第16話:王位継承戦、始まる

――この王国では、“王になれる者”ではなく、

“王を創れる者”が最後に笑う。


「このたび、王国評議会は次期王位継承者候補として、

第一王子ルキウス殿下および第二王子ライニス殿下を正式に指名いたします」


その発表がなされたのは、王宮の“評議の間”。


議長代行の老侯爵が読み上げる中、

広間にいる貴族たちは誰もが緊張の色を隠しきれなかった。


本日を境に、王国は――“表向きの内戦”に突入する。


それは、言葉と権力と策略が殺し合う、

決して血の流れない戦争であり、

同時に誰より多くの命を奪う争いでもある。


「以上をもって、“王位継承戦”の開幕を宣言する」


広間にざわめきが広がる。

だが、その中心にいるイレーヌ嬢だけは、真っ直ぐ前を見据えていた。


――それが、わたくしの誇る“王妃候補”にございます。


「お嬢様、これより“各派閥の選妃問答”が開始されます。

殿下と歩む覚悟、もう一度確認させてください」


「わたくしは、もう迷いません。

仮に命を落としても、最後まで“殿下の妃”として立ちます」


「……その覚悟、お預かりいたします」


私は深く頭を下げた。


今や彼女は、守られる側ではない。

ともに立ち、戦う“同士”だった。


舞台は急速に動き出す。


ライニス殿下は、政務を通じて民心を掌握する策を次々打ち出し、

王太子派の背後には“宰相派”や一部の軍部が加勢しはじめた。


さらに、イレーヌの出生に関する“疑惑”――

「彼女の母が、実は国外の血を引いている」という中傷までが飛び交い始めた。


中立派貴族たちの間で、“イレーヌはふさわしくない”という声が増えていく。


その状況を受けて、王太子が声をかけてきた。


「……君の素性について、知っている者がいるようだ」


「誰が?」


「第二王子派に、“アルヴィス・ヴァンダール”という参謀がいる。

元諜報部出身で、かつての“ナイチンゲール”の記録に通じている」


私は瞬時に理解した。


その男は、ミレイユ――**“元・殺し屋”**としての私の過去を暴こうとしている。


「もし公になれば、イレーヌも危うい。

教育係が“暗殺者だった”などと知られたら、正統性が崩れる」


「対処いたします。わたくしの“過去”が災いになる前に――

“刃”として始末をつけてまいります」


「……君にそれを命じたら、僕は君を失う気がして怖い」


王太子の目が揺れていた。


だが、わたくしはその手を取って膝をついた。


「殿下。

わたくしがこの仮面をつけている限り、

“何者であっても、貴方の刃”にございます」


その夜、私は一人、王宮の地下へと潜った。


アルヴィス・ヴァンダール――

第二王子に忠誠を誓う参謀。その本拠地である隠密室へと。


潜入、情報収集、暗殺。

かつての任務とまったく同じ。


……だが、今のわたくしは“殺す”ためではなく――

“真実を止めるため”にここに来ていた。


扉の奥、アルヴィスがいた。


そして、わたくしの仮面を見るや否や、驚いた表情を浮かべた。


「……まさか。君が、生きていたとはな」


「過去を語るつもりはありません。

ただ、これ以上わたくしの情報を流せば――

“黙らせる”だけです」


「君はまだ、仮面をつけたまま生きるつもりか?」


「それが、“命をかけて守るものがある者”の選択です」


アルヴィスはため息をついた。


「君のような化け物が、どうして“教育係”なんてしてるんだ?」


「それは、わたくしが“人を生かす刃”でありたいと願ったから」


次の瞬間。

アルヴィスは首筋に短剣を当てられていた。


わたくしは彼を殺さなかった。

ただ、その脅威を示しただけだった。


「この情報が外に漏れたら、次は“言葉”ではなく“結果”で語らせていただきます」


そして翌朝。

王宮では、ある一つの噂が立ち消えた。


――イレーヌ嬢の教育係に関する“過去”は、誰も語らなくなった。

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