第四節「最初の仲間、そして動き出す陰影」

「登録完了っと……」


竹ノ塚ギルド支部のカウンターで、朝比奈一翔は新たに交付されたIDカードを手に取った。


【登録番号:JDA-138271】

【名前:朝比奈一翔】

【称号:適応者・初級】

【スキル:弱点看破(ランクE)】

【ギルド:東東京「鳳凰の焔」準所属】


国家とギルド、双方に認可されたIDカード。これ一枚で、魔石の換金、物資支給、探索許可、ダンジョン内での“武力行使”の合法性が保証されるという。


「これで……“合法的に”潜っていいってわけか」


「そう。無登録者だと、この世界で“ただの戦力”として狩られる可能性すらある。まぁ、物騒だけど事実さ」


狩野拓巳は書類を整理しながら言った。


「それと、君の初期登録者として、もうひとり紹介したい奴がいる」


「誰?」


「おーい、こっち!」


ドアの向こうから入ってきたのは、陽光を跳ね返す金色の髪と、黒と赤を基調とした戦闘用ジャケットを着た、すらりとした少女だった。


「うわ……外人?」


「外人じゃないよー、日本生まれ日本育ち、都立竹ノ塚総合高校、二年生。**白神紗夜(しらがみ・さよ)**っていいます」


軽やかに手を振る彼女の声は、見た目とは裏腹に、どこか竹ノ塚訛りすら感じさせる親近感のある調子だった。


「君が“クローゼットダンジョン”の初発見者? 噂になってたんだよね。ちょっとイケてるじゃん?」


「……あんた誰?」


「私? 一翔くんの、初めての戦闘パートナーに選ばれました! ギルド推薦です。よろしくー」


一翔は顔をしかめた。軽すぎる。しかし、その目の奥に隠された光には、ただの軽薄さではない鋭さがあった。


狩野が補足する。


「紗夜はこの支部で最年少だけど、適応能力はかなりのもの。スキル《圧縮魔弾(コンデンス・バレット)》を持ってる」


「魔弾……? 魔法かよ」


「そう。しかも瞬間火力型。見た目に反して、けっこう派手だぞ」


「反してるって何さ。私だってやるときはやるよ?」


軽口を交わしながらも、紗夜の表情には揺るぎない自信が宿っていた。


「それと、もうひとり。支援役が欲しいだろう?」


扉が再び開き、今度は長身でがっしりとした少年が入ってきた。


「お、朝比奈一翔。写真より元気そうで何より」


「……お前は?」


「橘蓮司(たちばな・れんじ)。ギルドの探索班所属。支援スキル《魔力補助》《肉体強化》持ち。戦闘もそこそこできるし、俺が後ろで支えてやるよ」


どこか体育会系のノリだが、目元は鋭く、身体の動きに無駄がない。一翔は無言で手を差し出した。


「……よろしくな」


「おう。背中は預けとけ」


それは、かつて会社員時代のチーム作業でさえ味わえなかった、奇妙な連帯感だった。



その日の午後。ギルドから支給された装備を携え、三人は“地元型ダンジョン”の調査へ向かった。


行き先は——西新井大師の境内地下。


最近報告された“局所的異常地帯”。地面にぽっかりと口を開けた穴。その奥に、ダンジョンがあるらしい。


「こんなとこが……?」


一翔は驚いた。西新井大師といえば、正月には参拝客で賑わう地元の名所。だが、今や柵が張られ、封鎖されていた。


「封鎖エリアの一角だよ。調査済みで、瘴気レベルは低め。つまり、初任者向けの“訓練フィールド”ってわけ」


狩野の通信が耳元のイヤピースから届く。


「ただし油断は禁物。ダンジョン内部は“不確定構造”。時間や空間すら歪むことがある。慎重に行けよ」


「了解」


地下に続く螺旋階段を、三人は慎重に降りていく。


照明もない。だが、ダンジョン内では魔石のかけらを埋め込んだ“瘴気ランプ”がぼんやりと光を放っていた。


「これが……異世界、ってやつか」


「違うよ。一翔。これは“この世界の裏側”——って感じ」


紗夜が囁くように言った。


「だって、これ全部、私たちの“足元”に広がってるんだよ?」


「……そうか」


異常は、空の向こうから来たわけじゃない。

自分たちの、日常のすぐ下に口を開けていたのだ。


そのとき——


「来るよ、左!」


紗夜の叫びと同時に、壁の裂け目から這い出てきたのは、小型のゴブリン型モンスター。


「人型系……! 初手からこれかよ!」


「落ち着け、敵の動きは遅い!」


一翔は手にしたレイピアを構え、集中する。


——スキル、発動。《弱点看破》


目の奥に、ゴブリンの胸元にある光点が見えた。


「弱点、胸部の左側!」


「了解!」


橘が一翔の後方から風を巻き起こし、ゴブリンの動きを封じた。紗夜の魔弾が、それを正確に撃ち抜く。


「……撃破確認」


「初戦、上出来じゃない?」


「……ああ」


わずかな勝利だった。だが、何かが始まった感触があった。


そして、一翔たちの背後——

その様子を“遠隔視”していた者がいた。


「ふむ……面白くなってきたね。『クローゼットの主』、か」


男は漆黒のスーツに身を包み、どこかの高層ビルから東京を見下ろしていた。

その背後には、赤いギルド紋章と“国家特務監察局”のエンブレム。


——朝比奈一翔の存在は、すでに国家の“目”に捕えられていた。

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