第3話 ある意味メデューサ

「――おっはよー景太郎くん♪」

「あ、今日は先に居るのか……」


 あくる日の朝も、僕は他校の一軍ギャルこと白石さんと駅のホームで遭遇した。

 いつもと違って白石さんが先に居たのだけれども、これは珍しいというか初パターンである。


「たまには景太郎くんに勝ちたくて早く来ちゃったw」

「別に勝負してたつもりはないんだけどな」


 でもそんな風に張り合ってもらえるのは結構嬉しい。

 白石さんの中に僕という存在が意識付けられているということだ。

 こんな陰キャのことを考えながら家を出るモチベはよう分からんけれども。


「でもさ……女子って早く出るの大変じゃないのか?」

「なんでそう思うん?」

「いやほら、メイクとか……」


 僕の通う高校でも、一軍たちはやっぱり見た目を研鑽している。

 運動部女子はそうでもないけれど、帰宅部ともなればナチュラルメイクは普通にやっている印象だ。


「まあね。でも私はすっぴんだし別に時間取られんよ」

「え、すっぴん?」

「ちょ。え、って何さぁ」


 ぷくぅー、と白石さんが不服そうにほっぺをお膨らませになられた。

 ん、マズい反応でもしただろうか……。


「私のこと、厚化粧モンスターだとでも思ってたん?」


 なるほど……驚きがそう受け取られてしまったのか。


「ち、違うそうじゃない」


 僕は弁明する。


「単純にその……そんなに可愛いのにメイクしてなかったのかよ、っていう感心であってだな」

「ほう……」

「まだ伸び代を残している、ってことだし末恐ろしい限りだな、と」

「ほーん、そっかそっか……ってことはさ」

「うん?」

「その事実を知って、景太郎くんの中では私の評価が上がった、ってことでOK?」


 ジッ、と見つめてくる白石さん。

 ……僕の評価が上がることになんの意味があるんだろうか。

 僕は別に界隈のスカウトマンではないというのに。


「まぁそりゃ……上がったけどさ」

「――やったね♪」


 白石さんはにひっと笑って嬉しそう。

 僕の評価が上がってなぜそうなるのか、その謎を解き明かすべく我々探検隊はアマゾンの奥地へと(以下略)。


「あ、もう来ちゃった」


 そんな中、白石さんの言う通りこの交流の終わりを告げる上り急行がご来訪。

 きっかり来なくていいんだよ。

 ダイヤ遅らせとけよ、なんて思っていると、


「じゃ、また明日ね!」


 と言われたので、


「ん……? 明日はないよ」


 と返す。


「え? あぁそっか、もう週末だもんね~」


 そうなんだよ白石さん。

 今日は金曜日。

 今週はこれで終わり、閉廷!


「ほな、今日はお別れ前にエネルギーもらっちゃおっと」


 エネルギー?

 はて、と小首を傾げる僕である。

 一方で白石さんがそのしなやかな両手を僕の右手に絡ませ――え!?


「――ぎゅう~♡」


 などとやんわり握り締められたのだから、僕が致死量のギャル成分によりフリーズするのはしょうがないことだった。

 可愛い。

 可愛すぎる。


「へへへw じゃ、また来週ね~」


 呆然と立ち尽くす僕をよそに、白石さんは電車に乗り込んで手を振ってくれた。

 発進し、瞬く間に遠ざかっていく。


 ……かく言う僕はと言えば、このあと電車2本分呆然とし続け、遅刻が確定したことをここに報告しておく。

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