ご主人様だけ♥ 奴隷一号の尽くすしかないハーレムでの大人な私のハッピースローライフ
五平
第1話:奈落の底で、光を見た日
薄暗いの。
湿った土の匂いとね、
獣の排泄物が混じった、
不快な空気が肌を這うの。
私の身体はね、
鉄格子に囲まれた狭い檻の中で、
まるで使い古された雑巾みたいに、
冷たくて、かたくなって、
小さく、縮こまっていたの。
縄でぎゅっと縛られた手首や足首はね、
お肌がむけて、
血がにじんでいるの。
もう、痛みだってね、
ずっと昔のことみたいに、
どこかへいっちゃったの。
むかしはね、
あたしも剣を持っていたの。
広大な世界を、
駆け回っていた冒険者だったのよ。
風を切り、魔物を討ち、
仲間と、いっぱい笑い合った日もあったの。
自由で、
冒険するのが、
胸が熱くなるくらい大好きだったの。
でもね、
それは全て、
遠い昔のお話。
いま、あたしの目の前にあるのはね、
ただ、つらいことばっかりの、
本当のことだけなの。
だまし討ち。
罠。
仲間って思ってた人たちのね、
つめたい嘲笑。
全部、なくしちゃった。
剣はね、ぽきっと折れちゃったし、
信じていた気持ちも、こわされちゃった。
体も心もね、
もう、へとへと。
動かない右半分はね、
なんだか、あたしの体じゃないみたい。
動かないの。
なんにも感じないの。
もう、完全に、
動かなくなっちゃったの。
そんなあたしを、
この、いやな奴隷商の檻にね、
もう、何の価値もない、
ただのけものみたいに、
投げ込まれたの。
お腹はペコペコで、
胃袋がぎゅっと縮むの。
喉はカラカラで、
か細い声すら出ないの。
もはや、生きる元気も、
生きる意味も、
どこにも見当たらないの。
あたしはね、
ただ、死にたいって願ったの。
こんな、はずかしい毎日から、
こんな、動かない体から、
解放されたいって、
ただ、そればっかり考えていたの。
買われてね、
おもちゃにされて、
ボロボロになるまで使われて、
きっと、そのまま、
誰にも知られずに死んじゃうんだろうなって。
そう、あきらめていたの。
その、ときだったの。
薄暗い檻の向こうにね、
影が見えたの。
逆光の中、
ゆっくりと近づいてくるのは、
見慣れない男。
私が今まで見てきた、
どの国の者とも異なる、
とっても珍しい、
異国のお顔立ちなの。
なんだか冷たい感じだけど、
なんだか、とっても深い目をしているの。
その口元にはね、
うすーく、なんだか馬鹿にするみたいな、
笑い顔が浮かんでいたの。
「ふん、ゴミの中から、
使える駒を探しているんだが、
お前は、まだ使い物になるか?」
彼の視線がね、
私の小さな体へ向けられるの。
侮蔑。
値踏み。
その視線がね、
私に残された僅かな自尊心を、
さらに深く抉ったの。
奴隷商のおじさんがね、
彼の隣に出てくるの。
薄汚れた口髭を撫で、
嫌らしい笑みを浮かべたの。
「これは、冒険者崩れの女ですよ。
半身が麻痺していて、
正直、商品価値は最低です。
ですが、まだ息はありますし、
顔だけは辛うじて。
お安くしておきますよ、旦那様」
彼はね、奴隷商のおじさんの言葉を、
鼻で笑ったの。
「ほう、ゴミが喋るか。
面白い。
だが、使い物にならぬのなら、
それなりの値しかつけぬぞ?」
それからね、冷酷な目で私を見下ろし、
きっぱりと言い放ったの。
「女ってことしか、
価値がないようだな。
半身麻痺の不良品を、
高値で買う趣味はない」
その言葉がね、
あたしの耳の奥で、
重く、響いたの。
ああ、やっぱり。
私はね、
その程度の存在でしかないんだなって。
交渉が始まる。
私の身体がね、
無慈悲に品定めされるの。
その言葉のやり取りがね、
私の耳にはね、
もう遠い、
子守唄みたいに聞こえていたの。
やがて、
話がまとまったみたい。
奴隷商のおじさんが、
醜い笑みを浮かべて、
私を指さしたの。
「さあ、旦那様、
この不良品をどうぞ」
彼はね、
私を見下ろしながら、
つめたいおめめのまま、
優雅に笑ったの。
「お前は、私のものだ」
あたしの意識はね、
そこで、ぷつん、って途切れちゃった。
買われた。
ああ、結局こうなっちゃうのね。
私は、
このまま、
誰かの好き勝手に弄ばれる
おもちゃにされて、
使い潰されて、
きっと、そのまま、
誰にも知られずに死んじゃうだけ。
そんな未来しかね、
あたしには残されていないんだって。
絶望だけが、
心に、いっぱいになったの。
次に目覚めたのはね、
奴隷商の檻とは比べものにならないくらい、
きれいで、やわらかい、
ベッドの上だったの。
あたしはね、
ぼんやりと天井を見つめるの。
夢、だったのかなって。
まだ、あの檻の中にいるはずなのにって。
体はね、
信じられないくらい軽いの。
お腹の減った感じも、
喉の渇きも、
痛みも、
どこにも感じられないの。
そして、何よりも。
動かなかったはずの、
あたしの小さな右半分がね、
まるで何もなかったみたいに、
そこにあったの。
指先が、ぴくり、って動くの。
足にも、力が、入るの。
半身麻痺だった体がね、
完全に、癒えているの。
夢じゃない。
お部屋の隅にね、
彼が立っていたの。
あたしを買い取った、
つめたいおめめの彼。
彼がね、
あたしを見下ろしながら、
つめたいおめめのまま、
優雅に笑ったの。
「目が覚めたか。
お前のその体は、
もう完全に治っている」
その言葉にね、
あたしはね、
呆然としながらも、
自分の体を確かめたの。
本当に、動く。
剣を握るためにあった、
この小さな右腕が、
また、あたしのものになったの。
彼がね、続けて、
冷酷な声で、きっぱりと言い放ったの。
「さあ、行け。
お前には、もう用が無い。
自由だ」
その言葉がね、
あたしの耳に響いた瞬間。
あたしの全身をね、
これまで感じたことのない、
温かい熱がね、
渦巻くように駆け巡ったの。
死んだと思っていた心が、
ドクン、って動き出すの。
自由。
あたしを、解放した?
しかもね、治してくれた上で?
でもね、
あたしの口から出たのは、
ありがとう、じゃなかったの。
どうして?って、
なんだか、混乱したの。
「な、なぜ……?」
あたしはね、
呆然と、
彼を見上げたの。
どうして、あたしみたいな、
価値がないって罵られた不良品を、
わざわざ治してまで、
自由にするって言うの?
この人の考えていることが、
ぜんぜん分からないの。
彼がね、あたしの問いに、
つめたい笑みを深くしたの。
そしてね、はっきりと教えてくれたの。
「理由は簡単だ。
お前から、魔王を手に入れるための手段をもらった。
それだけで、充分だ」
その言葉にね、
あたしはね、
息をのんだの。
魔王を、手に入れる…?
あたしが?
いったい、どうやって?
私から何をもらったっていうの?
なんだか、ぜんぜん思い当たらないの。
彼がね、
あたしの混乱なんて、
気にする様子もなく、
悠然と歩き出したの。
「これから、俺は魔王を手に入れてくる。
当座の金は渡してやる。
俺が戻ってくる前にどうするか、決めておけ」
そう言い残すと、
彼が、
後ろを振り返ることもなく、
お部屋を出ていっちゃったの。
残された私は、
お部屋の真ん中で、
ただ、ぼーっと立ち尽くしたの。
手の中には、
彼が放り投げたらしい、
ずっしりとした金貨の袋。
半身麻痺は治ったし、
体は完璧に動くの。
自由。
お金も、ある。
でもね。
私にはね、
もう、
何も残っていなかったの。
故郷は、なくなったし、
仲間もいない。
剣はね、ぽきっと折れたままだし、
冒険者として生きる道もね、
もう、ないの。
体は動くようになったけど、
この広大な世界で、
私にはもう、
行く場所もね、
進むべき道もね、
そして、「やること」が、
何もないのよ。
この金でね、
宿屋に泊まることは、
できるんだろうけど。
宿屋に泊まって、
それから、どうするの?
明日、あたしはね、
何をすればいいの?
あたしには、
目指す場所もないし、
何の縁もないの。
この、
命を与えてくれて、
自由をくれた恩人に、
私は、
いったい何を、
返せるというのだろう?
無力感が、
再び私を襲うの。
せっかく救ってもらったのに、
何の役にも立てない。
このままね、
一人で生きていけって言われても、
私にはね、
もう、生きる方法も、
生きる意味も、
見つからないの。
そんな私の心を見透かすみたいに、
彼がね、
一歩、近づいたの。
彼の影が、
私を包み込む。
そしてね、
そのつめたい瞳の奥に、
ほんの少し、
でも確かな光を宿して、
私を見下ろして、教えてくれたの。
「いいや、違う。
お前には、できることがある。
私に、尽くすことだ」
その言葉はね、
あたしの耳に、
まるで天啓のように響いたの。
そうよ。
他に、
私には「やること」なんて、
もう、何もないんだもの。
全てを失い、
動けない体で、
もうだめだって思っていた私に、
命をくれて、
自由をくれた恩人。
その人に、
ひたすら尽くすこと。
この体を、
この心を、
この命を、
全部、あげて、
彼のために生きること。
それこそが、
私のたった一つの、
存在の理由であり、
たった一つの願いなの。
彼の言葉がね、
空っぽだった私の心を、
いっぱい、いっぱいにしてくれたの。
「はい…!
ご主人様…!」
あたしはね、
ふるえる声で答えたの。
こわいんじゃないの。
深い理解と、
そしてね、
もう、逆らえないくらい、
しずかで、
幸せな気持ちになったの。
そしてね、
私は、
小さく、
「ふふっ」
て、笑っちゃったの。
「これって…
女の子に生まれてきて、
最高の幸せ…だったり、するのかな…」
ご主人様。
私の命をくれた人。
私の、ただ一つの光。
私の、全て。
その日、
私はね、
奴隷だった私から、
ご主人様のね、
「奴隷一号」にね、
生まれ変わったの。
そしてね、
あたしの心は、
ご主人様に尽くすっていう、
なんだか、ちょっと変わってるけど、
でも、確かに幸せな、
「スローライフ」にね、
一歩、足を踏み出したの。
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