第8話 カカシで訓練ですわ!

 精霊さんたち謹製の動く案山子カカシはとてもリアル。

 ファイアーボールでちょろっと炙ってあげると、慌てて回避するところなんか、本当に人間みたい!


 「ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール!」

 「!?」

 「ほらほらもっと早く逃げないと火傷しちゃいますわよぉぉおーほほほ!」


 た、たのしいぃぃぃぃぃ!

 魔術戦ってこんなにワクワクするんだ!

 バレー部の一個上の先輩エミちゃんとモグラ叩きした時のことを思い出すなぁ。 

 中々当たらないと、むずむずしてくるんだよね、あれ。

 

 対人戦の必要性はウィン先生の言う通りだった。 

 訓練と実践形式は全然違う。的に魔術を放つことしかしてこなかったから、動く相手に当てるのって難しい!


 「ウィン先生、どうすればあの案山子に魔術を当てられますか?」


 ウィン先生が首をかしげると、さらさらの緑の髪が揺れる。


 「うーん、私にはその案山子が見えてないのでアドバイスしづらいのですが……というか本当にいるんです?」

 「いますよ!」

 「どうにも信じられないといいますか」


 すると、動く案山子が喋った!


 「不遜なる彼の者に空よりの天罰を与えん、唸れ閃光の一撃……ライトニング!」

 

 長ったらしい詠唱でしょっぼい下級雷魔術が飛んできたのでマジックシールドでさらっと防ぐ。


 「ね、いたじゃないですか!」

 

 ウィン先生が目を皿にする。


 「……ほんとうですね」

 「きっと、信じないウィン先生に精霊さん達が気を利かせてくれたんですわ!」


 なんていい子達なのだろうか。しかも音声付きとはすばらしい技術力だ。

 でも、手加減をしているのか、魔術の威力が低すぎてちょっと訓練にならない。


 魔術には等級が存在する。

 下から順に、初級・下級・中級・上級・超級・起源級の六段階。

 雷系統の魔術でたとえるなら


 ・初級 サンダー

 ・下級 ライトニング

 ・中級 サーマル・ライトニング

 ・上級 ドラゴン・ライトニング

 ・超級 サンダー・フォース

 ・起源級 ケラウノス


 と、言った感じだ。これはゲームの設定でも見たし、ウィン先生が座学の授業で教えてくれた。


 ただし、自由度の高い精霊魔術はこれに当てはまらない。

 願えばオリジナル魔術を創造できる精霊魔術は特殊なカテゴリーだ。

 とはいえ、ゲーム時代はそこまで自由なものではなかった。あくまで覚えている呪文の中から発動する魔術を選択するコマンド形式。


 しかし、現実になった今、精霊魔術は真の意味で世界でもっとも自由な魔術になっている。だから、こんな低レベルの魔術では正直訓練にもならないというか……


 「あの、気をつかってくれてるのは嬉しいですけれど、流石に弱すぎるので、もうちょっと強めにお願いできるかしら?」

 「!?」

 

 了承してくれたのか透明魔法生物さんがぶるぶると震えた。

 か、可愛い!


 「ペットにして飼ってあげたいくらいですわ!」

 「……ッ!」


 その挙動は、前世でおばあちゃんに買ってもらった、声を掛けるとシンバルを叩く猿の人形にそっくりだ。 


 「それはそうと、どうすれば魔術を的確にあてられますか?」

 「放った魔力の制御をコントロールするのです。我々は精霊にお願いして魔術を発動してもらいますが、そこへ干渉すれば精霊は制御を譲ってくれます」

 「なるほどですわ!」

 

 こんな感じだろうか?

 精霊さんにファイアーボールの指示を出すと火球が生まれる。そこへ、魔力干渉をすると火球を自由に操れるようになった。


 いままでは、精霊さんに「あの的へファイアーボールを当てて」みたいな大雑把な命令だったからファイアーボールはまっすぐ飛ぶだけだった。

 複合魔術を成功させたときも、あの属性と属性の魔術をぐるぐるまぜて、どっかーんって感じでみたいな指示だったし。

  

 しかし、ふむふむ。

 これなら途中で火球を曲げたりできそう。

 なんなら色々とアレンジを加えることもできるのではなかろうか?

 難点があるとすれば集中力を要求されるくらいだ。


 しかし、あの苦行の100日瞑想を乗り越えたわたしにはこの程度の集中、余裕余裕。

 いまならピザを食べながらうどんを啜るくらいの荒業をやっちゃうよん。

 そこへまたライトニングが飛んでくる。

 心無しかさっきよりわずかに威力が上がってるみたい。


 「そうっ! その調子でもっと頑張ってくださいまし! 頑張れぇ頑張れぇ。次はドラゴン・ライトニングをお願いしますわ!」

 「ヴィオレッド、ここで経験を積みましょう。相手の魔術を防ぎながら、ファイアーボールを当てる訓練です。幸いにも敵はただの雑魚。動く案山子なので危険はないようですし、思う存分暴れください」

 「はいですわー!!!」


 ◇


 (おかしいだろ! なんなんだコイツらぁぁぁ!)

 

 暗闇の魔術師ゲドーは頭が真っ白になっていた。

 気配遮断の達人であり、自分の隠密能力には絶対の自信を持っていた。

 なのに、このピンク頭の女は的確にゲドーの位置を見抜いてくる。


 こんな筈ではなかった。

 当初の予定では、ギヨームの娘を攫うだけの簡単な命令だった。

 なのに、ピンク頭のぶくぶくと太った醜い少女は、屋敷のどこを探しても見つからない。それで屋敷の外まで足を伸ばしたのが運の尽き。


 魔術の訓練をする彼女を一目見た時、この世の美を集結させたかのような可憐さに心を奪われた。天使の生まれ変わりに違いないと確信したが違った。

 こいつは悪魔だ!


 「ほらほら案山子さん、逃げてばかりでは練習になりませんことよオーホホホ!」

 「くっ!?」

 「ファイアボッファイアボッファイアボッファイアボッ!」

 「~~~っ!?」


 笑顔で確殺を狙うサイコパス少女。

 呼吸を整える間なく苛烈に飛翔してくるファイアーボールの弾幕。

 その発射速度が、もう尋常じゃない。

 こちらが一発撃つあいだに、容赦なく十発のカウンターが飛んでくる。

 魔術の発動工程、魔力錬成、術式構築、詠唱による魔術発動という手順を無視したかのような人外じみた早業。これではまるで魔術発動のみで火球を生み出しているようではないか。


 なにより頭がイカれてるのが……


 「不遜なる彼の者に空よりの天罰を与えん、唸れ閃光の一撃、波状の雷撃で敵を薙ぎ払い、討ち滅ぼせッ サーマル・ライトニング!」

 

 最高出力の渾身の一撃を放つ。

 だが魔術を弾き返した少女が地団駄を踏む。


 「だ・か・らっ、そんな弱っちいライトニングとかサーマル・ライトニングはもういいですわっ! ドラゴン・ライトニングを所望いたします!」


 (んなもん撃てるわけねぇだろぉぉぉ!)


 ドラゴン・ライトニングは上級魔術に区分される。

 複数の上級魔術を会得したものは1級魔術師を名乗ることが可能だ。

 3級魔術師のゲドーではどれだけ背伸びをしてもとどかない高み。

 それでも、中級魔術のダーク・ハイドとサーマル・ライトニングを会得しているゲドーは王国内でも上澄みの魔術師。


 だというのにこの女、あまつさえ命のやり取りを訓練などとのたまい、ゲドーの魔術をゴミカスだと煽ってきやがる。


 (なんでこんなヤバイ女がいるのだ!?)


 「なんだかコツを掴んでまいりましたわ! こんなのはいかかです?」


 ピンク頭の少女が手をかざすとファイアーボールが3つ生まれる。空中で高速回転を始めたそれは、なにか様子がおかしい。


 ぐるぐると回転して、徐々に肥大化していくにつれて色が変化していく。

 オレンジの炎は、青・緑・赤へとそれぞれ変貌する。

 肌をねっとりと威圧する濃厚な魔力の気配。

 一目見ただけで分かる、ヤバイやつだ。

 

 そして


 「た~ま~や~」


 謎の可愛らしい掛け声とともにカーブを描きながら飛んでくるカラフルな火球。

 

 「っ!?」


 咄嗟に避けたつもりが、火球はゲドーの前でド~ンと大爆発を起こした。


 「ぐはっ!」


 パチパチと鮮やかな火花を散らして、綺麗な炎の花が舞った。


 「名付けて花火ファイアーワークスですわ!」


 美しい見た目に反して、出鱈目な殺傷能力。

 避けたと思わせて直前で爆発し、広範囲に熱風を浴びせる意地悪さ。

 

 爆風で体が吹っ飛び地面に転がされる。

 肺がやけて呼吸が苦しい。胸を押さえてのたうちまわる。

 そんな、ゲドーを見下ろして、その少女は美しく笑った。


 「あれ、もう動かないんですの? もっと試したいことがあるので立ち上がってくださいまし。頑張れぇー、頑張れぇーですわー!」


 (あ、悪魔だぁ……ロシュフォール家に関わるべきではなかった!)


 「むむむ、残念本当に動かないみたいですわ。今日の訓練はここまでですわね」


 その言葉に全身の力が抜けて安堵するゲドー。


 (た、助かったぁ……命まではとらないつもりか……この少女が甘ちゃんで助かっ……)


 「あっいっけなーい! わたしとしたことが大切なことを忘れておりましたわ! 精霊さんが用意してくれた折角の機会なんですし、あれの練習もしておきませんとね!」

 

 (あ、あれってなんだ?)


 そして、倒れてるゲドーに向かってヴィオレッドはおおきく足を振り上げた。

 道に落ちている小石を空へかっとばすような動作だ。

 その瞳はゲドーの股間に注がれている。


 (ま、まさか!?)


 「えいっ」


 (嘘だろ!?)


 ズゴンっ!

 ぷちっと大切な何かが潰れた音がした。



 ◇


 いやー楽しいイベントでしたわ!

 精霊さんが用意してくれた案山子のおかげで充実した魔術訓練が行えた。

 ついでに、〇玉を潰す練習もできたし。


 いわゆるサッカーボールキックというやつなのかな?

 ただ、ちょっとあのプチっと潰れたような感触がリアルすぎて、鳥肌がヤバイ。

 しかも魔法生物の方もプルプルと痙攣してリアクションまで完全再現してる。


 もうっ、精霊さんったらリアル志向すぎ!

 こんなに仕込みをいれなくてもいいのに。夢のランドのキャストかよっ。

 サービス精神の塊ぃぃ。


 本物の人間だったら怖くてこんなことはまだできないけれど、魔法生物だし罪悪感もないです。


 パチパチとウィン先生の拍手が鳴る。


 「素晴らしい魔力制御でした。あの魔術も目を奪われるほど美しかったです。ヴィオレッドは想像力も豊かなんですね」

 「えへへ……まぁ、それほどでもぉ?」


 お父さんと見た花火を再現できないか試してみたんだ。

 まだまだスターマインには程遠いけど、最初にしては上出来。

 もっと練習していつか再現してみたいな。前世の家族と見ることはもう叶わないけど、ウィン先生やお父様達や屋敷の皆と見れたらきっと楽しいからね。


 「最後のキックの必要性は分かりませんでしたが、この調子でどんどん鍛えていきましょう」

 「はいですわー!」


 それに、課題も見つかった。

 今回は魔法一辺倒な戦いだったけど、もし接近戦に持ち込まれたらいまのわたしにはなす術がない。


 これはマズイ。

 早急に剣術も学ぶ必要がある。


 なんてたって、わたしが目指すのはどんな敵からも貞操を守りぬく、最強のモブですから!


 「まだまだ努力して強くなりますわよー!」



 ◇


 と、意気込んでから翌日のこと。

 白髪頭の執事ジェフがこう言ってきた。

 

 「お嬢様、明日第二王子シャルル殿下がお見えになります」


 シャルル殿下って……主人公ヒロインのメイン攻略キャラやないかい!





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