第38話 個性派ばかりの寮生たち

「交流会始まったけど、どうする?一緒に回る?」


「そうねぇ、たまにはノルン一人で人と交流してみたらいいんじゃない?私は私でいろんな人と話すから、とりあえずは別行動ね。終わったら部屋でいろいろ話しましょう」


「そうだね、そうしよっか!」


 交流会の方針も決まったところで、まずは失礼な発言をしてしまったマーガレットの方へ向かった。

 彼女は私たちが近づいたのに気づくと、食事の手をいったん止め、こちらに向いた。


「ごめん、ちょっといい?」


「ええ、いいわよ?ただし、発言には気を付けることね」


 ひぇぇ、ものすっごい怒ってる。

 これ以上怒らせないよう慎重に言葉を選ばなきゃだね。


「えーっと、ごめんなさい!」


「......えっ?」


 マーガレットが心底驚いた表情をする。一体私が何を話すと思っていたのだろうか。


「マーガレットが優しくていい子だと思ったのは本当だけど、悪気がなかったってのも本当で、その、私口下手だからさ、怒らせることもあると思うんだ!これからも、一緒に暮らすわけじゃん?だからさ、教えてほしいの!こういうのは嫌とかこうしてほしいとか!」

「だから!これからも仲良くしてください!」


 頭を下げて手を差し出す。

 マーガレットの様子は見えないけど、怒っているような空気は感じない。むしろ、これは。


「......頭を上げなさいノルン、いいわ、許してあげる」


 優しい空気だ。


「ほんとう!?嬉しい!」


 無事仲直りできた喜びからマーガレットに抱き着く。

 豊満な肉体から生まれる包容力が抱きついていて心地よい。いい匂いもする。


「ちょっ、ノルン!?やめなさい!こ、こんな公共の場で!恥ずかしいわよ!?」


 無理やりはがされる。

 ものすごく顔を赤くしているのでちょっとやりすぎたかもしれない。けどまぁそれぐらい嬉しいってことで一つ許してもらおう。


「あ、ごめん……つい嬉しくて、まぁとりあえずこれからもよろしくね!」


「はぁぁぁ……そういうタイプ、ね貴女。まぁいいわ、これからもよろしくお願いするわ」


 マーガレットとの話し合いは無事終わった。

 次はテレサのところに行こう!


「ステラ、少しいい?」


「うん?いいよー!」


 可愛い、マーガレットが女王様とかそういう雰囲気なら、こっちはテディベアみたいな癒し系だなぁ。

 私が噛み締めているとステラは不思議そうに顔を傾かせている。あ、いけないいけない。ちゃんと話さなきゃね。


「ステラって、生物の力を研究してるって言ってたけど具体的に何について調べてるの?」


「えーっと基本的にはねぇ、あ、そうだ!クッキー渡したでしょ!」


「え、ああこれ?うん、もらったけど」


「それ食べればわかると思うよー!」


 なるほど、料理が好きなんだなって思ってたけどこれも研究にまつわるものだったのか。よし、ソフィーには悪いけど先にいただいてみよう。

 いただきまーす!


 一口齧って、飲み込む。

 小麦粉とバターのほのかな甘味を感じて、油断したところに瞬間、激痛。痛いような苦しいような、地獄のような感覚。

 なに、これ!?なにこれなにこれ!?毒!?

 

「ステラちゃん……!こ、れって!」


 体が痺れて動けない!呂律の回らない舌でなんとか話す。


「そう!私ね、毒の研究をしてるのー!そのクッキーにはね!コカトリスとモログへビ、あとフグラの毒を混ぜた私謹製オリジナルが入ってるの!どう?美味しい?」


 そう話すステラの姿は非常にご機嫌で、悪意とか善意とか全てを超越している。

 間違いない、私はここで確信した。この子がここで一番やばい子だ!

 私の様子がおかしいことに気づいたソフィーとアーサーがやってくる。


「ノルン!?ちょっと貴女!ノルンになにしたの!?」


 真っ先に駆け寄ってきたソフィーがステラの首根っこを掴む。ものすごい剣幕で迫られているというのに、ステラは一切の恐怖すら感じていない。


「え?えっとねぇ、ノルンちゃんたちが私の研究について知りたそうだったからわかりやすく知ってもらいたくて毒入りのクッキーを食べてもらっただけだよぉ」


 ソフィーがこれまでにないほどの怒りを見せるが、一瞬で冷静さを取り戻して近くで焦っているアーサーに問いただす。


「アーサー!この子多分初犯じゃないでしょう!?解毒薬は!」


「え、ああ!ここにある!」


 アーサーが急いで駆け寄って私に薬を飲ませる。

 私は痺れて動けないけど、ものすごい味のする解毒剤だった。表すなら、雑巾と生ごみをごちゃ混ぜにしたみたいな……思い出すだけで吐きそうになる。


「ノルンごめんねぇ!ステラの作るものに毒が入ってるのはわかってたけど、この前寮員全員で数時間怒ったから流石にしないと思ってたんだ!本当にごめん!」


 そう言いながらアーサーはどんどん解毒剤を流し込んでいく。

 き、気持ちはありがたいけどこれ以上飲んだら私吐いちゃう!乙女にあるまじきところ見せちゃうから!

 数分間の地獄を味わったのち、私は毒から解放された。ドラゴンの肉体だからって油断してたけど毒はどうやら普通に効くみたいだ。


「はぁー、間に合ってよかった!」


 尻餅をついて安心しているアーサー、それに対してソフィーはステラにまだ詰め寄っていた。

 

「貴女ねぇ!そんなヘラヘラして!っこの!わかってるの!?なにをしたのか!」


 ソフィーがステラを打とうとする。


「ま、ってソフィー」


「ノルン!無事だったの!?」


 なんとか間一髪、ソフィーが打つのを止めることができた。

 いや別に毒を盛られたのは間違いないから打つことに特に意見があるわけじゃないけど、ソフィーの体と怒りを考えたら調整を失敗して殺しかねない。


「でも、こいつは!」


「うん、わかってる。だけど、とりあえず話を聞きたいの。だから、少しだけ待って欲しい。いい?」


 ソフィーはほんっとうに複雑そうな顔をする。悩んでいるのだろう、だけど、私の頼みをソフィーが断るはずもなく。


「……仕方ないわ、ただし!私の納得できる理由じゃなかったらその時は、なにをするかわからないから」


 よかった、とりあえずこの場は一旦治ったし、ステラとアーサーに改めて話を聞こう。

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