第35話 面会、軍の偉い人

 とことこと揺られて運ばれること数十分ほどだろうか、私たちはよくわからない建物の前で目隠しをはずされた。

 大きさとしてはそれほどではないはずなのに、異様な空気を感じる。ここだけ空気の流れが違う。


「ソフィー、これ大丈夫かな......」


「さぁね、何かあっても、死ぬことはないでしょ。多分」


 促されて私たちは中に入る。

 そのまま奥へ進んで無骨な空気の階段を上がって三階のすぐ横までやってきた。


「少し待て、長官!例の二人を連れてきました!」


 女がドアを強めにノックすると中から「入れ」という声が聞こえてくる。


「許可が出た、入れ」


 私たちは言う通りに扉を開けると中に広がっているのは、校長室のような部屋だった。机が一つと、ソファーが一つあって、オシャレさというものは一切ないがかといって何もないわけでもない。そんな場所だった。


「そこに座りたまえ」


 長官と呼ばれる謎の女性の言う通り私たちはソファーに座った。

 座って間もなく飲み物が運ばれてくる。これは、お茶だろうか、毒ではなさそうだしいただこう。

 お茶は緑茶のような味がして、日本人好みのものだった。ソフィーには少し苦かったらしく、一口つけて何も言わず机に置いた。


「ふむ、それで、君たちはノイフォンミュラーと、ソフィーリアであっているかな」


「はい、あっています」


 荘厳な雰囲気の中会話が始まる。

 もっと怖い人と話すことになると思っていたが、そうではないみたいで少し肩の力が抜ける。


「君たち、錬金術師なんだって?」


「ええ、そうですけど」


「許可証は?」


「あります」


「そうかそうか」


 淡々と進んでいく会話。まるで予定調和のようにすんなり進行していく。

 

「じゃあ君たちは、この国の法律を知っているんだろう」


「ええ、一通りは知っているわ」


「私も、それなりには」


「立派だね、君たちの年齢じゃそこまで博識なのも珍しいだろう」


 ふむふむと頷いて何かを書いている。

 内容はわからないが、私たちに関する調書か何かだろう。


「じゃあ、この国では魔物を一般人が狩ってはいけないこと、知っているはずだな」


「ええ、もちろん」


「知っているわ」


 その返事を聞くと、長官と呼ばれる女性は何も話さず机に置いてある調書と睨めっこしている。

 証拠なんて残っていないはずだからバレていないと思うが、どこかに不備があったのだろうか。


「ドルト少佐、彼を読んできてくれ」


 私たちをここに連れてきた女性、ドルト少佐と言うらしい、が扉の外に出ていく。

 数分が経過して、扉が開く。連れてこられたのは。


「ゴードムさん!?」


 そう、私たちが金属をいつも仕入れていた商人、ゴードムだった。


「さて、彼を連れてきたことの意味は賢い君たちならわかっているだろう。あんまり荒々しいこともしたくない。どうして、そんなことをしたのか話してもらおうか」


 そうか、最初から全部わかってて、証拠も押さえられていたのか。

 詰み、か。


「すいません、ソフィーと少し話しても?」


「ああ良いだろう。罪の告解というものは、非常に重いものだからな。それぐらいは許してやる」


 許可が出たことだし私たちは部屋の隅で聞こえないように話す。


「ソフィー、どうする?」


「どうするって、全部バレているんだし、話すしかないでしょう?」


「まぁそれはそうだね、だからどんな内容にするかってことだけど、私のせいってことにしたいの」


 ソフィーが目を見張る。


「何いってるの!私と貴女は共犯でしょう!?バレても一人だけのせいじゃないって言ったじゃない!」


「そうかもだけど……ソフィー、私たちの夢は何?」


「史上最強の錬金術師になることよ」


「だったら、その夢のために私は死ねる。だからね、今だけは私のせいにしてほしい」


 何かいいたげな表情をするソフィー、だが私の表情を見て、苦渋の決断としてそれを受け入れた。

 話も終わったことだし元の場所に戻るとしよう。

 再び椅子に腰掛ける。


「それで、話してくれるかい?」


「はい、確かにやりました。私が、ソフィーを脅し」


「違う!私よ!私がノルンに強制して始めたの!」


 ソフィーが事前の話とは全然違うことを言い始める。

 

「ちょっとソフィーなんで!?言った通りにしてよ!」


「いやよそんなの!貴女がいて私の夢は叶うんだから!いなくなるなんて許さないんだからね!」


 私たちが言い争っていると、長官の声が響く。


「静かに!」


 狭い部屋に似合わぬ大きな声がわたしたちの体を一瞬硬直させる。

 長官は満足げな顔をして話し始めた。


「君たちのことはようくわかった。法律を破っているのはわざとということも、関係もなんとなくだがね」

「素晴らしい提案をしよう。君たち、軍に入れ」


 ものすごく突飛な方向に話が飛んでいった。

 いや法律を破ったことを咎めるならわかる、だがそこから軍に入れというのはどういうことなのだろうか。


「あの、それはどういう意味でしょうか」


「何簡単だ。君たちのような法律を破ってでも錬金術を学ぶような人材は軍にもいなくてね、ほしいと思ったのさ」


「断るって言ったらどうするのかしら」


「もちろん、逮捕する」


「さぁどうだ、君たちが懸命な判断をすることを祈っているよ」


 これは、願ってもないことじゃないか?

 ソフィーには話していないが元々軍には入るつもりだったし、ちょっとルートが変なことを除けば理想的な流れだ。


「ソフィー、乗ろう。それしか道はないっぽいし」


「ノルン……けど確かに、その方が良さそうね」


「決まったかね?」


「ええ、わかりました。軍に入ります」


「私も、それを受け入れるわ」


「よかったよ、変なことをせずに済んだ。ドルト少佐!彼女たちを家に帰してやれ!そして明日には彼女らの軍属手当をするように!」


「はっ!了解いたしました!」


 私たちは最後に部屋の奥にチラッと見えた拷問器具のようなものを見ながら帰っていった。

 どうやら、首を縦に降らなければあれを使われていたらしい。


 想像だにしないルートではあったものの、軍に入ることになった。

 ドルト少佐が言うには明日から今の家を出て寮暮らしになるらしい。

 ソフィーと離れるのが心配だったが、どうやら長官の情けで同じ部屋にしてくれるとのこと。

 まぁどんな状況でもソフィーがいればきっと大丈夫だ。そして、ソフィーも私がいればきっと大丈夫。明日からも頑張ろう。

 どんな未来が訪れても、後悔がないように。

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