第41話 救世主(メシア)②
「でも、カオスを撃退するために、なぜ彼女たちが互いに戦わなくてはいけないのですか。というかそもそも、カオスとはなんなんですか。とりあえず世界を滅ぼす何か、ということはわかりますが」
カオスについてそれ以上の情報はなく、それが何であるのかよくわからない以上、カオスがやって来ることに対しての危機感を抱きづらい。
「カオスについては、我々も何者なのかわかっておりません。ですが、生まれたものにいつか終わりが来るような自然の摂理があるように、世界の終わりの役割を担っている存在がカオスではないかと自分は考えています」
カオスは世界を終わらせる役割を持つ、自然の摂理。じゃあ、カオスを撃退しようとするこの計画は自然の摂理に逆らっていることになる気がするが、しかしエゴでも生きたいと思い抗うのが人間で、僕も世界が滅ぶなんてごめんである。
「あの、カオスってどんな見た目なんですか?」
「見た目は……そうですね。渦のような、穴のような、言うなればブラックホールに近しいのですようか。穴が世界のどこかにぽっかりと空いて、しかしその穴は一瞬にして世界のすべてを吸い込んでしまいます」
つまり、カオスはブラックホールのようなものだとイメージすればいいのか。規模については本来のブラックホールと計り知れないほど強大なのだが。
「前者については、もう聞いているでしょう?」
「それは、納得ができないから聞いているんです」
何人もいる僕のことが好きだという人たちの恋心、魂の中に在る僕への想いが、カオスを撃退するためのエネルギーとなる。しかしそのエネルギーを使うためには、魂が肉体から離れなくてはいけない。それはつまり死んでしまうことを意味している。
その魂を肉体から切り離す手段として取られているのが、ラバーズ同士の命の奪い合いだ。殺し合いをすることで、嫉妬や憎悪によりエネルギーが増幅される。そして最後まで残った一人が、その魂を一つにまとめて使用することで、カオスを撃退できる。
「こんな悲しい方法、僕は嫌ですよ。本当に殺しあう必要なんてあるんですか」
「必要だから、命を奪い合っていただくのです」
なんて、変わらない穏やかな雰囲気や柔らかい言葉とは裏腹に、とても辛辣なことを口にする。
「不服ですか? でも、彼女たちのエネルギーがなければ、カオスなんて強大な存在は撃退できません。それはつまりこの世界全ての生きる物が、死んでしまうということです。ラバーズの皆さんも含めて」
そうだ。僕のことを大切に想ってくれている人たち、日和さんや戌子に犠牲になってほしくはない。しかし、世界が滅んでしまえば、元も子もない。みんな死んでしまう。
彼女たちの命を優先すれば、世界は滅ぶ。だから世界を守るためには彼女たちが犠牲になる必要があるということ。そんなの納得できない。
「命を失わない上でカオスを撃退する手段ってないのですか」
「ないです」
ときっぱり言い切られてしまう。
「ないなんて、まだカオスが来るまでに時間の猶予はあるのでしょう? だったら、まだ別の方法を探すことだってできるのではないですか?」
「別の方法なんてありません。この方法しかないのです」
「なっ どうしてそう言い切ってしまえるんですか」
僕は少し怒り気味に問う。だって、殺し合いしかこの世界を救う方法がないなんて馬鹿げている。それにまだカオスが来ることを信じ切れていない部分もある。この人が自分に都合のいい嘘をを言っている可能性だってあるかもしれないじゃないか。
「木野星也さん。あなたは、この世界の外側を知らないでしょう?」
この世界の外側なんて、そりゃ知らない。せいぜい僕はこの世界の地球のことしか知らない。
「宝石の力の原理も、次元を移動する方法も、あなたたちは知らないし、知ることもできない。だって、この世界にある地球の理では、この世界の人間の知能では、到底たどり着けないところにありますから」
「……何が言いたいんですか?」
「素人は黙っていろ、ということです」
少し声に力がこもっていた。僕の聞き分けがなくてイラつきを覚えたのだろうか。
「すみません。こんな方法が間違っていることは自分でも承知しています。しかし、これしかないのです」
「……おかしいですよ、いろいろと。そもそもなんで僕を好きだという想いがエネルギーに変換されるのか意味が分かりません。僕が急にモテるようになったのも不思議でならないです」
僕のことを好きだという人が多数いる状況も不思議でならなかった。今まで誰にも告白なんてされることなく二〇歳まで生きてきたというのに、ここ数日で数人に気持ちを告げられ、まるで急にモテ始めたようで怖い部分がある。
それに恋心なんて実態のない概念をエネルギーとして使うにしても、この広い宇宙にならもっと強大なエネルギーがありそうなものだが。
「それは、あなたが特別だからなんです」
「ぼ、僕が特別?」
「ええ、あなたは特別なのです。この世界にとって、特異な存在」
僕がこの世界にとって特異な存在。なんて言われて実感はないが、しかし特別ならば僕がモテているこの状態にもなにか特別な力が働いている可能性があるのかもしれない。
もしそうだったら、日和さんや、みんなの僕へ抱いた気持ちは、その特別な力によってもたらされたということだ。それはなんだかモヤモヤしてしまうが。
「特別、とは言ってもあなたはこの世界、この地球に住む人間に変わりない、ただの人間です。特に長けた所のない、ザ・普通な二十歳の男の子です」
なんか今、少し馬鹿にされなかったか。
「じゃあ、何が特別なんですか?」
「それは、いつかお話しましょう」
「いや、僕のことなのでできればすぐに知りたいのですけれど」
が、メシアさんはそっぽを向いて首を振った。なんで今教えてくれないのだ。
「ですがあなたが特別だから、あなたへ向けられる様々な他人の感情に、それぞれエネルギーが宿ります。特に恋心のような強い感情ほど、そのエネルギーは強力になります」
他人が僕へ抱く感情には、それぞれエネルギーが宿る。ということは、面白いや苦手といった普遍的な他人が抱く僕への印象にもエネルギーが宿るのか。僕ってやばいな。
「強力ってどのくらいです?」
「一人の恋心だけで銀河一つは滅ぼせます」
「ぎ、銀河?」
意味が分からない。例えば日和さんの僕への気持ち一つで銀河を消すことができるほど、強力なエネルギーを彼女たちが持ち合わせているということか。馬鹿げているというか、まるで脳死で考えた妄想のようだ。
「あなたに恋心を抱く人が多いことと、あなたが特別であることの因果関係については、全くないとは言えません」
「そ、そうなんですか……」
それじゃあ、その特別な力関係なしに僕のことを想ってくれている人はいない、ということになってしまうのか。
「ですが、あなたの特異は関係なしに、皆さんが抱くあなたへの気持ちは本物ですよ」
「え? だって今僕が特別なことと関係ないとは言えないって」
「確かにそう言いましたが、それでも気持ち自体は本物です。本物だから、そこにエネルギーが発生するのです。皆さん、本気であなたに想いを寄せています。だから安心してください」
よくわからないが、とりあえずみんなの僕への気持ちは本物なのか?
本物の気持ちを向けられているのだとしたら、それは素直に嬉しい。
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