第5話 帝国の魔法

クラウス殿下が、私たち貴族に”魔女の五指”を与えてから、早い事、もう七日が過ぎていた。


その間、帝都内は不気味なほどに賑わっていた。

華やかさや賑わいも、先の敗北を嘘だったかのように、武具商人を中心に盛り上がっていた。

その背後では軍靴の音や”再建”という名の呪文のような声が王城から聞こえていた。


私は、今日も”魔女の呪縛”の訓練をしている。


「ミレイナっ……私、もう、ダメみたい。」


「あら?まだ初めてから一刻も経ってないんじゃないかしら。」


床に膝をついたアリシアは、額に汗を浮かべながら、手のひらを見つめていた。

その掌に宿るのは、黒朱に染まった短剣――”呪縛”。

クラウス殿下から授けられた"魔女の五指"のひとつ。彼女のは【魔女の呪縛】と名付けられていた。


「だって、これ……重いの。武器としての重さじゃなくて……何か、引きずられるみたいで……」


「当然よ。これは“戦う”ためのものじゃなく、 “呪い縛る”ためのものなんだから。」


私はアリシアの隣にしゃがみ、そっと彼女の手のひらを取った。

彼女の震えは、技術ではなく――“本能”からきていた。


「じゃあ……ミレイナは、誰を縛るのですか?」


アリシアの問いは真っ直ぐだった。

誰もが抱えながら、誰も口に出さなかった疑問。

それを、彼女はためらいなく聞いてきた。


「……私たち自身よ」


私はそう答えた。


「 “魔女の五指”は敵を縛るための力じゃない。

過去に、悲しみに、正しさに飲まれそうになる自分を――それでも前へ進むために、必要な”枷”なのよ」


アリシアの瞳が揺れる。だが、そこに映っていたのは私ではなかった。

彼女の遠くにある、焼けた砦か、名を呼べない人の記憶か――


「じゃあ……ミレイナは、自分を縛れていますか?」


今度は、私が答えに詰まった。


縛れているのか?

この力を得てから七日。

私はまだ、古の“呪縛”に一度も触れていなかった。


「……縛ることと、見ないふりをすることは、違うわ」


私は立ち上がり、窓辺に目をやった。

街の広場では、演説が始まっていた。

「復興」と書かれた赤い垂れ幕が、風に煽られ、空にほどけていく。


「さあ、もう一度やりましょう。アリシア。あなたの”手”はまだ、震えてるけど……心までは折れてないわ」


「……はいっ!」


彼女は立ち上がる。その姿はまだ細くて、未完成で、でも確かに“前を見て”いた。


訓練場に、ふたりの呼気だけが響く。


そして――その静けさを破ったのは、王城から放たれた、

重たく威圧的なプレッシャー――――魔力の風だった。


「っ……この感覚……!」


帝都の上空に漂っていた曇りの中から、天からの斜陽が差し込み、王城を照らす。

まるで、魔女ではなく”賢者”が力を貸すかのように。


「……始まったわね。帝国の、次の一手が」


私はそう呟きながら、腰に差していた、アズベルの双頭の鷹を鞘から握りしめた。


***


その日の夕方。最後の会議が執り行われた。


私は、アリシア、レイ爺、ネルフィ、カイル――衛燐隊の主力を連れて、王城の玉座の間に設けられた仮設会議場へと向かっていた。


廊下の窓から差し込む夕陽が、石造りの壁を赤く染めていた。

その光はまるで血のように、歩く私たちの影を長く引きずっていく。


「……なんかさ、城って、前より冷たくなったよな」


カイルがぽつりと呟く。


「この石が冷たいんじゃなくて、中にいる連中が冷たいのさ」

ネルフィが笑うが、その瞳はまるで笑っていなかった。


「静かに。無駄口は、始まる前に首を落とすことになるわ」


アリシアが言うと、皆が一斉に口を噤んだ。

レイ爺だけが、無言のまま歩みを止めることなく、杖の音だけを床に響かせていた。


途中に”寵愛”を授かったのソフィア・ルーエ公爵夫人の一行に遭遇した。


彼女は、妖艶な笑みを浮かべながら、背後に堅苦しそうな部下を連れて歩いていた。

私に気づくと彼女は、私の方へと小走りで寄ってきた。


「あらー。3日ぶりねミレイナちゃん。どう?元気にしてた?

  おばさん心配だったのよ。ふふふ」


彼女は、輝きの無い瞳に、笑顔を取り付けたような、狂気のような人物だ。

 そして、彼女は、おばさんというほどの年齢では無い事は一目で分かる。

私とアリシアは確かに3日前に会っていた。今日のように手合わせをしていた所に、

どこからか彼女がやってきて、今のように”娘”を可愛がるように私たちを見てきたのだ。


 

「ええ。3日ぶりですね、ソフィアさん。

  ソフィアさんも、向かう途中ですよね。よかったらご一緒しませんか?」


私がそう言うと、ソフィアは唇を歪め、私の腕にそっと手を添えてきた。


「まぁ……うれしい。ミレイナちゃんが優しくしてくれるなんて、まるで”娘”を持った気分だわ」


その声音は柔らかく、しかし――冷たかった。

まるで刃を絹で包んで差し出されたような、そんな感触。


「それはどうかしら。私、ソフィアさんほどおませじゃないもの」


「ふふふ、でも貴族の娘なんて、早熟じゃないと生き残れないわ。

 ”可愛がられた数”だけ、命も延びるって……知らないわけじゃないでしょ?」


彼女の言葉に、私はふと足を止めた。


「……いまさら、可愛がられても、もう手遅れじゃないかしら?。

 私は、私自身を可愛がることに専念するわ。」


ソフィアの笑顔が、一瞬だけ崩れた。


しかしすぐに、あの“飾り物のような微笑”が戻る。


「ふふ。やっぱりあなたは、面白いわね、ミレイナちゃん。

 でも――そういう女の子は、早く壊れちゃうものよ?」


その言葉に、アリシアが半歩、前に出た。


「……会議に遅れます。先を急ぎましょう、ミレイナ」


「ええ。そうね」


私は静かに頷き、腕からソフィアの手を、そっと外した。


彼女はなにも言わず、ただ微笑みながらその場に立ち尽くしていた。

まるで、どこかの劇場の幕が降りるのを待つ女優のように――。


私たちは再び歩き出した。


玉座の間は、すぐそこだった。


***


 ――かつて王が坐し、命を賜っていた玉座の間は、いまや仮設の円卓と書類の山に覆われ、

血の匂いではなく、策謀の臭いが立ちこめる戦場へと変わっていた。


円卓の周囲には、高官たちがすでに半数ほど揃っていた。

それぞれが家名を背負い、ドレスやスーツといった礼服に身を包んでいるが、どこか表情は余裕に欠けている。


その中央には――クラウス殿下が座していた。

しかしその姿は、かつての煌びやかな“未来の王”ではない。


痩せた頬に、覇気の読めぬ金の瞳。

何を見ているのか、あるいは誰も見ていないのか、ただ沈黙だけを纏っていた。


私たちは軽く頭を下げて、定められた席へと向かった。

その間にも、ソフィア夫人は私の隣席へと音もなく座り、

まるで”舞台の共演者”のように、意味ありげな微笑を浮かべていた。


どうやら、私と夫人が一番早く来たようで、他の”五指”の姿は見えなかった。


クラウス殿下は、憤怒のヴァルガス騎士団長と、何やら話あっていて、時折、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


その様子に、私や夫人にアリシアは目を奪われていた。


そう、まるで――勝敗は決まっているかのような自信に――。


私が、その笑みの真意を探ろうと凝視していると扉がゆっくりと軋んで開いた。

重厚な黒革の靴音と共に、残る“指”たちが姿を現す。


哀惜のユリウス・カストール侯爵。

悪戯のレンツ・ディアーク辺境伯。


誰もが、この円卓を前にして、微笑みを浮かべることなく座に着いた。


そして、時を計ったかのように、クラウス殿下が立ち上がる。


「――そろったな。これより、最後の会議を始める」


その声は低く、乾いた冬の風のようだった。


「まず初めに……」


彼の指が、卓上の木箱に触れる。


「我々は、新兵器を導入する事に決めた。」


そういって、金色に輝く木箱の中から、赤い小石程度の宝石がはめられた金に装飾された指輪を一つ取り出して人差し指に装着した。


「見ててくれ。きっとこれは面白いはずだから。」


クラウ殿下は、何やら呪文を唱え始める。


 「――我が根源たる、魔女の叡智よ。我に眠りし魔力を呼び覚まし、

   眼前に底知れぬ憤怒を体現させたまえ――。」


すると、殿下の指輪を付けた指の手のひらの上に、頭ほどの火球が現れた。

 殿下は「ふっ」と笑うと、火球を玉座の横の柱に飛ばした。


その様子に、場の空気が凍りついた。


火球は一直線に飛び、玉座の横柱に衝突する寸前で弾けた。

爆発ではなかった。ただ無音のまま柱が焼け焦げ、黒くひび割れ、崩れ落ちたのだ。


灰が舞った。

誰かが息を呑む音が、やけに大きく感じられた。


「……今のが、”魔女の導き”……魔導の真価だ」

殿下の声には、歓喜でも驚きでもない、絶対の確信が宿っていた。

まるで、こうなることは最初から決まっていたというように。


「この指輪は、魔女の遺産の”再現品”だ。」

クラウス殿下は、ゆっくりと私たちを見回した。

その瞳の奥に、人間らしさはもう残っていなかった。


「主将以外の将の指に一つずつ。君たちはその“魔女の力”の受け皿となる。

 この国の運命を背負う、 “選ばれし兵”として」


ソフィア夫人が、隣でうっとりと目を細めるのが見えた。

まるで、何か甘美な毒を吸い込んだ者のように。


「では、渡そう。汝ら――我が五指を支える者たちへ」

ヴァルガス団長が木箱を持ち上げ、それぞれの貴族の前へ、付き添っている兵の数だけ渡し、巡っていく。


その中には、私たちの分もあった。


ヴァルガス団長は、私に4つの指輪を手渡し、頷いた後に殿下の横へと戻っていった。


私は、指輪を右にいるアリシアに渡して回してもらった。


アリシアは興味深そうに指輪を眺め、ネルフィは「ふん……」と伺いながら指にはめ、

レイ爺は、指輪をはめた後に何か考え込んでいた。

……カイルはというと目を輝かせて指にはめた指をに見とれていた。


「……それでは、全員に渡ったかな?。」


クラウス殿下の問いに、誰も返事はしなかった。

 だが、返事など必要なかった。

 円卓を巡る空気が、すでに“別のもの”に変わっていた。


 指輪を指にはめた者は、それぞれが感じ取っていた。

 内側からくすぶるような熱。どこか異質な、冷たい視線のような感覚。


 それはまるで、自分の中に“別の存在”が宿ったかのような――。


「あの……少しよろしいでしょうかな?」


白衣を身に着けた、皺のある右手を上げたのはレイ爺だった。

 老齢ながらも背筋を伸ばし、瞳には澄んだ理性の光を宿している。

 クラウス殿下が頷き、手で促す。

 

「勿論。なんでも言ってみてよ。」


 「……詠唱には、複数のパターンがあるのではと睨んでおります」


 レイ爺の声は落ち着いていた。だがその言葉には、今までのどんな会議発言よりも鋭さがあった。


 クラウス殿下は興味深そうに目を細めた。

 「続けて?」


 「先ほど、私の方でも指輪を用いて試しておりました」

 レイ爺は手のひらをかざし、指輪をはめた中指を軽く傾ける。


 「同じ火球を生むにも、詠唱の構文が異なるのです。

 たとえば、 “怒りの形象よ、来たれ”という短い呟きでも、小規模の火球が現れました。

 これは――逸話の魔女の語った詩に類似しています」


 会議の場がざわついた。


 「しかし、殿下が用いた詠唱は、もっと精緻な“理論”なのです。

 構文の重ね方が美しく、かつ発動までの安定性が高い。

 おそらく、いくつもの詠唱がこの指輪の中に“登録”されているのでは、と考えます」


 ネルフィが目を丸くする。「呪文を複数、封じ込めてあるってこと……どうやって?」


 「いえ、違います」

 レイ爺は珍しく、声を強めた。


 「封じられているのは、言語の解釈プロトコルです。

 使用者の言葉の未知の力……魔力の“癖”を読んで、最適な発動パターンに変換されている。

 だから、殿下が使えば“完璧な火球”に、私が使えば“古風な火球”になる」


 クラウス殿下の金の瞳が、すっと細くなった。

 「……つまり、 “言語魔導”」

 レイ爺は頷いた。

 白髪の奥に潜む鬼才――その片鱗が、確かに今、閃いていた。


 「ですから私は提案いたします」


 静かに立ち上がり、卓の中央を見据える。


 「戦場において、各人の言語癖や魔力特性に左右されぬよう、詠唱を“戦闘用に統一”するべきです。

 最低限の命令構文と、瞬時に発動可能な短縮形。

 『識別語』『指令語』『発動語』の三段構造に統一するだけでも、戦術の幅が飛躍的に向上するでしょう。」


 その瞬間、まるで一陣の風が吹いたかのように、円卓の空気が変わった。


 ソフィア夫人が口元に手を当て、微笑する。

 「まあ……お医者さんのお爺さんったら“魔導”をお話になるなんて、凄いのね」


 「ふん。老い先短い者が、せめて未来に知を残すくらいはせねばのう」

 レイ爺は照れたように咳払いしながら、視線だけは鋭かった。


 「殿下。これは、ただの魔導ではありません。軍略の基礎になります。

 もし、この詠唱構文を正規化し、訓練に組み込めば――

 誰もが、魔女の力を自在に操る“均質の兵”となりましょう」


 クラウス殿下は、一瞬無言だった。

 だがやがて、静かに、しかし確かに――拍手を打った。


 「……衛燐隊…隊医レイナルド・ヴェントリス。君は老いてなお、刃を隠していたか」


 彼の口元に笑みが戻る。


 「面白い。すぐに魔道研究部隊に通達させよう。

 詠唱のテンプレート化と運用法、各指へ研修付きで送る」


 「ありがたき幸い」

 レイ爺は小さく頭を下げたが、その顔にはいつになく自信と誇りがあった。


 アリシアがぽつりと呟く。

 「レイ爺……すご……」


 カイルが目を輝かせる。

 「ねぇねぇ、その三段構造ってさ、俺でも覚えられる!?」


 私は、そんな仲間たちの様子を横目に――

 ふと、指輪に込められた”魔女の叡智”の奥深さを思った。


 願いで発動する伝承と、理論で制御する現代。

 その狭間に、レイ爺は“橋”をかけようとしたのだ。


***


「……それじゃ、最後の戦前会議として、一つ話さないとね。」


ラウス殿下の言葉は、落ち着いていた。

 だがその声には、もはや誰も逆らえぬほどの覚悟が宿っていた。


「今から、七日後。

 我が軍は総勢八万。傭兵団二万を加え、北東の〈ガナディア平原〉に布陣する。

 そこで“決戦”を挑む」


 円卓を囲む者たちの目が、殿下に向けられる。


「敵は我らの出方を読みきれていない。

 この七日こそが――最後の“灰空”だ。

 そしてその先は、 “紅”のみに染まる」


 クラウス殿下は立ち上がり、ゆっくりと一歩、前へ出る。

 その影が、卓の上の地図に差し込んだ。


「この戦の主力は、 “五指”の諸卿に委ねる。

 それぞれに独立指揮権を与える。命令系統は、殿下直属の一系統のみ。

 己の仲間、己の軍、己の信義をもって、勝利を掴んでほしい」


 ――つまり、 “結果”のみを問うということだ。


 アリシアが、少し眉をひそめた。

 「かなり思い切った……軍の分断じゃないですか、それ」


 「違うよ」

 クラウスは言い切った。


 「信頼だよ、アリシア副将。

 分断ではなく、 “多様性”による同時多発の突破口を、あらかじめ作っておく。

 これは我らが持つ“魔女の五指”があるからこそ可能な布陣だ」


 そして、地図の上を指でなぞる。


 「2万の傭兵は、ヴァルガス騎士団に統合させる。

 金で動く者には“規律”が必要だ。彼の怒りが、彼らを律するだろう」

 クラウスは、どこか皮肉めいた笑みを浮かべた。


 「帝都は、最小限の兵で守る。

 これは背水の陣……ではない。 “勝利”の未来を見ている者だけが成せる判断だ」


 ソフィア夫人が、ひとつ小さく笑った。


 「勝ち筋を、既に見通しているのね?」


 「それだけじゃない。見通せない混沌にも、 “勝ち”を刻む算段はある」

 クラウスは言った。


 「この七日間――思う存分、準備しろ。

 兵を鍛え、道を整え、武器を研げ。そして何より、心を仕上げろ。

 お前たちには、 “魔女”がついている。」


 その言葉に、誰も返す言葉がなかった。


 ただ、静かに、雷が落ちる前の空気のように、会議の場が緊張で満たされた。


 それは、もう“作戦”の話ではなかった。

 ――生き残る覚悟と、何を賭けてこの戦場に立つかという“宣誓”の空間だった。


 クラウスは、指輪を見た。

 それは、まるで“魔女”ではなく、 “運命”に誓いを立てるかのようだった。


***


会議が終わったあとも、私とアリシアは王座の間に留まっていた。

 ネルフィ、レイ爺、カイルには先に戻ってもらい、今ここにいるのは――私とアリシア、そしてクラウス殿下の三人だけ。


 「……それで。君たちは、何を確かめに来たんだい?」


 殿下は、円卓の上に広げられていた地図を無造作に折りたたみながら、目線をこちらに向ける。

 その声音には疲労の色も、苛立ちもなかった。ただ――冷静で、底が見えない。


 「ひとつ、どうしても伺いたいことがあるのです」


 アリシアは、凛とした立ち姿のまま両手を腰の前で組み、

 まるで“正式な謁見”のように言葉を選びながら答えた。


 「ふむ……それはまた、随分と慎重な口ぶりだね」


  「実は……昼間、王城の上層から感じた、いわゆる“魔力”について――それを、確かめたかったのです」


 アリシアの声は静かだったが、明確な意志が込められていた。

 クラウス殿下の手が、地図を折り終えたところで止まる。小さく息を吐き、彼は目を細めた。


 「……やはり、感じたか。君たちは鋭いね」


 その言葉は、否定でも肯定でもなかった。ただ、そこに“答えの在処”があることだけを告げていた。


 「殿下。あれは、 “五指”に与えられた力とは別の……魔女の遺産ではないのですか?」


 私がそう問うと、クラウスは口元だけで笑みを作る。

 だが、その金の瞳には笑意など一滴も浮かんでいなかった。


 「……キミたちには、どこまで話すべきかな」


 殿下の言葉に、玉座の間に再び沈黙が落ちた。

 それは、答えを語るための間ではなく――覚悟を問うための、静かな時だった。


 その視線の奥に宿るものを、私は見逃さなかった。

 あの瞳は、”誰か”を見ている。それが”人智を超えた存在”なのは確かだった。

 けれど今は、まだその名を語らない。


 そして、夜がゆっくりと、帝都を覆いはじめる。

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