第37話 キャンプ
聖女候補生たちが、一泊のキャンプ体験をする。肝試しもそうだけれど、夏の恒例行事として位置づけられていた。
バンガローに泊まり、聖女候補生だけで食事、お風呂、洗濯、そうした生活力を試される。聖女になる上で必須ではないが、万能なイメージをもたれる聖女は、そんなことも必要なのだ。
「みなさん! がんばりますわよ!」
こういうとき率先するのは、フェリシア。貴族として、最年長として、自分がみんなを引っ張る、との自覚もある。
でも貴族の三人は料理どころか、執事任せなので生活力はゼロ。料理を得意とするのはユリア、アイネス、ライカ。特に、ユリアとライカは家が貧しかったので、手伝いをする中で覚えたそうだ。
その三人がみんなを指導して、全員で料理する。あくまで協力して成し遂げることが目的であり、誰かがすればいい……ではないところが、このイベントで重視される点だ。
「ほら、包丁のにぎり方がちがう!」
ユリアは厳しめ、ライカはどちらかというと、負けず嫌いが人に教えることで満たされるのか、嬉しそうに「ほら、そうじゃないでしょ。こうやって……」とニコニコで教える。
アイネスは料理するのが好きで、ふつうに家でもしていたらしいので、教え方もうまい。
これは授業ではあるけれど、レクリエーションみたいなもので、キャンプの一日を愉しむことができているようだ。
三つのバンガローの真ん中ではキャンプファイヤーもでき、そんな大きくないが、そこで小さな焚火をしていると、何となくみんなが集まってきて、その周りにすわった。
聖女候補生になってから半年が経過し、みんなも色々と考えはじめる時期に来ている。授業以外でこうしてみんなで集まることはあまりなく、夜であるのも手伝って、話をはじめた。
「聖女になれなかったら、何になりたい?」
フェリシアがみんなにそう問いかけるが、自分キッカケだけに、自分から「私は貴族だから、結婚すると思うわ。家の繁栄に尽くすこと。元聖女候補生なら、みんなも羨むでしょ?」
そういって、フェリシアはセフィーをみる。
「私は……研究者になりたい。フェリシアには悪いけど、貴族の娘として一生を終えるのは、私は嫌だから」
レイラも「私も、舞台に立ちたいと思っていたから、そちらに行こうかな……って思っている」
彼女の場合、みんなもきっと聖女になる、と考えており、華やかな舞台に立つことは想像しやすい。
庶民の中だともっとも年齢が高い、ユリアが応じた。
「私は講師かな……。何でもいいんだけど、村に帰っても、みんなにここで経験したことを話したいし」
ミシェラは少しちがった。
「私は冒険者になりたい! 魔法もつかえるようになったし、魔法剣士として活躍したいな~」
バーバラは「私はオペラを歌いたい」と応じる。歌の上手い彼女は、元々そういう方向で将来を考えているのだろう。
アイネスは「シェフ」で、クィネは「パティシエ」と、こちらは趣味を実益にしたいタイプだ。
ケイト、二コラ、リーリャはまだ未来のことを考えるのは早いのか、何も思い描いていないようだ。
みんな、競争意識はあっても仲の良い子もでき、こうして一緒に作業をするなど、仲間意識が芽生えている。長くても2年、早いと1年で聖女が選出され、このブレシド・セインツ学園は一旦、その役目を終える。次の聖女候補生を集めるまで、閉鎖されるのだ。
彼女たちが一緒にいられる時間も、だんだん短くなってきている。そして、自分の実力についても気づき始めている。歌がうまい、ダンスがうまい、聖女として必須の項目で見劣りすると、どうしても自分は聖女になれないのでは……と後ろ向きになってしまう。
そんな思いが募り、みんなが暗くなると、フェリシアが立ち上がって言った。
「私たちは聖女になるため、頑張っている。ここにいるみんなは同期! いつまでもそれは変わらないですわ!」
それをうけ、セフィーが付け足す。
「聖女になれず、卒業した講師たちをみてもそう思うの。私たちは敵じゃない。一緒に同じ時期、同じ目標にむかって頑張った仲間だって。だから卒業したとき、笑って握手できる関係でいたいって……」
どうやら二人で話して、こういう展開にもっていったようだ。それは、同じ貴族のレイラが、デビューが近いと実感するからだろう。そのときやっかみや嫉妬により、晴れの門出を台無しにしたくない。
同期として、みんなで送りだしたい。だからわざわざ、聖女になれなかったとき、とのお題をふった。
このキャンプで、共同作業をして一泊するこのイベントが、この話をする最良のタイミングだと思っていた。
みんなも同じ気持ちになれたようだ。ぐんと仲間意識が高まって、これからの学園生活をともに頑張ろう、という気持ちが芽生えていた。
でも、それを揺るがせにする事態が、学園に迫っていることなど、このときの聖女候補生たちは知る由もない……。
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