霊獣の旦那様はポンコツ!? 毎月キスで契約更新とか聞いてません!
御剣ひかる
1.封印、解放
1-1 壺が割れたら……、ファーストキス
ふわり、と唇に触れた柔らかい感触。
それはひんやりとしていて……。
って、こ、これはっ!
「ちょ、な、何すんのよっ!?」
思わず目の前の男を押しのけた。
相手との距離が開いて、何があったのかをはっきり自覚して、思わず口をごしごしと手でぬぐった。
「男女が契る時は、まずこうするものだったと記憶しているのだが、違ったか?」
「知らんしっ」
思わず即つっこんだ。
薄暗い物置の中で、壺から出てきた謎の美男が小首をかしげる。銀髪に近い真っ白な長髪が揺れた。
美形なら何をしても許されると思うなよ?
それに「まず」ってなに?
ファーストキスをあっけなく奪って、さらに何かするつもり?
今更だけど、イケメンエロ男とずざざぁっと距離を取った。
事の始まりは半月前、お父さんの失踪の連絡だった。
大学を卒業した後、正社員にはなれなかったけれど派遣社員として気ままな一人暮らしを謳歌していたわたしに、銀行から電話がかかってきたんだ。
『そちらは宮原
「は、はい……?」
『あなたのお父様と連絡が取れない状態になっておりますが、どちらにいらっしゃるか、ご存知ないでしょうか?』
「はあぁ?」
青天の霹靂過ぎて詐欺を疑ったぐらいだ。子供を騙るのがオレオレ詐欺なら、これはおやおや詐欺なのか、なんて。
まだそのころは、まさか何かの間違いだろうって考えてたからそれぐらいの危機感しかなかった。
地元に戻って、入院中のお母さんを訪ねた。
どうやら本当らしい。
わたしの実家は京都北部の温泉街にある小さな茶屋「月見亭」だ。
両親が切り盛りしてたけど一年前にお母さんが過労で倒れて、癌まで見つかってしまって、それからはお父さんががんばって店を経営していた。
こっちは大丈夫だ。おまえは自分のことだけ心配してればいい。
って、言ってたよねお父さん?
それでも最初は事故とか事件とかに巻き込まれたのか心配だった。
けど、どんどん出てくるお父さんの愚かな行動の結果に、むしろ死んでていいと呪ったほどだ。
店の経営がうまくいかないお父さんは、なんと今流行りのネットカジノに手を出していたようなのだ。
なので赤字なんて生易しいもんじゃなくて借金まみれ。このままじゃお母さんの入院費も払えない。
とにかく月見亭を畳んで借金は返せるだけ返して、どうにもならないならお母さんに自己破産してもらうしかないか?
自己破産で済むの? 済まなかったら、わたしも、借金返すために手っ取り早く稼ぐ職に就かないといけないの?
よく聞くのは、……水商売!
嫌だ! 絶対嫌だ!
そこまでしなくてもいいように、考えないと。
ってことで家にあるものの中で価値がありそうなものを骨董品店に持って行ったり、ネットオークションに出したり……。
幸いにも、細々とだけれど代々続いてた家柄で、物置にはそれなりに価値のある壺や掛け軸なんかが何点かあった。
そして今日も、物置の一番奥に大事そうにしまわれている壺を見つけたんだ。
骨董品に明るくないわたしでも、今まで見てきたものと明らかに違うと感じた。
一抱えほどの大きさのそれは、古びていてもしっかりした作りで、なにより神秘的なのは蓋と胴体を繋ぐように、お札が貼られていたし。
こういうの、オカルト好きな人なんか、喜びそうじゃない? 高く売れるかも。
「何かを封印した壺とかもっともらしいことを言ったら、さらに値段が上がるかな」
希望的観測をつぶやいた。
「我を売り飛ばそうなどと言語道断!」
ひっ? 壺から声がっ!?
驚きのあまりに、わたしは手を滑らせて壺を落っことしてしまった。
床に落ちた壺は、がしゃ、ってマズい音がした。
あ……。
粉々になったわけじゃないけど、床に当たったところは明らかに割れてしまっている。
そして、そのショックからか、お札がふわりとはがれちゃった。
あー、せっかくの値打ちもの(予定)が!
って泣きそうになってると、壺の割れたところから白い煙? もや? が出てきた。
なにか変なものが入ってた? ショックで発火するヤツ?
数歩下がって、それでも足がすくんで逃げ出せずに、もくもくともやを吐く壺を見ていた。
やがてもやは人の形になった。
「やれやれ、荒っぽい解放だ」
人型になったそれは、紺色の着流し姿の超絶美形な男だった。
驚きや怖さを忘れて、見入ってしまったほどに。
まじまじと見つめてると、その人は、周りをきょろきょろと見た。
「以前封印されてからすっかり様子が変わったようだな。まぁその前もそうであったが」
倉庫を照らす電気を見て「行燈ではないのか。火を入れずとも光るとは奇怪だな」とかつぶやいてる。
「あの……」
声をかけると、その人はわたしに視線を移して、ずいと近づいてきた。
「そなたが我を解放せし者か。名は何と言う?」
「宮原、……美月」
わななく口からやっと名前を絞り出すと、その人は「ミヅキだな」と確認するように聞いてきたから、こくんと声もなくうなずいた。
「我は
シラスミ? カラスミの親戚?
レイジュウって何?
なんで壺に入ってたの?
いろんな疑問がさぁっと頭に浮かんで通り過ぎる。
「なんだその鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔は」
「そりゃ壺から人が出てきたら誰だって驚くでしょ」
「……ふむ。互いの状況を確認せねばならないが、なによりまずは封印を解いたそなたとの契りが必要であるな」
「契り?」
オウム返しのわたしに、男、白澄はさも当然というようにうなずいた。
「我が人の形を取っているには、人との契りが必要であるからな」
白澄は端正な顔をわたしに近づけた。
「我、白澄は、そなた、ミヅキと
なによそれ、まるでプロポーズ――。
笑おうとしたわたしの唇を、白澄の唇がふさいだ。
ほんの一瞬の、けれど一生忘れられないファーストキスだった。
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