第3話 封印されしもの
「それで何が封印されているっていうんですか?」
俺は一応その話にのってみた。
「それはまだよく分からないんだ。霊が集まるというなら神霊的な存在なんだろうな。強力な物の怪や怪異の類かもしれない」
柳田先輩が言った。やばい。この人の口調から察するに冗談ではなく、大真面目にそう思い込んでいるのは間違いない。
「朔夜の家にあったものなら、家族には読める人がいるんじゃないのか?」
俺は朔夜に聞いてみた。俺が知る限りご両親は健在のはずだ。
「祖母は鬼籍に入っているので確かめようがないが、母は全く読めないと言っていた。ただ見えるとは言っていたがな」
「見える?」
「見えるは語弊があるかもしれないな。感じると言った方がいいのかもしれない。うちにもそのうちに感じられるようになるだろうとは言っていた」
「あれか? また神行事家の血筋がどうとかなのか? お父さんはどうなんだ?」
「神行事家は代々女系でな。父も婿養子だ。ここ数百年は直系では男子は生まれていない筈だ。分家の方はどうだか知らんがな」
朔夜はまた嘘だか本当だか分からない話をしてくる。朔夜のご両親には俺も以前に会ったことがあるが、ごく普通の農家のおじさんとおばさんだった。いや、お母さんは美人ではある。しかし娘がこんな風に、自分の家系を吹聴してまわっていると聞いたらどう思うんだろうか? そうかそう言えば先ほども俺の事も、天才みたいに言っていた。これは正すべきところは正すべきだろう。
「数百年も前からの事なんて分からないだろう普通?」
「まぁ家系図しかうちは見たことがないので、男か女か分からない名前もあって確証はない。ただ母からはそう聞いている」
「そんな昔からの家系図が残っているのか……今までそんな話をした事なかったじゃないか」
「聞かれもしないのに家系図があるとかないとか、進んで人に話すようなことでもないだろう?」
血だらけのちょんまげを結った幽霊を成仏させたとかも、人に話す事ではないような気がするが彼女の価値観はよくわからない。
「二人の話の方はもういいのかな?」
そういって柳田先輩は先ほどの続きを話し始めた。
「とにかく古文書の中で解読できた部分によれば、正体は分からないものの、どうもこの地には強力な何かが封印されていて、その封印が解けてきた影響で成仏できていない霊や、物の怪の類が集まってきているようなんだ。ただその封印についての事はまだよく分からない」
その話を聞いて俺はカメラが仕掛けられてないかと部室内を見回した。これはドッキリかもしれない。もしかすると文化地理研究会とは、現代映像研究会みたいな感じで、動画を撮影する同好会かもしれないなという疑いが一瞬頭をよぎった。
「どうしたんだ望月君。何か気配でも感じるのか?」
高田先輩が俺の方を見てそう声を掛けて来た。カメラらしきものは見当たらなかった。まずい、このままここに居たら俺の頭もどうにかなりそうだ。
「朔夜、家系図があるって言うなら俺にも見せてくれよ。さっき言ったみたいに文字なら大体読めるからな。……古文書がお前の家にあったというなら、他にも何か封印についての情報が得られるかもしれない」
それを聞いて柳田先輩がこう言った。
「なるほど、それはその通りだな。今日はこの後、夏の豪雨で崩落した裏山のあたりを見に行くつもりだったが、女子が行くにはちょっと危険かなと思っていたんだ。神行事君は古文書の周辺情報を集めてくれないか?」
「そうですね。うちには昔の文字は読めないので、望月が読めるというなら色々とヒントが見つかるかもしれない」
朔夜は何か目をキラキラとさせている。
「望月君が今日ここに現れたというのも何かの導きかもしれないな。北米のスー族には『ミタクエ・オヤスィン』という言葉がある。……私たちは全て繋がっているという意味だ」
なにか高田先輩もかっこいいことを言っている。ここは余計な事は言わず、三人に合わせておいた方がいいだろう。
「何か見つけたら朔夜に報告させます」
とりあえず、俺はここには二度と近づかない方が良さそうだ。このときは本当にそう思っていた。
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