第17話 蟹を見たピヨ
「アンデスの崖には、ご覧のようにほら穴が所々に空いています」
2層目、海岸ダンジョン。細長く続く砂浜と左手の海、右手に高い崖。
その崖のほら穴を宮本環が指差して飛鳥美晴に説明している。
初めて来た時に、このダンジョンの作りが南米のチリに似ていると、とあるドルオタ作家が言った。
だから、右手の崖の名前はアンデスの崖なのである。
「穴には魔物がいるんですか?」
美晴はそっと近くの穴を覗き込んだ。
「【岩掘り蟹】って名前のデカい蟹がいます。体長はだいたい1メートル前後で、爪で挟んだものを振り回します。顎も強いので噛みつきも注意してください」
環なら欠損も治す上級ポーションも所持しているだろうが、怪我はしないに越した事はない。
「では、見本を見せます」
1メートルほどの高さの所にある、直径2.5メートルほどのほら穴の入り口に、環がひょいと登る。
ぶんっと投げたのは光源魔法だろう。発炎筒のように一定の時間だけ光り続ける光源によって、ほら穴の奥に潜む岩掘り蟹の黒に近い灰色の甲羅が艶めいて光る。
音に気づいた蟹がラグビーボールほどの爪を鳴らして横向きにこちらに突っ込んでくる。
環は、突進を蟹の尻の方へ避けた後、体を低くして下から上へと魔剣【虎河豚】を振り上げた。
「狙いは肛門あたり。うまくいけばこんな感じにひっくり返るから、両方の爪と脚を落として甲羅の隙間に横向きに剣を突き刺して終わり」
息ひとつ乱していない環の横で、蟹が光の粒に変わりダンジョンに吸収される。
「こんな狭い通路で後ろに回るって難しいんじゃないですか?」
とピヨが訊く。横にいる美晴も頷く。
環があまりにも簡単に動くから見逃しがちだが、あの蟹の突進を尻の方に避けるのは相当難しそうだ。
「いや、大抵の蟹は穴の奥に横向きに寝ている。突っ込んでくる時に頭の向いている方に寄れば、尻の方には大きなスペースが空くんだよ」
と環は胸を張る。
ピヨは『その辺をキチンと説明しなさいよ』と思うが口には出さない。
「まるでサッカーのサイドチェンジみたいですね」
と美晴が言ったので
「そうですね。サイドチェンジ戦法と名付けましょう」
と環は美晴を連れてほら穴を出て行った。
ピヨはひとり残り、魔石を拾う。
親指の先ほどの大きさの岩掘り蟹の魔石は800円ほどで引き取られるのだ。
なんとも勿体ない。
「爪と脚を落とす意味ってあるんですか?」
その後、環と同じような動きで岩掘り蟹を仕留めた美晴が環に質問する。
流石にモノマネが上手い。同じような立ち回りの上に、武器も1ランク上の物なので危なげがない。
「ええっと……
「それって美味しいんですか?」
環は美晴の方を見て「そりゃあもちろん」と涎を拭う仕草をした。
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