第19話 「生徒会長の意外な一面」


「ほんと、恥ずかしいです〜! あんなみっともない姿まで見られてしまって。思いっきり部屋着でしたし!」

「そんな事ないですよ。それに先輩、"家だとこんな感じ" って言ってたじゃないですか」

「それはそうなんですけど! で、でも! 外出する時は普段はもっとちゃんとした服なんですよ!? あの時は緊急事態で……」


 倒れそうなくらいお腹が空いてしまったらそれも仕方ないのかもしれない。

 でも__鍵もスマホも忘れるのは、ちょっとおっちょこちょいすぎる気もする。


 慌ててる先輩なんて初めて見るけど……なんだか可愛いな。


「ははっ、そんなに気にしなくても良いと思いますよ。俺も驚きはしましたけど、変だなとは思ってません」

「……本当ですか?」

「はい。むしろ、生徒会長である先輩にも意外な一面があるんだなーって」

「意外、ですか? やっぱり生徒会長っぽくなかったですか……?」

「うーん、そうですね。確かに完璧だと思っていた一面もありましたけど、そういう抜けたところもあって可愛いなって。それに生徒会長だからってプライベートまで完璧じゃないといけないってわけじゃないですよ」

「そう……でしょうか」

「はい。家でも気が抜けないのって、けっこうしんどいですもんね。。あの、すみません、偉そうに聞こえたら……」


 先輩本人を目の前にして、つい話しすぎてしまった。

 自分でも、なんでこんなに素直に話してしまったのか分からない。

 先輩のことを前にすると、なんか……つい。

 だいぶ気持ち悪い事言ってない?大丈夫かな。


「……可愛い、って」



 その言葉を、卯月先輩がぽつりと繰り返す。

 あれ、まずかったかな。

 先輩相手にその言葉のチョイスは失礼だったかもしれない。


「えっと、その……ギャップがあって良いなって事ですよ!?」

「そ、そう……ですか」


 目が合った瞬間、先輩はふいっと視線を逸らす。

 あれ、顔が赤い? 照れてる……のか?

 俺はすぐに訂正しようとするが、先輩は何やら深く考える姿を見せる。


「私が可愛い、ですか?」


 それから、先輩は俺をチラッと確かめるように見つめながら言う。


「えっと……はい。普通に可愛いと思います、けど?」

「そう、ですか……。ふふっ」


 どこか嬉しそうな様子。


「あの、先輩……」

「な、何でしょう……?」

「もしかして、こういう事言われるの慣れてない……ですか?」


 まさか、とは思ったけど___


「…………(こくり)」


 先輩は黙ったまま、小さく頷いた。


「そ、そうなんですね」


 なんだか俺まで自分の言葉を意識しまって顔が熱くなってくる。


 でも、その反応を見たら、やっぱり先輩のことを "可愛い" と思わずにはいられなかった。


 あの憧れの先輩のこんな一面……反則だろ。


「え、えーと。それで、話というのは――昨日の件だったんですね」


 お互いに羞恥で悶えた後、俺は先輩の伝えたかったことを改めて確認して本題へと戻る。

 いや、戻らないといけない。話が二転三転しすぎて当初の話の内容を忘れるところだった。危ない危ない。


「はい。あの後、管理会社さんに鍵を開けてもらって、無事に家に帰れたことを、お伝えしたくて」

「そ、それは良かったです。ほんと、心配してたんで」


 実際、あのあと無事だったかは気になっていた。でも、家を出てから戻ってくることがなかったために勝手に安心していた。

 それに、今朝も家の前で会えたしな。元気そうでよかった。


「ふふ、ありがとうございます。あの、ついでと言ってはなんですけど……」


 先輩が少しもじもじしながら、かばんをごそごそと探る。


 ――え、なに? 何か渡される流れ?


「その……。昨日、無事だったことを伝えたくても、また突然お邪魔するのもどうかと思って……。家が隣同士ですし、よかったら――連絡先、交換しませんか?」


 連絡先……?

 連絡先……だと!?(動揺×10)


「えっ、あ、あの、もちろん! ぜひ、ぜひ!」


 急な申し出にテンパりながらも、スマホを取り出す手が震える。勢い余ってスマホを落としてしまうほどに。


「わわっ! だ、大丈夫ですか!?」

「は、はい。失礼しました。すみません」


 落ち着け俺、こういうときこそ冷静に――


「……ふふ。そんなに焦らなくても大丈夫ですよ?」


 先輩がちょっとだけ笑ってる。なんか、少しだけ嬉しそうに。


「す、すみません……」

「はい、これが私のチャットアプリのIDです。あとで何かあったら、遠慮なく連絡くださいね?」


 スマホを見て、先輩の名前が表示された瞬間――

 たぶん俺、ちょっと変な声が出てたと思う。


 それくらい、心臓がバクバクしていた。


「……あ、じゃあ、こっちも」

「ありがとうございます。あ、でも変な時間に送ったりしたらごめんなさい。夜はわりと暇なので、お話し相手になってくれると嬉しいです」


 その何気ない一言に、また心臓が跳ねた。

 なんだこのご褒美は。昨日助けたお礼を言われるだけではなく、連絡先やその後のことも……。

 俺としては、大変贅沢なお礼の品だ。


 ――これは、俺、もしかして。


 理想で終わったものと思ってたけど。もしかしたら、本当にこれから、先輩ともっと、仲良くなれる……かもしれない。

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