第2話:魔王との出会い、ハーレムの始まり

ご主人様がお部屋を出ていって、

扉が静かに、でもね、

なんだか重い音を立てて閉まったの。

私だけが、

宿屋の一室に、

ぽつんと残されてしまったのよ。

窓から差し込む光もね、

なんだか、さみしい色に見えたの。

あの広い世界にね、

私だけが、

また、

一人ぼっちに、

なってしまったような気がして、

胸が、

きゅーって、

締め付けられるの。


私はね、

ひたすら、

ご主人様の帰りを待っていたの。

窓の外はね、

朝から夜へ、

夜から朝へと、

何度も、何度も、

移り変わっていくの。

日が昇り、

日が沈み、

月が満ちては欠けていく。

季節すらも、

ご主人様がいないと、

色褪せて、

意味を持たないの。


時間なんてね、

私にはもう、

どうでもいいことだったの。

だってね、

私には、

ご主人様が帰ってくること以外、

「やること」なんて、

何一つないんだもの。

他に、

何をすればいいの?

何ができるの?

無意味よ。


ご主人様が、

「俺が戻ってくる前にどうするか、決めておけ」

そう、おっしゃったわ。

私の答えはね、

もう、決まっているの。

ご主人様に、尽くす。

それだけなの。

それしか、ないの。

他に、

何があるというの?

考えたって、

無駄なことだわ。


だからね、

私は、

ご主人様がいつ帰ってきても、

完璧な奉仕ができるように、

準備を始めたの。

私の全てを、

ご主人様のために、

磨き上げるの。


まずはね、

この宿屋のお部屋を、

隅々まで、

きれいにしたの。

床を磨いて、

埃一つないように、

光らせるの。

窓を拭いて、

外の景色が、

ご主人様の目に、

少しでも、

美しく映るようにって。

ベッドのシーツもね、

しわ一つないように、

ピンと張ったの。

ご主人様がね、

もし、このお部屋に戻ってきてくださったら、

きっと、

気持ちよく過ごしてくださるはずだわ。

私の奉仕で、

ご主人様が、

安らぐ姿を想像するとね、

胸が、

いっぱいに、

満たされるの。


でもね、

それだけじゃ、足りないの。

こんな簡単なことだけじゃ、

ご主人様への、

私の感謝と、

愛は、

とてもじゃないけど、

表せないのよ。

ご主人様はね、

私に、

命をくれたのよ。

自由をくれたのよ。

この、

完璧な身体を、

もう一度、与えてくれたの。

私みたいな汚れた奴隷がね、

こんなにも素晴らしい恩恵を、

受けたのだから。

それなのにね、

私、

何も返せていないの。

このままじゃ、

ご主人様に、

申し訳ないわ。

ご主人様に、

相応しい奉仕を、

しなければ。


どうすれば、

ご主人様に、

喜んでいただけるのかしら?

私の頭の中はね、

そればかりで、

いっぱいになったの。

もう、パンクしそうなくらい、

ご主人様のことで、

思考が埋め尽くされているのよ!


ご主人様は、何を望んでいらっしゃるのかしら?

私に、何を求めていらっしゃるのかしら?

私にできる、最高の奉仕って、一体、何だろう?

この命、この身体、この魂、

全てを使って、

ご主人様のために、

何をすれば、

ご主人様は、

私を、

認めてくださるのかしら?


考えれば考えるほどね、

私の頭は、

ぐるぐる、ぐるぐる、

回り始めたの。

止まらないの。

まるで、

壊れた歯車みたいにね。

熱い。

頭の中が、

燃えるみたいに熱いの。


ご主人様はね、

「魔王を手に入れるための手段を、お前から得た」

そう、おっしゃっていたわ。

それが何なのか、

私には、ぜんぜん分からないの。

でもね、

ご主人様が、

私を使って、

その目的を達成してくださったのなら、

それだけで、

私は、

最高の喜びなの。

私の存在が、

ご主人様の偉大な目的に、

貢献できるなんて。


もしかして、ご主人様は、

私が、

ご主人様のことを、

四六時中、

考えていることを、

望んでいらっしゃるのかしら?

私が、

ご主人様のために、

どれだけ、

思考を巡らせているかを、

お知りになりたいのかしら?

そうよ。

きっと、そうなのね。

私の全てを、

ご主人様に捧げる。

考えることすらも、

ご主人様への奉仕なのね。


そう考えたらね、

私の心は、

温かいもので、

いっぱいになったの。

そうよ。

ご主人様のために、

考えること。

それもまた、

奉仕なのね。

私の思考回路はね、

もう、ご主人様のために、

完全に、

書き換えられてしまったの。

嬉しいわ。

ご主人様だけのものになれた。


私はね、

目を閉じて、

ご主人様のことを、

思い描いたの。

冷たいお顔立ち。

深い瞳。

馬鹿にするような、

うすーい笑み。

その全てがね、

私にとっては、

神様みたいに、

尊いものだったの。

ご主人様の、

その姿を、

思い浮かべるだけで、

私の心はね、

陶酔に浸るの。


ご主人様は、今頃、

どこで、

何をしていらっしゃるのかしら?

きっと、

魔王様を、

手に入れるために、

大変な旅を、

していらっしゃるのね。

私が、

ご主人様の代わりに、

何か、

できることはないかしら?

遠く離れていても、

ご主人様に尽くしたい。

この、

熱い思いを、

ご主人様に届けたいの。


私の思考はね、

ご主人様のことばかり。

朝も、夜も、

夢の中でも、

ご主人様のことだけを、

考えていたの。

まるでね、

私の脳みそがね、

ご主人様のために、

完全に、

プログラムされたみたいにね。

もう、他のことなんて、

考えられない。

考える必要もない。

私の全ては、

ご主人様に繋がっているのだから。


ご主人様が、

もし、

お疲れになって、

お部屋に戻ってこられたら、

私が、

一番最初に、

お出迎えして、

お体を拭いて差し上げて、

温かいお食事を、

ご用意して差し上げて……


妄想がね、

どんどん、

膨らんでいくの。

止まらないの。

私の心はね、

ご主人様への奉仕で、

いっぱい、いっぱいになったの。

それがね、

私にとって、

最高の幸福だったのよ。

早く、

ご主人様に戻ってきてほしい。

私の、

この溢れんばかりの奉仕欲を、

受け止めてほしいの。


そうしてね、

数週間が過ぎたの。

宿屋の従業員たちはね、

私がずっと部屋に引きこもっていることを、

不思議に思っていたみたいだけど、

私にはね、

そんなこと、

どうでもよかったの。

だって、

私の全ては、

ご主人様のためにあるんだもの。

彼らのような、

ご主人様とは関係ない人間なんて、

私にとっては、

ただの背景に過ぎないのよ。


ある日の夕暮れ時。

宿屋の玄関からね,

聞き慣れた足音が、

聞こえてきたの。

ドクン、ドクン。

私の心臓がね、

激しく鳴り響いたの。

ご主人様だわ!

間違いない!

あの、

冷たくも力強い足音!


私はね、

急いで玄関へ駆けつけたの。

扉を開けるとね、

そこに立っていたのは、

まぎれもなく、

私の、

ご主人様だったの。

ああ、ご主人様!

やっと、

やっと、

お戻りになったのね!


ご主人様はね、

以前と変わらず、

冷たいお顔立ちで、

深い瞳をしていたの。

でもね、

その隣には、

見慣れない、

幼い少女の姿があったの。


その少女はね、

真っ黒な髪に、

真紅の瞳。

小さな体からはね、

なんだか、

ものすごい魔力が、

溢れ出ているのが分かったの。

それが、

魔王様。

ご主人様が、

手に入れてきた、

魔王様なのね。

なんて、

素晴らしいの!

ご主人様は、

本当に、

魔王様を、

手に入れたのね!


魔王様はね、

ご主人様の隣で、

なんだか、

不機嫌そうな顔をしていたの。

瞳の奥にはね、

ごく微かな、

反抗の色が宿っているのが見えたわ。

でもね、

ご主人様は、

そんな魔王様を、

まるで、

手に入れたばかりの、

新しいおもちゃみたいに、

楽しそうに、

見つめていたの。

なんて、

賢いご主人様なのかしら。

魔王様すら、

ご主人様の手のひらの上なのね。


私はね、

ご主人様が、

目的を達成されたことに、

心底から、

喜びが込み上げてきたの。

ああ、ご主人様は、

こんなにも、

素晴らしいことを、

成し遂げられたのね。

なんて、

お強いのかしら。

なんて、

賢いのかしら。


私はね、

魔王様を、

じっと見つめたの。

ご主人様が、

手に入れてきた、

大切な、大切な、

宝物。

私にとってね、

魔王様は、

ご主人様と同じくらい、

尊い存在なの。

ご主人様の大切なものは、

私にとっても、

大切なのよ。


私はね、

魔王様に向かって、

にこっと、

微笑みかけたの。

そしてね、

深々と、

頭を下げたの。


「魔王様、

ようこそ、

ご主人様の元へ」


魔王様はね、

私の言葉に、

なんだか、

戸惑っているみたいだったわ。

真紅の瞳がね、

きょろきょろと、

私とご主人様の間を、

行ったり来たりするの。

その表情はね、

不満げに見えたけど、

私にはね、

それが、

「ご主人様への照れ」や、

「新しい環境への戸惑い」に、

見えたの。


ああ、魔王様は、

きっと、

ご主人様のことが、

大好きすぎて、

どうすればいいか、

分からなくなっているのね。

なんて、

可愛らしいのかしら。


私はね、

魔王様の手を、

そっと取ったの。

メア様はね、

わずかに、

手を、

振り払おうとしたの。

でもね、

それすら可愛いわ。

怯える姿を見せてくれるのも、

私にね、

少しだけ、

心を開いている証拠なのね。

そう、私は歪曲解釈するの。

そしてね、

優しく、

微笑みかけたの。


「さあ、魔王様。

お疲れでしょう?

私が、

お部屋へご案内いたしますね。

ご主人様も、

きっと、

お疲れでしょうから、

ゆっくりお休みになってくださいね」


魔王様はね、

私の言葉に、

何も言わなかったの。

ただ、

されるがままに、

私に手を引かれて、

宿屋の中へと、

入っていったの。


ご主人様はね、

そんな私たちを、

面白そうに、

見つめていたわ。

その口元にはね、

相変わらず、

うすーい笑みが浮かんでいたの。

まるで、

全てを、

見透かしているみたいにね。


私はね、

魔王様を、

ご主人様が用意してくださった、

一番良いお部屋へ、

ご案内したの。

そしてね、

魔王様の髪を、

優しく、

梳かして差し上げたの。


サラサラと、

髪が指の間を滑っていくの。

その感触がね、

なんだか、

ご主人様に抱かれる自分を、

重ねているみたいで、

私の心はね、

甘美な気持ちで、

いっぱいになったの。


魔王様の髪を梳かす私の指先からね、

うっかり、

温かいものが、

ぽろり、って、

こぼれ落ちたの。

それはね、

涙。

どうして、

涙が出るのか、

自分でも分からないの。

悲しいわけじゃない。

嬉しいの。

ご主人様のために、

こうして奉仕できることが、

ただただ、嬉しいのよ。

きっと、

私の本能がね、

ご主人様への奉仕に、

震えているからなのね。

そう、理解したの。


メア様の身体からね、

漂う、

かすかな匂い。

それもね、

ご主人様に触れられた後の、

ご主人様の匂いと、

混じっているみたいでね。

私の鼻の奥がね、

ツン、ってなって、

胸が、

きゅーって、

身悶えするの。

ああ、

なんて、

甘美な匂いなのかしら。


こうしてね、

ご主人様のハーレムの、

最初の仲間が、

私の目の前に現れたの。

ご主人様の、

新しい「スローライフ」が、

ここから、

始まるのね。

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