「第十四節:反撃の狼煙」後半

「……つまり、誰かが俺たちの情報を、外に漏らしていると?」


霧島凛が強い語調で言った。彼女の蒼い瞳は御厨をまっすぐに射抜いた。

御厨はそれをやんわりとかわすように肩をすくめる。


「僕が疑われてるのかい? まいったな……」


「そうは言っていない。ただ、“情報が漏れている”という事実に対して、誰がアクセス可能かを洗っていくしかない。俺も含めて」


一翔の言葉に、神崎が静かにうなずいた。


「対処するのは俺たちの義務だ。が、今はそれより——」


神崎はテーブルに一枚の古びた地図を広げた。瘴気濃度の推移と、魔物の行動変化。すべてが一点、“東京湾北西端の瘴気裂け目”へと収束している。


「……“瘴核”が目覚めようとしている」


一翔は思わず息をのんだ。


「核、だと?」


「まだ不確定情報だ。だが、そこから瘴気の波動が異常活性している。新種の魔物群が出現する可能性がある」


それは、敵が次の段階に進んだという証だった。


「君のダンジョン、防衛機構は?」


「手は打ってある。だが、もう“一段階”仕込む必要があるな」


そう言って一翔は立ち上がった。

この拠点マイルームダンジョンは、内部を自由に拡張・強化できる特殊スキルの恩恵を受けている。

彼はその能力を最大限に活かし、罠・防衛陣・偽装構造、すべてを自らの意志で変えていける。


「紗夜、手伝ってくれ。魔力配分と結界陣の再調整を」


「了解。……でも、ねえ一翔」


振り向いた彼女は、わずかに寂しそうな笑みを浮かべていた。


「信じられる人が少なくなってきてる気がする。私たち……この世界、大丈夫なのかな」


「わからない。ただ……俺は、自分が信じたい人間のために戦う」


その言葉に、紗夜は小さく目を見開いた。

やがて、ゆっくりと、力強くうなずく。


「——なら、私も一緒に戦う。あなたの選んだ未来のために」



数日後。

ギルド本部で行われた非公開の戦略会議。


幹部の一人——柳瀬遥香が、誰にも気づかれぬよう懐からメモリーデバイスを取り出す。

それを小型の通信端末に接続し、目立たぬよう薄く笑った。


『……受信完了。これで“次”の手が打てるわね』


その目に映るのは、ギルドの地図と、一翔の拠点座標。

彼女は、かつて“家族”を守るために罪を背負い、それゆえに“敵の取引”に乗った者だった。


「——裏切りじゃない。これは、生存のための選択」


その囁きは誰にも届かず、深い闇の中に消えていった。



夜。竹ノ塚の拠点。


一翔は地下に拡張した新フロアにて、最後の調整を終えていた。

彼の前には、巨大な結界魔法陣。侵入者を瞬時に無力化する“魔法封印陣”と、“重力崩壊結界”が交差した新しい防衛構造。


「これで、少なくとも“正面突破”は不可能になる……あとは、仲間を——」


その瞬間、上階から悲鳴のような魔力のうねりが響いた。


「侵入者だッ!」


一翔は跳ね起きると、すぐに転移で拠点内部を駆け上がる。


見慣れた部屋に漂うのは、焦げた空気と、魔法障壁の焼け焦げた痕跡。

紗夜が血のにじむ腕を抱えて立っていた。


「……っ、敵の偵察……人型だった。普通の魔物じゃない……」


一翔の眼が細められる。


「——なら、こっちも準備を始めよう。反撃の狼煙を、上げる時だ」

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