第3話 美容院エッセイを向田邦子風に(ツヅミ版)

美容院に入ると、まず目に留まるのが鏡だ。どこの美容院も、鏡の使い方には工夫を凝らしているが、ここでは三角錐型に設置された大きな鏡がずらり。どの椅子からも鏡が見える位置関係になっているので、合わせ鏡の中の自分の姿が無限に続いているようで面白い。ただし、じっと見すぎると本物の自分がどれだったか分からなくなりそうで、少し怖い。


席に腰掛けると、さっそく美容師さんがやって来る。この店の美容師さんは、オシャレ感が少ない。派手なネイルやフルメイクをしている人は一人もいない。その代わり、みんな庶民的で、親近感が湧く人たちだ。一番若い美容師さんは、めちゃくちゃ明るい声でこう言った。


「いやー、この業界も長いと、設備がいろいろガタが来ちゃってですね。今日なんかシャンプー用のガスが点かなくて、あ~困った困ったとみんなで頭を抱えてました!」


プロの苦悩を本人の口から聞くと、何ともいえない現実感に驚かされる。けれど、この若い美容師さんは暗い空気を微塵も感じさせない。


「じゃあ仕方ない。料金値上げでもいいですよ。協力します」と私が提案するも、「いえいえ。こちらが頑張ります」と笑顔で即答する。なんとも立派な態度だ。


「最近は暗いニュースばかりですからね。先生(私のこと)の文章も、ぜひ明るい話題を書いてください!」美容師さんがよく通る声で言った。


なんだか感心してしまった。最近、暗いニュースに心が沈む日も多い。そんな中、この美容師さんたちは、なんとも朗らかで、希望を忘れない性格の人たちばかりだ。ふと、自分の髪型の仕上がりが気になり、鏡を見るついでに話しかける。


「そういえば、この間サークルの仲間から、私の髪の色がいいって褒められたんですよ。黒の中にほんの少し茶色が入っていて、それが自然でキレイだって。やっぱり職人技ですね!」とお礼を言ってみる。


すると担当していた美容師さんが顔を真っ赤にし、「先生が褒められたら、私も褒められたみたいです!あぁ嬉しい!」と、まるで子どものようにジャンプする勢いで喜んだ。その様子に、こちらの心まで明るくなった。


他のお客さんもいる中で、お喋りは控えめにと思っていたが、話はついつい弾んでしまう。「おしゃべり好きなんだね、この人たち」と密かに思いながらも、愉快な雰囲気に引き込まれている自分がいた。


美容院を見渡すと、おしゃれな装飾はあまりない。でも、特筆すべきは象が三体もあることだ。インドの王族が乗る象のように豪華な装飾がされていて、まるで美術館に飾られている芸術品のようだ。この象がすべてを代表する主役であるかのように堂々と佇んでいた。


ふと、美容師のふたりが着ているTシャツのロゴが気になった。見たことのないデザインだったので聞いてみると、「バイクのロゴなんですけど、ネットで買ったらなんと偽物でした!」とあっけらかんと返答が。こんな話題に、特に悲しげな表情ひとつ見せないあたり、彼らのポジティブな性格が透けて見える。


最後にシャンプー台で髪を洗い終えた後、クーラーの効いた仕切られた部屋からフワッと立ち上がると、髪が艶やかに仕上がっていた。鏡に映る自分にちょっと嬉しくなりながら、アットホームなこの美容院を後にする。


向田邦子風に描くなら、凡庸な日々の中でも一見明るさを纏っているこの小さな幸せや人柄に光をあて、深い共感を呼び起こす物語だろう。特別ではないが、それでも心地よく、記憶に残る。


(以上、ツヅミ風美容院日記である)。


原文、ここに書いておくけど、レベチだから恥ずかしいなあ。

メモ  美容院メモ書き。(以下、自作)


以下のアイデアを、向田邦子風のエッセイPLOTにしてください。


美容院に入ると、目に付くのが三角錐になった鏡である。

その鏡の一つ一つにある、黒いソファに腰を下ろすと、さっそくカットが始まった。美容師さんは、ネイルアートもしていない。化粧もほとんどなし。庶民的な人間たちである。

「この業界も長いから、あちこちガタが来て、今日なんかシャンプー用のガスが

点かなかったんですよ」

 一番若い子が、めちゃめちゃ明るい声で言う。

「じゃあ、料金値上げしなきゃ。協力しますよ」

と言うと、

「いえいえ。こちらが頑張ります」

 立派な態度である。


「この頃、いやな話題が多いから、書くなら明るい話を書いてね」

と、美容師さん。

「このあいだ、サークルで、わたしの髪の毛の色がいいって褒められたのよ。黒い中に、微妙に茶が混じってるのがわかるって。さすが職人芸」

と褒めたら、

「絵里子さんが褒められたら、私もなんだか褒められたみたいでうれしい」

顔を真っ赤にしてジャンプしていた。子どもみたいだな。

「いや、マジで、今まで通ってた美容院で、褒められたことなかったからね。うれしかったよ」

 と言うと、

「嬉しい嬉しい」とはしゃいでいる。おきゃんな美容師である。こういう明るさが、わたしは好きだ。


 いつものように、髪を染め、ドライヤーの熱い熱風を浴びた。部屋はクーラーが効いている。美容院独特の、過剰な匂いは一切ない、質実剛健な店である。

 象の飾りが好きという美容師さんの趣味の写真を撮った。この象の置物のほかに、カープのコラボ商品とか、農協が協賛しているスポーツグッズも見せてもらった。


もし、ここが美術館だったら、間違いなく展示物は、この象の飾りが主役になるだろう。ほかには、カープグッズが並べられ、ひとつひとつ、手に入れた由来などが記されているに違いない。この象は三体あり、どれも王族の乗るインド象のように煌めいていた。


壁のデザインには注視しなかったが、せっかく巨大テレビがあるのに、ぜんぜん話題にしないところが、この若者の趣味を感じさせる。テレビの視聴者は、シニアが多いから、ついていけないのだろう。


シャンプー台の前にそれを置いておきながら、テレビは無視してわたしと雑談に励む若美容師さん。おしゃべり、好きなのね。

シャンプーボトルなどの小物は、シャンプー台の上の棚の中に入っていたので、詳細がどんなものなのかは分らない。


ただ、気になったのは、美容師さんたちがお揃いで、見たこともないロゴのTシャツを着ている事だった。聞いてみると、「バイクのロゴなんだけど、ネットで買ったらペラペラで、偽物だった」そうだ。それほど悔しそうでもなかった。強靱な人だなと思った。ストレスあるだろうに、対人関係が苦にならない性格なのだ。こういう仕事っていいなと思う。わたしにはセンスがないけれど。

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