2-4 お店改革の案

 白澄の力がどんなものかが判ってきたところで、その力加減をコントロールできないかということになった。

 これには白澄の協力が必要だから、そういう試みをしてみようと相談して了承を得ている。


 今のお店にとってどれぐらいの効力がいいかというと、うちのお茶を飲んだらほっとする、心が落ち着く、なんとなく体が楽になった感じがする、というあたりがいいだろう。

 問題は、安らぎを感じるのは人それぞれ、という所だけれど。


「それなら簡単じゃないか。美月を基準にすればいい」


 確かに。いつも「実験」ができるのはわたしなんだし。


「そうしようか。白澄、いい提案だね。ありがとう」

「大したことではない。美月の役に立てることが俺の喜びだ」

「もう、相変わらず口うまいんだから」


 ……前ほど頭が熱くなったり胸がどきどきしたりがないのは、わたしも随分白澄の口説きにならされてきたんだなと、笑みが漏れる。慣れって怖いわ。




 二週間ほど「実験」して来て、白澄も随分力のコントロールがうまくできるようになってきたみたい。


 ……ちなみに、二度目の契約のキスはその間に済ませた。

 前よりもドキドキは、しなかった。

 どうしてだろう。なんだか複雑な気分だ。


 さておき。

 白澄の力は狙い通り、うちのお茶を飲むとほっとする、という程度に抑えられているみたいだ。

 評判を聞きつけた人達が来店することもある。


 でも、客足が増えてきて、新たな問題も浮上してきた。

 回転率が少し悪い、ということ。

 お茶飲んで落ち着いてくれるのはすごくいいけれど、落ち着くからか長居する人が増えた気がする。


 そんなに大きくないお店だから、すぐに満席になる。

 お客様の待ち時間が増えると不満にもつながる。

 かといって、あからさまに追い出すようなことはしたくない。


 収益は増えて、この調子でいってくれれば、借金の利子を返すだけでいっぱいいっぱいということはなくなった。

 でも今のままだと、完済までどれぐらいかかるか判らない。


 家が五百万円で売れてくれたら後は銀行の二百万円だけになるけど、それでもなにか大きな収入でもない限り何年もかかるだろう。その間にまた大きな出費とかがないとは言い切れない。


 本当に一気に返済となると、それこそお店も手放して、ってことになるけど……。

 なんとなく、茶屋のお仕事、楽しくなってきたんだよね。できれば転職せずに続けたい。


 つい、白澄にそんな愚痴を聞かせてしまった。


「ふむ。つまり美月は俺との店の経営をとても気に入っているから離れたくない、と」


 すっかりタブレットを気に入って暇さえあれば何か閲覧してる白澄が、こっちに顔を向けて言う。


「誰も『あんたとの』なんて言ってないよ」

「言わずとも伝わるのが愛だ」

「あー、はいはい」

「むぅ。そう受け流されてしまうと切ないな。……さておき、もっと売り上げを増やすにはどうすればよいかということだな」

「うん。そう簡単に行かないのは判ってるんだけどね」


 白澄も、そうだな、とうなずきながらまたタブレットに視線を戻した。


 まぁ愚痴なんだし、すぐにいい案が出るとは思ってなかったけど。

 なるほど、受け流されると切ないという気分がなんとなく理解できた。


 白澄がタブレットを見ながらふむふむとうなずいている。

 いったい何を見てるんだろう。

 と思ってたら白澄がぱっとこっちを見た。


「美月、少し考え方を変えてみたらどうだろうか」


 えっ? 何の話?


「客の回転率をあげるのではなく、来店してくれる客とは別に、物販をすればいい」

「ブッパン?」

「月見亭の茶をオンラインで販売するのはどうだろうか」


 あぁ、物販ね。


「オンラインか。そういうのも一つの手だね」

「あと、インフルエンサーというのか? 発信力のある者に月見亭を宣伝してもらうとかだな」


 白澄、いつの間にそんな今どきの文化を理解してんのっ。

 すごいな。わたしじゃ考えつかなかった。

 でもその案は実行するにしてもしっかり考えてからじゃないと。インフルエンサーが関わるならなおさらね。




 まず、物販を進めるにしても、売り物のお茶やお菓子に白澄の癒しの力を込められるかが問題だ。


 ということで、売り物の商品を手に取って念を込めるようにじーっと見つめる白澄が目に前にいる。


 イケメンの真剣なまなざしに胸が高鳴る、なんてことはないな。

 だって、茶葉の袋を持ってるんだよ。事情を知らない人がはたから見たらシュールだよね。壺から出てきた霊獣なんて存在が既にシュールだけど。


「どうだ? うまくできたかと思うのだが」


 問われて、白澄が念を込めたお茶を淹れ、茶団子を食べてみる。

 ……おいしい。

 ほんわかして、心が優しく洗われるような感覚。


 うん、これなら間違いない。


 ただ、物販やインフルエンサーの話が出てからもずっと考えてたんだけど、これを「癒しの効果がある」と謳って売り出すのはやめた方がいいと思う。

 白澄の異能がバレたら大変だからだ。


 宣伝の仕方は、温泉をメインにしてついでにうちの店もちょこっと紹介、ぐらいでいい。


 あと、インフルエンサー起用の話は相手があることだしちょっと時間がかかるだろうから、それまでの間にできることとして、回転率の改善も考えてみた。


 店に並べる茶菓子の種類を減らそうと思う。そのかわり今までのものより少し上等なものを置く。当然値段も上がるけれどお土産や物販の方は今までのグレードを使って数を売る。


 ってことをお母さんに相談したら「美月も立派にお店の運営を考えてくれるようになったのね」って感動されちゃった。


「――づき? 美月?」


 白澄がわたしの顔を覗き込んでる。

 ついあれこれ考え事しちゃってた。


「あぁ、ごめん。いいんじゃないかな。思わずほーっとしちゃったよ」

「それはよかった。だがこの方法、一つ大きな問題があるのだ」

「えっ、何?」

「力を調整してたくさんの物に与えるのに、思った以上に気を張るということだ。つまりとても消耗する」


 あー、それは、あんまり無理はさせられないな。


「しょうがない。別の方法を」

「いや、その必要はない。解決策も判っている」

「えっ、それじゃ問題ないんじゃない?」

「解決策は、美月ともっと濃密に触れ合うことだ、といってもか?」


 ……はぃ?

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