第三部 地の果てと空の深淵 第二話

ナイトレイともう一人が話していた、その5日後、施設に警報が鳴り響いた。

そうか。予想よりも遙かにSBという奴は知恵が回るようだ。うん?11年前にSBが寄生していた身体と今の身体は遺伝的特性が酷似している。おそらく親族だろうが、年格好からすると兄弟なのだろう。

SBはナイトレイがいる部屋に入ってくると、目の前の椅子に座った。

「やあ、ナイトレイ。」

SBが機嫌良く挨拶をしてきた。

「やっぱり来ちゃったか。オズワルドはどうしたんだ?」

「まだ生きているよ。ちょっと頭の中をサーチしたからしばらく休ませている。」

「そうか。殺すのか?」

「ああ、あまり苦しまないようにね。」

「君を嵌めたんだ。放っておくと示しが付かない、か。」

「そうだな。もちろんあんた等も、だけどね。」

ナイトレイは笑って、

「君が、あのくらいで消えるとは思ってないよ。ただ、しばらくこの世界からいなくなって欲しいと考えたのは確かだ。」

「ほう、それは何故だ。」

「君の行動は私達には予測不可能だ。一歩間違えば我々の計画が全て台無しになってしまうことだってあり得る。」

「ふうん、あんた等の計画ね・・不思議なんだが・・どうもあんたから敵意とか悪意が感じられない。俺を消そうとしていた癖にね。それに、あんた等は地球人ではないが、あの宇宙人とも違う。少し興味が湧いてきたよ。」

ナイトレイは笑って、

「それは光栄だな。どうだい?この施設、中を案内しようか?」

「いいね。ほぼ真っ直ぐに君のところに来たので、中は全くと言っていいほど何も見ていない。」

「はは。相変わらず君は凄いな。では、さっそく行こうか。」

敷地面積は約200,000㎡。ただし、最上階から下に4階分ほど深く作られているので、容積としては相当なものだ。そこに、見た目は地球人そのものの生命体が200体以上活動している。

「こんなのいつ作ったんだ?それに、ここ、海底だよな?」

「そうだよ。上部は氷でその下は殆どが海の中。これほど他を近づけない場所は他にないだろう?ま、君が宇宙艇を隠している所は別として。」

ほう、それも知っていたか。まあ、いかに北極が広いとは言え、これだけの設備を持っている連中だ。しかも彼らは常に俺の行動に注意を払っていた。そりゃ分かるよね。

「そうか・・。ところで、君たちはここで何をしているんだ?」

「敵対的異星人への対抗措置と考えてもらっていい。」

「・・・君たちは・・・。そうか・・さっき君が言った計画というのも・・君たちもある意味、地球人なんだな?」

ナイトレイが笑った。

「これまでに何度も露呈しそうになったことはあるがね。そのたびに、一部の人間が好んで使う『陰謀論』という言葉で払拭してきた。彼らは上手いんだ、レッテル貼りが。そして多くの人間はそれに簡単に騙される。まあ、かなり真実に近づいた奴等もいるにはいたが、殆どの場合、世間からはつまはじきの憂き目に合っている。面白いよね、人間の心理って。」

「まあ、否定はしないが、真実に愚直に向かっていく奴等も一定数いる。だから、俺は表に出たんじゃないかな。」

ナイトレイは笑顔を引っ込めて真剣に俺を見た。

「そうだね。実のところ君の存在は、我々にとって目障りだという者もいる。我々のミッションは、あくまでも秘密裏に全てを処理することなんだ。」

「いいのか、それで?」

「我々は太陽光の元では生存できない。紫外線は、人間における放射能と同じくらい危険なんだ。それに、ここでの生活に不自由さを感じることはない。」

「ここ、というのは、地底ってことなんだな?そこにはどのくらいの人達がいるんだ?」

「そうだな・・5~6億人くらい、かな。適正数調整を行っているからな。そのくらいがベターなんだ。」

「そうか。その皆が幸せに生活出来ているのなら、俺がとやかく言える立場ではない。しかも、異星人対策まで講じてくれているんだ。というか、やはり君たちもあいつ等がまた来ると考えているんだな?」

「恐らく。もちろん、その際に君も我々もいなければ、人間は全員虐殺される。全員だ。あいつ等は人間を見下すだけでなく忌み嫌っているからな。理由は分からないが。」

「それは実際にあいつ等と対峙した俺もわかる。まあ、何故あいつ等がそれほどまでに人間を嫌うかは知らないが、深く考える必要は無い。俺はあいつ等が地球に害を及ぼす限り返り討ちにするだけだ。」

「君はいいね。ぐだぐだ言わずに潔い。以前の襲来のとき我々も準備していたんだが、途中で出撃はやめることにした。黙って君の戦いぶりを見ている方が、何というか・・我々にとって・・そうだ、参考になると思って・・。」

「そこははっきり言えよ。面白かったんだろう?」

俺がそう言うと、ナイトレイは心から楽しそうに声に出して笑った。ひとしきり笑ったあと、目尻を拭きながら

「・・すまない。だがね、君の戦いはあまり参考にはならなかったんだ。だから余計に、見ることに専念してしまった。それは謝罪する。」

急に真面目な顔になったナイトレイが可笑しくて俺もつい笑ってしまった。笑ったからにはもう怒れない。それにとっくの昔に終わったことだ。まあ、これと言った戦略らしきものもなく、ひたすら正面切って力尽くで戦ったのだ。あんなのが参考になるわけがない。

「じゃあ、次回は協力することが出来るんだ。それは楽しみだ。」

「そうだね。あれから既に11年。あいつ等の科学力は侮れないし、進化のスピードも早い。次に来るときにあいつ等が操るのは、空間と重力と、そして時間だ。それに対抗するには今の君では無理だ。」

空間、ね。俺は瞬間移動ができない。それは空間を自由に操ることに繋がる。俺はほぼ全ての素粒子に干渉できる。それは、言ってみれば全てのことが可能になるということだ。だが空間、重力、時間はそれぞれが独立しているのではなく、互いに干渉し合っている。それぞれがそれぞれの原因であり結果でもあるのだ。

それでも俺は時間をコントロールした。実際にやってのけた。

問題は、それが完全に俺の意志でなされたか否か、ということだ。

「そうだな・・。俺はまだその辺に関する深い理解が出来ていない。この状態で君が言ったような戦略兵器を使われたら、どうなるか予想するのが難しい。」

「我々も、完璧にやれると言うわけではない。だが、君と本気で組めれば十分に勝算はある。」

なんだか妙な状況になってきた。

「君が宇宙に放り出されても、1年か1年半でこちらに戻ってくるのは計算の上だ。我々の予測では、あいつ等が再度地球に来るまでにあと2年だと考えている。そして君が1年後か1年半後に必ず我々のところに行き着くことも予想していた。その間に、我々は戦いの準備を完璧に整えようと考えていたんだ。君は気付いていたのかな?あいつ等の仲間が既にこの地球上に存在していることを。」

そうか・・共生党にいた奴等のことだ。

「おそらく、君がこんなに早く帰って来なければ地上の華国とアメリアは戦争状態になっていた。既に日本国やヨーロップ、或いは中東、アフリア大陸に至るまで彼らは幅広く活動していたからな。彼らの中に一部、目立たないようにあいつ等の仲間が潜んでいたんだ。そして劉首席やその周りの連中を誘導していた。あいつ等だって君の動向には十分留意していたはずだし、君がいない間に地上を出来るだけ破壊しようと画策していたのだと思う。」

なるほど・・。出来るだけ地球上の戦力を削いでおくためか。確かに世界は俺が核を廃絶した後も、相変わらずより強力な威力を求めて兵器や武器の開発に余念が無い。その道筋を閉ざすためにも世界を争いの渦に巻き込むのは悪手ではない。

まあ、彼が予想したとおりの現実が待ち受けているのは確かなことだ。なにせ実際に見てきたことだしね。そうか、ひょっとすると俺が世界中を殺戮して回った後に例の宇宙人が攻めてきたのかもしれない。あの時点ではまだだったが・・あのあと、俺がいなくなった世界ではこのナイトレイ達が宇宙人に立ち向かったのだろう、誰の協力も得られないまま。

「彼らの動きは我々でも掴みかねている。それに彼らの所在さえ定かではないんだ。数人だけ彼らを捕縛しているが、なかなか口を割らないし、な。」

お、それは良いことを聞いた。

「そいつ等はまだ生きているのか?」

「え、ああ、殺してしまうのもどうかと思ってね。一応、捕虜としてこの下に収監している。」

「会わせてくれ。」

「会っても肝心なことは何も話さないぞ。・・・何か策があるのか?」

「あまり手の内は見せたくはないんだが・・俺はどんな生命体であろうが、その波動が見えるんだ。だから同一の種族であれば、そしてその波動さえ分かれば彼らが何処にいたって見つけられる。」

ナイトレイは驚いたようにしていたが、そのうち皮肉っぽい笑いを浮かべて

「・・やっぱり君は異常だよ。絶対に敵にはまわしたくないね。だが、今のところ君は我々の話を理解してくれているようだ。だったら今は君を利用させてもらおう。行こう。あいつ等のところまで案内しよう。」

それから俺はナイトレイに連れられて宇宙人のスパイ?に会いに行った。

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