第2話 小悪魔
「――おはよっ、景太郎くんっ」
ごった返す朝の駅。
人の荒波に逆らいつつ降り立ったホームの片隅。
敢えて並ばず、窮屈な車両に身を投じる前の自由を堪能していた僕の視界に、この日の朝も1人の天使が映り始めた。
「元気っ?」
「あ、うん、おはよう……まあまあ、ってところかな」
「ならもっと元気出ろ出ろ~」
そう言って両手の指を奇術師みたいにワナワナさせ、そのまま僕の頬をむにむにし始めるという謎ムーブでどぎまぎさせてくるこの陽キャ女子は、言うに及ばず他校の1軍ギャルこと白石さんだ。
甘い香りを漂わす金髪の美少女。
この時間だけ顔を合わせるフェアリー。
最近の僕に1日のモチベをくれる重要な存在だ。
「元気出た?」
「まぁうん……」
僕の頬から手を離した白石さんは「よかったっ」と白い歯を見せて笑う。
何がよかったというのか。
僕はよくない。
いきなりのボディータッチで脈拍が狂わされた。
元来の性格なのかなんなのか、この子、時々距離感がおかしいことがある。
「あのさ……勘違いさせると大変だから、男子にはもうちょい距離置いた方がいいと思うよ」
僕はそう告げた。
陰キャの助言。
僕が実際に勘違いさせられそうなので、他の男子にも気を付けて欲しい。
そういう意味である。
すると、
「あ、うん、大丈夫。景太郎くんにしかこういうことしないから」
真顔でお返事。
反応に困る。
どういうことなの。
なんで僕にしかしないのですか。
ねえ。
「てか逆にさ、景太郎くんは私に触られたりして大丈夫? カノジョ居たりするなら迷惑かもだし」
「あ、いや……カノジョなんて居ないから心配は無用だけど」
一応フリーであることを強調しておく。
「ふぅん、ホントかなあ?」
ところが白石さんは怪訝な表情。
「景太郎くん、私のこと助けてくれるくらいヒーロー気質なんだしあちこちに現地妻居るんじゃない?」
「どういう考えだよ……」
どこぞのハーレム主人公じゃあるまいし。
「そんなの居ない、というか僕は別にヒーロー気質じゃない」
「じゃあなんで盗撮から私のこと助けてくれたわけ?」
「えっと、それは……」
なんて言ったらいいんだろう。
切り出す言葉に迷いつつも、
「まぁほら……気になってる子がおびやかされるのは本望じゃないし」
「私のこと気になってるの?」
「あ」
マズいと思った。
失言だ。
「い、いや、違うんだよ。気になってるっていうのはえっと……」
ヤバい。
取り繕う言葉が上手く出てこない。
このままじゃ引かれておしまい。
閉店ガラガラ。
「――ふーーーーーーーーーーーーーーーんw」
ところが、白石さんはなぜかニヤニヤしていた。
あざける表情ではなく、プレゼントを開封する子供のような。
これは……どういう反応?
そう疑問に思う僕をよそに、今日もこの時間の終焉を告げる上り急行電車(白石さんが乗るヤツ)がやってきてしまった。
「――ほな、また明日ってことでw」
ニヤニヤを収めずに白石さんが停まったそれに乗り込んでゆく。
どこか軽やかな足取りで。
ぎゅうぎゅうの内部だけれど、白石さんが足を踏み入れるとリーマンたちが必死に空きスペースを作ろうと身体を寄せ合っていた。……JK強し。
「じゃあね~♪」
閉じるドア。
ヒラヒラと手を振ってくれる白石さん。
僕に向けられるひとつひとつのアクションには一体どういう意図が込められているのやら。
謎だらけ。
真意不明。
どう処理すればいいのか分からない。
それでもひとつだけ確かなことがある。
白石さんは紛れもなく、僕を翻弄する小悪魔だってことだ。
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