5 夜と霧の中

 ピッ ピッ ピッ ピィ――


 ・・さぁ、時計の針、てっぺん回っちゃったね、、(ラジオノイズ)


 いやぁ、今日は「川崎ボウリング主催:お見合いバトル」の司会を務めたんだけど、やっぱり若い子女の子たちのディスリ合いは観ていて楽しいというか、、(ラジオノイズ)


 ・・さぁ、ナウでヤングな皆の夜はこれからだよね!じゃぁ、今晩も手と手を合わせ、正座で聴いてね、、それじゃぁ、レッツ、、(ラジオノイズ)


 この番組は『●●団体光愛』『宗教法人●●救済の箱』『詩集の街●●』の提供で全国14局をつないで放送してます、、


 ・・まずは、頂いたおハガキから行こうかな。埼玉県秩父にお住まいのペンネーム「蠅とり銀紙」さん__なんか「横浜銀蠅」みたいな名前だね__はは、知らないか、え~


『渋谷さん、こにゃにゃちは』。はい、こにゃにゃちは。これ、赤塚先生バージョンの返しで良いのかな?


『もう10月なのに暑い日々が続いてますね。日本から秋が無くなり20年ほど経ったと言いますが、おじいちゃん曰く、秋は本当に自然が綺麗で美しかったっとのこと。渋谷さん【紅葉】って知ってますか?』


 当然、知ってますよ。でも、僕が20歳の頃かなぁ、、例の中華南北核戦争、印基のジェノサイド紛争、それと、地球の自転軸変化もあって世界の気候が大きく変わって、「紅葉」とか「中秋の名月」とは無くなって、、(ラジオノイズ)


『ところで、私はとある山の麓に住んでるのですが、近所に【孔雀池】があります。そうです、14年前、世界中の火山地帯で突如発生した【マラカイトレイク】の一つです。』


 あぁ__そうか、もう14年経つのか。世界の火山地帯に突如として綺麗な湖が、、確か【カルデラ湖】のような感じの透明感のある小さな湖、、一時期話題になって、、(ラジオノイズ)


『当時はSNSで相当盛り上がり湖周辺は賑わったと聞いてますが、今となっては奇譚性も廃れてしい、観光としても弱く、誰も存在を気にしていないのが現状です、』


 そう、確かに奇譚でしたね。世界で100個ほど同時発生したから「世界の終わりだ!」なんて叫ぶ連中も多かったようだけど、14年経つとオカルト系連中も話題にはしないんだね。出版業界もかなりそれで儲けたって話を聞いた、、(ラジオノイズ)


 そういえば、発生原因や同時性の理由は科学的に証明されてないままだよね__あぁ、早く続きを読めって?


『そんな寂れた湖なんですが、実は、最近大きくなってるんです。元々、直径20mほどの小さな湖だったんですが、驚くことに、昨年と比較して10mほど大きくなっているんです。』


 計ったんだ。すごいね、、う~ん、、湖って大きくなることはよくあるらしいよ。水源の問題なのかもしれないけど、、


『ですが、私が気づいたのはそれだけではありません。なんと、湖の底に沈んでいる倒木も変化しているんです。龍のような倒木が生き物のように動く様子が、、(ラジオノイズ)


 へぇ、、そんな変化がねぇ。でも、、(ラジオノイズ)


『何時か、湖底の倒木が本当の龍へと変態するのではと密かに期待している反面、どこか恐ろしさも覚える今日この頃です。こんな変な話ですが、気になって気になって部活の【介護詐欺】にも身が入りません、』


 冗談だと思うけど、そんな部活、身を入れんでいいわ。でも、流行ってるんだよね【介護詐欺】って、、


『渋谷さんならどうします?周囲に話をしてもと笑われるばかりです、、是非とも、、(ラジオノイズ)



 *暫く、トンネル通過のためラジオノイズが続く



 ・・え~、では「蠅とり銀紙」さんのリクエストで・・懐かしいね。この曲も14年前になるのか。歌ってる「亜翠里奈さん」は所謂「カオナシ」女性歌手でしたね。この曲は相当売れたんですが、それ以降は残念ながら、、(ラジオノイズ)


 僕、一度お会いしたことあるんです。曲調から不思議チャンってイメージを持ってたんですが、真逆で、物静かな女性、、知的な女性って印象でしたね、、


 __それでは聴いてください。「亜翠里奈」で「カナマラ祭りで捕まえて」。



    ****



 東北自動車道/三本木ICを越えたあたりから夜は霧が深くなっていった。


 車内に流れるラジオ番組。振幅変調ラジオが廃止されネット配信が当然とされる中、レトロ感覚を楽しむ一部に向け放送され続けている深夜番組。


 リスナーリクエストで流れる「90年代渋谷系サウンド」と「70年代アイドル」のような歌詞のミックスが、不可思議な奇譚のような雰囲気を醸し出していく。


 その不安定さを嫌ったのか、無表情の江沼はラジオのチューンを変えると、幾つかの旅の果てに「Round About Midnight」が流れる番組へと辿り着いた。


 一気に、それまでの奇譚を拭い去り、Miles Davisのブルーな色彩が碧人を染める。再び眠りに落ちた少年の灯を、夜の静寂に、、それは、、


「例え、レンブラントでも描けはしないだろう、」


 呟く江沼は夜と霧の中、自動運転に頼らず車を走らせた。


 碧人が隠れている砂漠の集落へと、、

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