第6話 友達
時間は夕方となり、店は閉店の時刻となった。
恵は覚えが早かった。難なく今日一日を無事に終える事ができたらしい。
さっきまで、陽子と一日の振り返りをしていたようだったけど。そろそろそれも終わる頃だろう。
まだしばらくは慣れないだろうが、自分たちアルバイターは基本的に同じ動きなので問題はないはず。もし何かあれば、同じ立場として助太刀するつもりだ。
「ありがとうございましたー」
真介は店の前で最後のお客さんを見送り、扉に掛けられたOPENの看板をCLOSEにひっくり返してから店内へと戻る。
「ごめん、真介それじゃ私。先に上がるね」
「はい、お疲れ様です」
実家に子供を預けている陽子は、一足先にそう言って店を出ていこうとする。
「あっ、それと悪いんだけど、恵ちゃんに部屋の案内とか喫茶店の鍵の事とか色々教えてあげてから上がってくれる?」
「わかりました。いいですよ」
「ありがとう。今日は仕事のことしか教えてあげられなかったから。よろしくね!」
今日は日曜日。仕事のことは教え切れても、恵の一人暮らしの事についての世話までは手が回らないでいたようだ。
(陽子さんは自宅の事もあるし。俺も世話になってるからな)
真介は文句一つなく、頼まれた事を了承する。
「じゃあ、恵ちゃんもごめんね。今日はお疲れ様」
「はい! お疲れ様でした」
元々とこの店には祖父が住んでいた事もあり生活するための設備は整っている。
だから、部屋の案内くらいであれば問題なく真介にもできると踏んだのだろう。
「天乃さんが今日から住むってことは、引っ越し作業とかはもう住んでるんだよね」
「はい。荷物も最低限の物だけ持ってきたので、今は更衣室に置かせてもらってます」
「じゃあ、閉店作業が終わったら簡単に案内するよ」
「ありがとうございます。草薙くん」
「…………」
店内の片付けを、と思った真介だったが一つ気になることがあった。
「草薙くん? どうかしたんですか」
「いや、俺と天乃さん。同い年だしタメ口でいいのになと思って」
「あっ、そういえばそうでしたね」
指先で口を隠すように恵が両手で覆う。
(なんだか今の動き、小動物みたいで可愛いな)
「俺もその方が楽だから。どうかな?」
初めて挨拶を交わした時は陽子もいた事もあり敬語を使っていた真介だが、気がつけばそれは薄れ学校での友達と変わらない接し方へと変化していた。
まぁ、女性の知り合い自体少ないんだけど……。って、それはどうでもいいか。
「私も気が回らなくて、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。天乃さんがその方が良いって言うなら無理強いはしないけど、同い年相手に敬語で喋られるのがこそばゆくてさ」
「いえ、そんな。でも、この方が話しやすいので」
「それなら、全然大丈夫だよ。分かった、じゃあ俺はこのまま敬語じゃなくてもいいかな」
「もちろんです!」
「あー、でも俺、異性の友達も少ないからさ。女子と話すの慣れてなくて。変に感じたらごめん」
(友達すらろくに作れないのだが……)
学校での友人関係がほぼ皆無な真介。しかし、接客業である喫茶店でのアルバイトを始めてから一年も経てば、人と話すこと自体はそれなりに出来るようになっていた。
ふとそれを手伝ってくれた男勝りな陽子の姿が頭に浮かぶ。
「友達……」
「天乃さん?」
色々と考えていると、今度は恵の方から言葉を紡ぎ出した。
「あの、草薙くん。私たちは、もう友達ですか?」
「えっ、うん?」
子供の頃と違い。口に出して友達になろうというような年齢でもお互いない。
真介からしてみても、同い年で学校も同じ、アルバイト仲間ともなれば会って間もないとはいえ、友人関係には変わらないと判断していた。
(あ、でも。元アイドルと友達なんていったら失礼か……)
「それなら、敬語を外すの頑張ってみます。……あっ、みようかな」
この感じだと、ラフに話すのはまだ難しそうだ。
「天乃さんごめん。無理にとは」
「嬉しいです……」
「えっ?」
想像していた応答とは違い、間の抜けた返事をしてしまう真介。
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