4-2 どうしてうちにあの壺があったのか
さらに一時間ぐらいして、お母さん達が帰ってきた。
出かける前よりさらにしおしおになったお父さんの姿に思わず笑ってしまった。これはめちゃくちゃなじられたに違いない。
「で、当然わたし達にもちゃんとした説明はあるんでしょうね?」
わざと意地悪く尋ねると、お父さんは「はい、もちろんです」と正座して頭を下げた。
お父さんがオンラインカジノに手を出したのは、ネットでの成功体験の書き込みがきっかけだったらしい。
なんとか「月見亭」をやりくりしているという状態だった一年近く前、このままじゃ店も妻も失ってしまう(お母さんの術後の回復がよくなかったからこのまま……、と思ってたみたい)と精神的に追い詰められたお父さんは、悪魔のささやきに引っかかっちゃったんだね。
で、わたしが想像してた通りのルートでどんどん借金が膨らんで、これ以上は自分じゃどうにもならない、と逃げ出した。
逃げてしまえば失わずに済む、って思いもあったんだね。
「その点は、わたしにも責任があるわね。自分はもうこのまま死んでしまうんじゃないかって、そうなっても仕方ないかなってどこかであきらめてた。きっと、それが顔に出てたのね」
お母さんが衝撃告白した。
わたし、何も知らなかった。のほほんと自分のことだけ考えてて、お母さんが心の中でそんなふうにあきらめてたことも、お父さんが追い詰められてたことも知ろうとしなかった。
「家族のことは、みんなの責任でもあるんだね……」
つぶやいた。
気づきを得たけど、でもやっぱりお父さんのやったことは赦せない。
「お父さんにはこれからちゃあんと罪滅ぼししてもらいますからね」
お母さんがにこにこしてお父さんを見た。
お父さんは「うん。それはもちろん」って小さい声で応えた。
あぁ、もう二人の力関係はずっとこれで決定だね。
「お父さんはどうして今、家に帰ってこようと思ったの?」
「あぁ、それは、これだ」
お父さんがスマホを出してきて、こっちに画面を向けた。
Mikomeちゃんの動画!! 白澄がわたしの両肩に手を置いてるあのシーン!
まさかこのタイミングでっ。完全に不意打ちだったからむせた。
「おぉ、美月は相変わらず画面の中でもかわいいな」
「店の宣伝か? 面白そうなことやってんじゃないか」
白澄と霞火に返す余裕もなくなった。
むせてるわたしを放ったままでお父さんが説明する。
逃げ出してからも「月見亭」のことは気にしてて時々店の名前でエゴサしてたらしい。
白澄と気が合いそうねお父さん。
で、あの動画を見つけて、わたしが店を切り盛りして借金返すのに頑張ってるって知って、戻ってきたんだって。
一応親心は残ってたんだね。
その辺りはちょっと見直したよ。
「で、白澄達のことだけど。うちに封印の壺があるってことは、詳しいこと知ってるんでしょ?」
話してよ、と促すと、お父さんは改めて白澄に「不本意な解放ですまなかった」と頭を下げてから話し始めた。
……大体は、白澄が話してくれていた内容そのままだった。
つまり、千年以上前に最初に白澄や霞火が人としての形を持って、人に害を加えようとする妖と戦った。
この辺りの妖を倒してしまって、役割がなくなった二人は力を温存するために封印されることになった。
次に呼び出されたのが江戸時代で、お父さんの先祖に当たる人が白澄の壺を持っていたからご先祖様の家族が白澄の契約者、つまり伴侶になった。
その時の敵のフクロウは倒せず封印という形になっちゃったんだね。
そして、今回の解放は順序が逆だった、ということだ。
「霞火はどこに封印されてたの?」
「隣町の神社だな。家に帰ってくる前に寄って話を聞いてきたら、突然封印が解かれたようだった、と言ってたよ」
「霞火は神社なのに、どうして白澄がうちだったの? それこそ神社とかじゃなくて」
「白澄がそう希望していたから、だよね?」
お父さんがわたしの質問に答えて、最後に白澄に確認するように振った。
「そうだ。また目覚めるなら同じ血筋の者と結ばれたいと思ったからな。俺の見立ては大正解だった。美月は伴侶として申し分ないどころか最高だ」
ぶわぁっと顔が赤くなる。
「いっ、今は、そういうのはいいから」
声が上ずった気がするけど気にしない。
「それで今回のことだけど、まさかわたしが白澄を起こしちゃったから霞火とかフクロウとかが目を覚ましちゃったのかな」
「霞火はおそらくそうだろうけれど、フクロウは関係ないと思うよ」
お父さんの答えに、ほっとする。わたしがミスったから人に危害を加える妖が復活したなんて申し訳なさすぎる。
「おそらく、そういう時期だったのだろう」
白澄が真面目腐った顔になって言う。
「因縁というものは存外馬鹿にできないからな。フクロウが目覚めるかもしれないから美月が壺を壊すような巡り合わせとなったのだろう」
お父さんが失踪中でわたしに白澄のことを伝える者がいないから、白澄と宮原家のつながりが、フクロウとの因縁が、白澄を目覚めさせる方向に動いたのかもしれない、と白澄は言う。
「それだけ俺と美月との縁が強いということだ」
胸を張って鼻息を荒げて白澄が断言した。どさくさまぎれに後ろからハグしてくる。
「だからっ、そういうのは今はいいっての」
「えー、美月も俺のことを大好き――」
「あーー、それよりも大事なことがあるでしょっ。霞火の今の状況だよっ」
白澄の声をかき消して、問題の核心に触れる。
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