てないのにもう人気出てるの草
“月影の剣士”とか“影の白花”とかタグ増えすぎw
123 :名無しの視聴者
刀子様、助けられた後ちょっと表情緩んでたよな……
125 :名無しの視聴者
≫123
あれ完全に“乙女の顔”だった……
普段とのギャップにやられた……
128 :●推し刀子絶対信者(狂)●
刀子様が誰かに助けられるとか尊すぎて爆発した!!!!
新時代の幕開けを見た気がするぅぅぅぅぅ!!!
131 :◆KsT0kn//8o
今回の件で“幽霊”の実在性が強まりました
ただし現時点で探索者登録記録はなし
もしかすると、非登録で活動している個人か、あるいは……
135 :◆Sl1m3LOv3
また出てきてくれないかなー!
今度はスライムと戦ってほしいな!!
137 :名無しの視聴者
≫135
スライムにこだわりすぎwww
でもまあ、次も見たいよな
140 :名無しの視聴者
組合動くかな?誰か正体追いそう……
143 :名無しの視聴者
≫140
特定班、動きそうだな
次スレが地獄になる予感しかしないww
◇◇◇
教室の窓辺に座りながら、桜井刀子はスマートフォンの画面をじっと見つめていた。
掲示板には、昨夜の配信に関する書き込みが数千件単位で連なっている。あのとき映った“白い影”――自分を救ったあの少女の話題で、どこも持ちきりだった。
(……やっぱり、見間違いなんかじゃなかった)
影から現れ、リッチを一撃で斃した白髪の少女。双剣を構えたその姿は、夢幻のようだった。
ふと、刀子の指先がスマホのガラスをなぞる。まとめ動画のサムネイルに映る“あの子”。その小さなシルエットに指先が触れた。ただそれだけで胸の奥から、熱がこみ上げる。
「……っ」
軽く吐いた息は、なぜか少しだけ震えていた。頬がほんのりと紅を差しているのを、自分でもわかる。
「刀子ちゃん?」
ふいに声をかけられ、刀子は肩をびくりと震わせた。
振り向けば、隣の席の友人――柚月が、心配そうに覗き込んでいる。
「お顔が赤いですけど~、大丈夫ですか~? もしかしたら、風邪ですか?」
「あっ、い、いや……違うの、ちょっと画面が眩しくてさ」
刀子は慌ててスマホの画面を伏せた。
掲示板なんて、王子様然とした自分が見るようなものじゃない。そう思っているのは周囲だけでなく、本人もまた、演じ続けることに少なからずの自負があった。
柚月はそれ以上深く突っ込むことはせず、にこりと笑う。
「よかったです~。……無理はしないでくださいね、今日のホームルーム終わったら保健室寄ってみたらいかがでしょう~?」
「うん。ありがとう、柚月」
そう答えながらも、刀子の指は机の下でスマホのロックを解除していた。
そうして代わり映えのない授業が始まる。そんな中でも刀子の頭は昨日の出来事でいっぱいだった。
(そうだ。冒険者組合なら……。冒険者なら登録は必須。組合になら名簿があるかも!)
彼女の正体が、そこにあるかもしれない。あの幻のような出会いが、もう一度訪れる可能性が――
放課後のチャイムが鳴ると同時に、刀子は教室を出た。カバンを片手に、いつもより早足で階段を駆け下りる。
その胸の奥に芽生えた想いを自分でもまだ言葉にできぬまま、刀子は冒険者組合へと向かった。
◇◇◇
「おーい、高宮ー」
午後の陽が差す別の教室。窓側の席に座る高宮千尋は、机に突っ伏していた。
パーカーのフードを軽くかぶったその姿に、同じクラスの悪友、広瀬ナオキが遠慮なく声をかける。
「なに寝てんだよ、お前ニュース見てねーの?」
「んー……? 課題やってて寝不足なんだって。ニュースって?」
千尋は顔を上げるが、さる理由で碌すっぽ寝ておらず眠たそうな黒目はまるでやる気を感じさせない。
だがナオキはお構いなしに、にやにやしながらスマホを千尋の顔の前に突き出した。
「昨日の刃桜様の配信、切り抜きがバズってんの。ほら、これ!」
「うぇっ!?」
画面に映るのは――あの場面。
リッチに追い詰められた刀子を、影の中から現れたフードの人物が救う場面だった。
二刀を振るい、影を操る“謎の美少女”。
その姿によぅく見覚えのある千尋は、開いた口が塞がらなかった。
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