第16話 美晴とモノマネ
飛鳥美晴がゴブリンの首を刎ねる。
その後、首を捻りながら倒れたゴブリンの死体を見下ろす美晴。
「今のケースだと肩口から袈裟斬りした方が自然です」
と宮本環がアドバイスとともに素振りしてみせる。
それを真似てもう一度素振りをする美晴の横で、ゴブリンの死体が黒い霧の粒になってダンジョンに溶けていく。
淡々と残った小さな魔石の粒を拾うピヨ。
魔石からは希少鉱石を抜き出す事が出来るらしく、小さな粒でも拾う事を推奨されている。
塵も積もれば山となるのに、コイツらは美しく魔物を狩る事しか考えていない。
「相手がどう構えているか、どう動こうとしているのかで、当然ですがこちらの動き方が変わりますからね」
「しかし、ゴブリンなんてどんな狩り方でも倒せますよね?」
とのピヨの疑問にも
「弱いゴブリンから基本を学ぶ事で、より強い魔物に対応しやすくなるのだよ」
と胸を張る環に、ピヨと美晴から「おー」と感心の声が漏れる。
「でも環さんて、いきなり強くなったんですよね?」
美晴の魔剣カーネーションを鞘に収める仕草も様になっている。
ピヨは美晴のそんな疑問にもっともだと思った。
宮本環は
その彼女が基本を語るなんてどういう心境なのだろう。
「そう……能力は強くなったけど、型は滅茶苦茶でしたからね……どれだけの武器を無駄にしたか、振り返ると恐ろしいわ」
それを聞いて「あーなるほど」と頷くふたり。
ほとぼり村ダンジョンは今日も平和である。
飛鳥美晴は本当に型を真似るのが上手い。
ついさっき環が倒した方法と同じやり方でひょいとゴブリンを倒すと、ピヨの撮影した動画を見直して小さく独り言を呟いている。
ピヨの手元のデジカメを覗き込む美晴から、いい匂いがする。
「ピヨ、惚けた顔をしてるよ」
と環が言ったので、近くにいた美晴がそのままの距離でピヨの顔を見上げた。
その瞬間、20代健全男性のピヨの意識が飛びそうになる。
それくらいの微笑みをしていた。
「さすが女優。距離の詰め方が上手いわ」
との環の声に
「俳優ね、今の時代は」と美晴が振り返る。
「実際、男女問わず俳優なんて、誰もが人との距離の取り方が上手いんですよ」
「この村のことを知っているセレブは、誰も皆これぐらい出来るんだからピヨは気を抜かないようにね」
環の指摘に、美晴はふふふと笑って誤魔化した。
春にフロアボス、プチサラマンダーを倒した場所に、2層目への門がまだあった。
「では、下の層へと参りましょうか」
層から層へと繋がる、長い人工的なスロープを下る環と美晴。
それを後ろから撮影するピヨ。
「なんか、歩き方まで似てきてますね」
ピヨの声が石壁に響いた。
「そうですか? 嬉しい」とはしゃぐ美晴と、その横で微妙な顔をする環。
一行は目的地の砂浜へと着いた。
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