2-3 秘密の力は究極の愛?

 それからは、白澄と身体的接触を取った取らないと、癒しのお茶の効果を比べてみることにした。


 ……うん、予想がほぼ確信に変わった。


 身体的なふれあいだけじゃなくて、白澄への感情でも違いがあるみたいってことにも気づいた。

 わたしが白澄を突っぱねると――白澄がそれを照れ隠しと思わずに本当に拒絶されたと受け取ったら、癒しのお茶の効果が薄らぐみたい。


 別に「癒し値」みたいなデータがあるわけじゃないからお客様の反応と、味見しているわたしの主観なのだけれど。


『朝、疲れている様子の美月を後ろからそっと抱きしめたら、「タラシめ」とツッコミつつも「ありがとう」と小さくつぶやいていた

 癒しの力:どうやらお客様にはご満足いただけたようだ。肩こりが楽になったという人もいた』


『今日は触れられたくない気分だと美月に言われてしまった。悲しすぎる……。しかし美月の気分は尊重せねばならないのでぐっと我慢だ。

 癒しの力:今日はお茶にこもる癒しの力がいつもより薄かったように思う』


 白澄の日記にも因果関係が読み取れる。(白澄がその辺りを意識しているのかはいまいちわからないけど)

 あぁ、本当に「癒しの力を持つ霊獣との契約」なんだなと、認めざるを得ない。


 でも……、わたしは白澄のことを夫として好きなのかと考えると、ちょっと違うんじゃないかな、って思う。

 そんな気持ちで、癒しの力だけもらってていいのかな。


「店が好評で何よりだな。インターネットでもちらほらと、うちのお茶がよいという書き込みも見られるぞ」

 白澄は何の疑問もなく喜んでくれてる。

 ってか店の評判、エゴサしてるのか。


「美月と俺が愛をはぐくんでいるのだから当然の結果でもあるか」


 にこにこしている白澄の顔をまともに見られない。

 だって、わたし、ずるいよね。

 おいしい所だけもらってるんだもん。


「うん? どうした美月? 今日は『タラシかっ』のツッコミもないな。具合が悪いのか? 熱でもあるとか?」


 白澄が顔を近づけて来てわたしの額に手を当てた。


「白澄は、わたしのどこが好きなの?」


 ぼそり、と、自分でも意図してない質問が口からこぼれた。


「美月はかわいいぞ。顔だけではなくしぐさも。あとは優しいしな。俺が封印を解かれた時も、なんだかんだで俺の話を信じ、家に住まわせてくれた。俺が少々突飛なことをしても本気で怒ることはなかった」


 ああぁぁ、やっぱり白澄、タラシだ。

 でも、……嬉しい。


「ごめんね。わたしは自分の気持ちが、よく判らないの」


 白澄が近くにいることをもう受け入れているし、癒しの力はありがたいと思う。けれど、異性としての好きとは違う気がする。

 さっき考えていたことを、白澄の目を見て話した。


「わたしは、白澄の力だけ利用してる形になってる。……ごめんね」


 真剣にわたしの言葉に耳を傾けていた白澄は、にこりと優しく微笑んだ。

 思わず見ほれちゃう。


「それでいいんだ。おまえの役に立てていることを、俺は嬉しく思う。だから、どんどん利用しろ。そしていつか、本当に俺を伴侶だと思えるようになってくれたなら……」


 白澄の顔が、近づいてきた。

 あぁ、このままキスしてもいい……。

 ……って、ちっがーう!


「どさくさまぎれにキスしようとすんな!」


 白澄の頬をぐいと押して遠ざける。


「無念。いい雰囲気だからいけると思ったのだが」

「いけるとか言うなし」


 あははと朗らかに笑う白澄に、わたしもつられて笑う。

 ……ありがとう白澄。気分が楽になったよ。




 驚くべきことが起こった。

 白澄がうちに来てからひと月近く経つのだけれど、その間に何度かお母さんの見舞いに一緒に行って、白澄のお茶を飲んでもらってた。


 なんと、少しずつお母さんの状態がよくなっているみたいなんだ。


 がん細胞を取り除く手術を受けて、それ自体は成功していたんだけど、体の回復がうまくいってなかったんだ。

 それが、血液検査の結果からして、炎症値が低くなっているし、内臓の機能も回復傾向にあるんだって。


 これって、白澄の癒しの力が働いてるってことだよね。

 病室で、三人で顔を見合わせて小声で話す。


「このところ体調がいいなって思ってたのよ。白澄さんのおかげだったのね」

「でもこの話、外にもれたらかなりヤバいよね」


 わたしの懸念にお母さんもうなずいた。


「どうしてヤバいのだ?」

「それは、帰ってから話すね。お母さんも内緒にしていて」


 幸いにも、ようやくお母さんの容体が安定してきて回復してきたんだ、ってお医者さんも思ってるみたいだし、このままそういうことにしておこうってことになった。


 家に帰って、白澄と向かい合う。


「あんたが霊獣だってことが広まっちゃったり、そうでなくても、病気を癒す力が本当にあるって判ったら、大変な騒動になっちゃうんだよ」

「大きな騒動?」


 今ひとつピンと来ていない白澄に、今の世の中で霊獣や異能がどう扱われるかという可能性の話をした。


 昔はどの程度の認識があったかは知らないけど、今は異能や霊、妖は架空の物ってことになってる。

 それが本当にあるとなると、きっと、その力を欲しがる人達がたくさん出てくる。


 個人的な願いを聞いている間はまだいい。けれど、企業やもっと大きな団体が白澄を欲しがったら、わたしはそれを防ぐことができない。

 白澄にも戦う力がないなら、最悪、二人とも攫われてその団体のためだけに働かされるとか、人体実験みたいなことをされちゃったり、というのも考えられる。


 借金を帳消しにしてスポンサー契約、とか調子のいいことを言ってくるところもあるだろうけど、結局独占したいって考えだろうし。


「うむ……。なるほど。よく判った」


 話の途中までぽかんとしていたけど、だんだん真剣な顔になっていった白澄が、深くうなずいている。


「そういうことなら、俺の力は公にはできないな。これぞ究極の秘密の愛ということだ」

「なんかその言い方だと禁断の愛みたいな変な関係っぽく聞こえるなぁ」


 本当に判ってる? と心配な面もあるが、白澄の力を隠しておくことは納得してくれたみたいで、よかった。

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