第42話 初めてのお買い物!

 ソフィーと私の間にステラを挟んで手をつなぎ、道を歩く。純白のワンピースに麦わら帽子をかぶり楽しそうに歩くステラの姿を見て私たちはほっとした気分になる。幸せの時間だ。

 十数分も歩いていると十三区よりはるかに広大な広場が見えた。


「うわーっ、すごい!中央だとこんなに大きいんだ!」


「そうね、今日一日じゃ回れなさそう」


 構造自体は十三区の物と大して差はないのだが規模が全然違う。一店一店がコンビニ並みの大きさで立ち並んでいる。

 これは目的のものを売っている店を探すのすら大変だぞ。


「今日は何買うのー?」


「えっとねぇ、ゴブリンとウェアウルフの皮や肉の耐性や性質を調べるために毒なめことフラッパ草、あとは試験薬も買いたいかなぁ。ソフィーはほかに何か買うものある?」


「そうねぇ、ちょっと服を買いたいかも。私もノルンも服が傷んできたから、新しくしたいし」


「よし!じゃあ午前中は本業の買い物で、昼食後はウィンドウショッピングといこう!」


 一度来たことがあったらしいステラに案内されながら素材を専門に扱う店を練りまわる。十三区では見なかったような素材がたくさんあってついつい予定以上に狩ってしまいそうになる。

 ソフィーが止めてくれたおかげで我慢できたし、ソフィーが我慢できそうにないときも私が止められたから次からもみんなで来よう。


「いやー買った買った、荷物が重たい!」


「さすがにこの量は持つのも大変だし、ミラベル配送を使った方がよさそうね」


「なにそれ?」


「最近できた宅配サービスよ、荷物に住所の張り紙をつけておいておくと運んでくれるの。さっさと済ませて昼食と行きましょう」


 ソフィーに言われる通りの手順を踏むと羊が現れて運んで行ってくれた。

 しかしサービス名といい羊についていたマークといいこれって。


「もしかしなくてもまだ見ぬメイベルちゃんが作ったやつ?」


「そうだよー!メイベルちゃんはねー!生き物の有効活用について研究してるの!これはその一環だけどうまくいったみたいだね!」


 ほえー、私たちも負けないよう頑張らなきゃなぁ。さすがにそろそろ姿も見てみたいし帰ったら一回訪問してみよ。


「さ、ご飯に行くわよ。ステラ、なにがいい?」


 ステラは唐突に話を振られてうーんうーんと悩んだのちこう答えた。


「お母さんたちの故郷の料理がいいな!」


「そんなのでいいの?もっとおしゃれな店とかあると思うけど」


「ううん、それがいいの!お母さんたちのこともっと知りたいから!」


 なんていい子なんだろう。よーしそうと決まればあそこに行くしかない!

 そうしてやってきたのはそう、ゴリトスの腕力チキン。十三区じゃ暇なときはずっとこれ食べてたし、ぜひステラにも食べてもらいたい!

 注文を済ませて席に座り、三分ほど経ったところで運ばれてきた。


「さ、ステラちゃん。これがお母さんたちの地元で結構有名な腕力チキンだよ!」


「おいしそう!いただきまーす!」


「「いただきます」」


 さっそく一口、うーんおいしい!中央に来てもその味は健在!

 スパイスがしっかり効いてて食欲がどんどん促進されるこの感じ、やっぱり最高ー!


「やっぱおいしいね」


「まあそうね、食べなれた味だわ」


「ちょっと辛いけどおいしー!」


 あ、確かにステラにはちょっと辛いかもしれない。

 だったらあれ取ってきた方がいいよな。


「私牛乳取ってくるから、ちょっと待っててね」


「はーい」「気を付けるのよ」


 辛いものと言えばやはり牛乳だろう。

 店に戻ってミルクを三杯頼む、よく冷えていておいしそう、この場で飲みたいぐらいだ。

 トレイに三つとも乗せて運んでいると、死角から男がぶつかってきた。


「きゃっ!」

「おっと、お嬢さんごめんよ。大丈夫かい?」


 ぶつかった相手が手を差し伸べたのでそれを握って立ち上がる。

 すいませんと謝罪しようと思ったが振り向いた時にはいなかった。


「うーん、忙しかったのかなぁ」


 少し濡れた服を拭こうとハンカチの入っているポケットに手を突っ込むとない。

 財布がない。焦って片方のポケットを漁るが見つからない。

 私が困っているとソフィーとステラがやってきた。


「お母さんどうしたの!?」


「いや多分だけど、財布盗られちゃったかも。さっきぶつかった人かなぁ」


「それって、あの男?」

 

 ソフィーが指さす方向には素知らぬ顔で歩いている男が。


「あっ、あの人!間違いない!」


 急いでいこうとするとステラが私の手をつかむ。異様に強い力に嫌な予感がする。


「お母さん、あの人ってお母さんの敵?」


「え、敵!?いや敵かって言われると......まぁただ財布盗んだのは許せないけど、でもそれがどうし」


 私の言葉が終わらぬうちにステラが目にもとまらぬ速度で駆けだす。

 視界の端っこでステラが男を捕まえているのが見えた。まずい、なんだかよくわかってないけど嫌な予感がする。

 ステラが懐から試験管を取り出す、中に入っているあの液体は、ダメだ!それはダメだ!

 自分の肉体の全てを使って全速力で駆ける。


「ステラちゃんストップ!」


 間一髪、ステラが泥棒に毒を流し込もうとする直前で止めることができた。

 スキルで解析したところ、これは動物性の毒で人を殺せるレベルのものだ。


「お母さん離して!敵なんでしょ!?殺さなきゃダメなの!」


「落ち着いてステラちゃん!落ち着いて!」


 私の腕の中でステラが暴れるのを必死に抑える。

 次第に涙目になって、とうとう泣き始めてしまった。

 周りの人の目線があるので、少し遅れて追いついたソフィーに泥棒の対処だけ頼み、一旦路地裏にステラを連れていく。

 まさか、こんなことになるとは。ここから話す言葉は慎重に選ばないと一生後悔する羽目になりそうだ。気合い入れていこう。

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