森実三姉妹の日常
第1話「カレーの食べ方」
「
「はーい」
夕飯のお知らせを部屋で貰って、読んでいた漫画を閉じ立ち上がった。
「今日のご飯なに?」
「カレーだって」
「えー……またぁ?昨日も、その前もカレーじゃん。三日連続はさすがに飽きるんだけど」
「……それ、お母さんの前では言っちゃだめよ」
部屋の外で待っていた長女――
「今日のご飯なに?」
「カレーだってよ」
「え〜、また?」
美海とも同じような会話をして、リビングへ続く扉を開けた。
食卓テーブルの上にはすでに完成された料理が並べられていて、それぞれ所定の椅子に座って母と父の着席を待つ。
空澄姉は勉強中だったのか、重ための黒縁眼鏡をかけてたけど、邪魔だったんだろう。おもむろに外してそばにそっと置いていた。そして、黒く長い整えられた髪を後ろで軽く結う。食べる準備万端である。
「ねぇ、美海これやだ。ルーとご飯は別がいい」
「わがまま言わないの」
美海はさっそくケチをつけてカレーと白米の乗ったお皿を返却して、空澄姉に諭されていた。
「もう食べていい?」
「みんな揃ってからね」
早く食べたいんだけどな……という文句はしまいこんで、スプーンをプラプラ持って待機する。
結局、美海の分は父が回収し、新しくルーと白米を別皿で用意し直した母が戻ってきてから、ようやく家族五人の晩餐が始まった。
全員で揃って「いただきます」を言った後は、各々自由に食べ進めていく。
あたしは真っ先に皿の中身をぐちゃぐちゃに混ぜて、その隣で空澄姉はルーと白米の境から綺麗に掬い取り、美海は先にカレーだけを口に運んだ。
ちなみに量は、空澄姉が並盛、あたしが特盛、美海は小盛である。
「いつも思うけど、理久姉の食べ方汚すぎ。きもい」
「は?これがうまいんだよ」
「ごちゃまぜにして食べるとか信じらんない。米に味つくの気持ち悪くない?」
「うるさ。人の食べ方にケチつけんな」
「喧嘩しないの」
うざい妹と、仲裁に入る姉の間に挟まれて、抱いた不満は肩をすくませる程度で留めた。
「どんな食べ方でもおいしいよ。お母さんが作ってくれたんだから」
「出た出た、綺麗ごと。空澄姉はいつもそう」
「……ほんとに思ってるんだけど」
「ご飯中に空気悪くすんなよ、まずくなるから」
今日は虫の居所が悪いのか、やたら突っかかる美海に対して、さすがの空澄姉も眉間にシワを寄せていた。
喧嘩にもならない些細な険悪さはたまにあることで、特に気にも止めずカレーを平らげて、早々に退散しようと立ち上がる。
「自分の分は自分で片付けなさいよ」
「はーい。ごちそうさまでした……っと」
母に言われて、気だるげに食器を持ち上げた。
「私もごちそうさま。お母さんありがとう」
同じくらいのタイミングで食べ終わった空澄姉も眼鏡をかけ直してから食器を持って、食べるのが遅い美海と二人前を黙々と食べている父を尻目にふたりでキッチンへ向かう。
シンクに置くついでに洗い物を始めた空澄姉に自分の分も任せて、あたしは冷蔵庫からキンキンに冷えたコーラを取り出してひとりリビングを後にした。
部屋に戻ったら、待ちに待った自由時間。
明日は学校も休み、お風呂ももう済ませた。となれば……後は思う存分、夜ふかしを楽しむだけである。
「今日は何やろっかなぁ〜…」
棚に並べられた数々のゲームを前に、ワクワクした気持ちで物色していく。
最終的に選んだのは一昔前に流行した本格的RPGで、カセットをセットして、モニターの前に折りたたみテーブルを開いて、持ってきたコーラと部屋に常備しているスナック菓子を雑に置いた。
ベッドを背もたれに、ヘッドセットも用意して……万全な状態で、趣味の時間を楽しむ準備は完了。
後は起動させるだけ、って時に。
「理久、寝ないの?」
洗い物を済ませたらしい空澄姉がやってきた。
「ノックしてよ」
「ごめんごめん。…入るよ?」
「……遅いよ」
扉が開いてるのにわざとらしくコンコンと叩いた空澄姉は、いいよとも言ってないのに入ってきて、あたしの隣にちょこんと座った。
「なんのゲーム?」
「別に。普通のRPG」
「見ててもいい?」
「……いいけど」
乙女ゲー以外は興味のない空澄姉が……珍しい。
まぁ、理由は分かる。さっきの険悪さを引きずりたくなくて、仲直りを目的としてるんだろう。あたしとは喧嘩してないのに。
あとは、単に寂しがりやだから。ひとりで過ごしたくないんだろうな。
「あ。もうゲームやってる」
「……なんだよ」
「今日はRPG……いいね」
遅れてやってきた美海も当たり前のようにあたしの隣に座って、食事の時と同じ並びで姉と妹に挟まれたあたしは、ため息をつきながらもゲームをスタートさせた。
「おい、それあたしの」
「いいじゃん。どうせ食べきれないんだから」
始まってすぐ美海は勝手にお菓子を開けて、悪びれもせず食べ始めた。
言っても聞かないし、まぁいいやと気を取り直してコントローラを操作していく。
はじめはおとなしく見ていた空澄姉までそのうちお菓子に手を出して、右から左から手が伸びてくるのはなんとも鬱陶しい。
「負けてんじゃん、ざこ」
「お前今日まじでうざいな」
「何かあった?」
機嫌の悪い美海に、あたしを挟んで覗き込む形で空澄姉が話を聞いて、ぽつりぽつりと話し出した妹の愚痴を受け流しつつボス戦に挑む。
愚痴の内容はくだらない女子同士のいざこざで、最近の中学生はませてんなー……とか思う。
優しい空澄姉は「うんうん」と親身になって聞いていて、途中からもうあたしは聞かなくていいかなとヘッドフォンを装着する。
完全に蚊帳の外へと自ら抜け出したあたしにも気を使ってくれてるのか、定期的に空澄姉はお菓子を口に運んでくれるから、ありがたくそれを咀嚼した。
集中してやってるうちに、気が付けば肩に重みがあって、横を見てみたらまだまだ幼いクソガキの寝顔がそこにはあった。
ヘッドフォンを外して、真後ろのベッドから毛布を引っ張って適当に美海の体に掛けた。
「こいつ重い」
「……場所変わる?」
美海を指さして言ったら、真に受けた空澄姉に提案されて首を横に振る。
「いいよ。……それより、暇じゃないの?見てるだけじゃ飽きるでしょ」
「ちょっと暇。見てるだけでも楽しいけどね」
「……空澄姉も、やってみる?」
そろそろ飽きてきたのと、空澄姉がこういうゲームやってるとこ見たことないっていう興味本位で勧めてみたら、「いいの?」とコントローラを受け取った。
操作方法とか、戦闘の基本的なやり方を軽く教えてからは、お菓子片手に画面をぼーっと見る。さっきのお返しに、たまに空澄姉の口にも運んでやった。
「今、このボス倒せなくてさ」
「なんで倒せないの?強いの?」
「レベル足りてない。あとスキルも解放できてないから」
「私、レベル上げは得意だよ」
「まじ?じゃあ、お願いしていい?」
「もちろん」
目的も無くダラダラやるよりは良かったんだろう、空澄姉は嬉々としてレベル上げのための戦闘を始めた。
あたしはそういうの退屈で、負けると分かっていてもボスに挑むだけ挑んじゃうタイプだから、不思議な感じだ。
レベル上げは単調作業すぎて、見てるだけでも飽き飽きとしてきたせいで気が付いたら意識は暗闇へと落とされていた。
次に目が覚めた時、空はもう明るく、遮光カーテンの隙間から差し込んできた朝日で目を覚ました。
体を起こすと、いつの間にか掛けられていた毛布がずり落ちる。
「……まだやってたの」
私の隣で、空澄姉は無言でカチャカチャとコントローラを操作してたから、驚き半分に声を掛けた。
「けっこう楽しくて、つい」
よほど気に入ったみたいで、時間も忘れてやり込んでいたらしい。
コントローラを返されて、「さすがに眠い」と人のベッドに潜り込んだ姿を見届けて、どれだけレベルが上がったのか確認してみる。
「スキルえぐ……」
一晩でここまで進むの?ってくらい開放されたスキルの数々を見て、ただやってただけじゃなくきっと効率の良さも求めだしていたんだろうことを察した。
試しにボス戦に挑んだあたしはあまりにも簡単に倒せてしまったことがつまらなくて、ちょうど起きてきた美海にコントローラを投げ渡して寝た。
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