ぼくの夏休み創作日記

藤真ゆい

「ぼくの夏休み 創作日記」

 都会に暮らす人なら、大きなお屋敷だなんていうこともあるけど、そこまででもないと思っていた。あの頃は人ももう少しいて、にぎやかだったからかもしれないし、狭い1Kで暮らすのにすっかり慣れてしまったからかもしれない。

 僕は今日、おじいちゃんの葬式準備のために、久しぶりにおじいちゃんの家に帰ってきた。庭には、いくつかの趣味で育てたナスやエンドウ豆、枝豆がだらしなく育っている。畑といえば綺麗に種類ごとに整列して育てそうなものだが、うちの庭はポコポコと空いたところにあった種を埋めている。

 ナスはおばあちゃんが好きだから、エンドウ豆はお母さん、枝豆が僕が好きだからって育てていた。僕は枝豆よりも本当はトマトが好きだったけど、たしか僕が初めてここに来た時に、自分で枝豆を埋めたのがきっかけだった気がする。

 おじいちゃん自身は、梅が好きで梅の木やら食べた果物の種を植えていた。そんな好きなものが植えてある庭の畑を、おじいちゃんは「おこのみ畑」と言って大事にしていた。

 僕は、畑をいじっているおじいちゃんを縁側から眺めている時間が好きだった。縁側のある部屋に、仏壇がある。おじいちゃんの位牌やら写真やらを並べるために、軽く掃除しようと思ったのだが、こういう仏壇の脇とか、細かい彫刻の裏とか、結構ほこりがたまっている。

 仕方なくしっかり掃除しようとハンディモップを脇に差し込んだら、一冊のノートが出てきた。

 ほこりをかぶったノートを開くと一筆箋がはらりと落ちた。

 一筆箋には、こんなことが書いてあった。



これは「ぼく」が書いた夏休みの日記である。

大人になったぼくへ。結局先生には出さなかったこの宿題の日記を読んでほしい。

忘れてないといいな。この夏のこと、忘れないでほしい。

きっと僕の人生に影響を与えているはずだって、そう思うんだよね。

大人の僕が、読み返して、そうだったなってきっと思うであろう

そんな夏の思い出を、ここにこっそり残しておきます。



そして、ノートには、日記が拙い字で書かれていた。

閉じて表紙を見ると、「ぼくの夏休み 創作日記」とあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る