第40話 魔法バトル?
「私、魔法でバトルもできますのよ」
レギーナは魔法学の授業で、いきなりそんなことを言いだす。
「聖女に、バトルは必要ない」
「でも民衆を守るため、いざというときに戦える力は聖女にも必要ではございませんこと?」
挑発的だが、恐らくそれが、レギーナがブレシド・セインツ学園にたびたび攻撃をしかけてきた理由とも考えられる。
聖女なら、対人戦闘をこなしてごらんなさい……と。
ただ、その提案は厄介だった。
これまで魔法学は、あくまで舞台演出につかえるよう、各々の魔力を高め、魔法を行使する術を覚えるように指導してきた。
これまでも、魔獣に襲われたときに攻撃につかったことはあるけれど、魔法でバトルをするのとは訳がちがう。
「民衆を守るための力とは、民衆を攻撃する力にもなり得る。魔獣と戦うためなら、今の魔法講義でも十分だ」
「ふふふ……。ヨーダ先生はお堅いですのね。聖女とは何事も万能であることが求められる、と思いませんこと?」
「万能である必要はない。聖女とは、人々の希望であり、憧憬であり、夢を与えられればいいのだから」
レギーナに強く睨まれるが、オレも負けずに睨み返す。こういうとき、リーゼントにグラサンという怪しい風体であることが幸か、不幸か、にらみ合いなら負ける気がしない。
「分かりましたわ。ヨーダ先生はそうお考え、ということですのね」
その切り口上は、あまりよい想像をさせなかった。
案の定、オレはドリー校長から呼び出された。
「ヨーダ先生……。もめ事を起こさないように、とあれほど言いましたよね?」
「もめごとではありません。意見の相違です」
「その相違を、お姫様との間でつくらないで下さい、といっているのです!」
今は曖昧な関係だけに、余計な波風を立てたくない気持ちも分かる。 そして、そんな校長室に、プロムがいるのも気になる。
学園では、ロシェたち警備兵がいるので、彼女が付き添っている必要がないこともあるが、それは彼女が学園側に告げ口をして、その結果を確認しようとする姿にもみえる。
レギーナが指示したのか? それは分からないが、恐らく指示されずとも、教室でオレともめたのは彼女も見ているのだから、彼女なら自分から動くことを何も厭わないはずだ。
そして、ただ学園側に告げ口するばかりでなく、聖女候補生たちへの多数派工作も忘れていない。
「魔法で戦って、優劣を競う」
そう囁かれ、負けず嫌いのライカがすぐ飛びついた。
「貴族をぎゃふんと言わせてみたくありません?」
それでユリア、ミシェラ、バーバラ、クィネも乗った。
あと一人、靡くと魔法でバトルをする授業がはじまってしまうが、残りの七人が動かず、今のところ従来通りの授業で済んでいる。
意外だったのは、説得にまわったのがリーリャだったことだ。最年少で、魔法に長ける彼女が「魔法でバトルは絶対にダメ!」と、仲の良い二コラやケイト、アイネスを巻きこんだのだ。
「リーリャちゃんは、自分の魔法が誰かを傷つけることを心配しているの」
レイラがそう教えてくれた。そんなリーリャの心配が現実にならないことを祈るばかりである。
「フェリシアは同意してくれませんの?」
レギーナは貴族の二人を説得中である。
フェリシアは口元を隠しながら「あら? 自分が正しいと思うことは、自らの手で切り拓くのがモットーではなくて? 私が昔のよしみで同意する、とでも思っていたのかしら?」
「そんなことは思いませんわ。昔から、私が右といっても左に行く方でしたものね」
「レギーナと同じで、私も自分の信じる道をいくタイプでしてよ」
「だから慣例を破って、十六歳にして入学する権利を買ったのでしょう? 一体、学園にいくら積んだのかしら?」
フェリシアは厳しい表情でをするが、否定はせず「もしかして、私が聖女候補生になったから、自分も……と考えた?」
「そんな二番煎じを狙ったりは致しませんわ。でも、チャンスはある……と思わせていただけたかしら」
王族だから……と諦め、聖女候補生になれる年齢を過ぎた……と考えていたが、フェリシアが年齢の壁を破ってくれた。それが一歩をふみだす勇気を与えたことは間違いなさそうだ。
「それだと、王族を離脱する覚悟も……?」
これはセフィーが訊ねた。
「もちろん、聖女になれるのなら王族だって捨てるわ」
レギーナは即座にそう応じる。「聖女には力が必要なのよ。それは王族、という後ろ盾ではなく、実際に〝聖女が強い〟というイメージがね」
「私はそう思わないわ」
今度は、即座に否定したのがフェリシアだ。「あなたの理想の聖女象はそうかもしれない。でも、万人がそうだとは思わないでくれるかしら?」
「ふふふ……。いずれフェリシアも理解するわ。聖女にもとめられるのが〝救国〟である、と」
フェリシアが眉を顰める。「それって戦争、ということ……?」
このロディニア王国は、伝統的に隣国のローレンシア共和国と仲が悪い。元が一緒だけに、同族嫌悪ということだ。
しかし戦争はせず、小さなもめごとは政治的に解決してきた。でも……。フェリシアとセフィーも言葉を失っていた。
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