1-3

4限。数学(微分積分)の授業が行われている。

 

ちなみに本学園では各科目毎に複数の講義と必要単位数が設定されており、卒業出来るだけの単位数を取っていれば講義の選択は比較的自由だ。今日の4限は選択科目のコマである。


クラス毎に自分の席はあるが、選択科目の時間帯では各々受ける科目の教室へ移動して、好きな席に座る。

移動のない生徒は自分の席で、移動する生徒は空いてる席の好きな場所へ。他の縛りは特に無い。


なのでこの時間、麗華は語学。真斗は歴史学の講義を受けに行っている。微分積分の講義を受けているのは、俺と光莉だけだ。


そんな教室の中で何をやっているのかと聞かれたら。隣から投げられたメモを開けつつ考える。


『ゆうちゃん暇だよ〜。何か面白い話ない?』


ねえよ。いるよなこういう奴。「面白い話して?」て急に言ってくるんだ。まずお前からしろや!


なんて思いながら横を見ると、光莉は俺の顔を見ながらニコニコしてた。こいつは俺と一緒にいる時によく笑う。昔を考えれば、無茶振りしてきた事を差し引いても嬉しく思う。かわいいしな。


『古河の髪、やっぱりカツラらしいぜ』


そうメモに書いて、光莉に投げ返した。茶髪セミロングの端っこを狙ったが、上手くキャッチしている。ちなみに古河は今まさに教鞭を取っている微分積分の講師だ。


詰まる所、俺と光莉は暇つぶしに2人で遊んでいたのだ。

我ながら不真面目だなーと考えつつ、しかし暇なものは暇なんだと開き直る。


ちなみに数学系科目の成績は、俺も光莉もトップを走っている。数学全般は光莉が強いが、微分積分など一部では俺が一位をもぎ取るのが日常だ。なんとなく得意、ただそれだけ。


しかし光莉は2学年飛び級してるんだよな。ナイチャーだかの雑誌に論文を載せており、それを実績として飛び級で俺と同じタイミングで入学、現在一緒に2年生となっている。俺自身頭は良い方だが、光莉は天才だ。これを光莉に言うと「ゆうちゃんも人の事言えないけどね〜」なんて流されるが。俺には少し事情があるのだ。


「おい火向、また遊んでるのか。前に出てこれを解いてみろ!」


ほら、古河が怒ってしまった。まあ遊んでいる俺たちが全面的に悪いのだが、めんどくさいな。

これ以上怒らせても仕方ないので、前に出てホワイトボードに導出過程と答えを書いていく。


「0<f(x)<δ を示します。この問題ではf(x)=x^2とし、lim(x→2)f(x)=4 を示せば良く、式を変形(中略)」

「よって任意の正の実数εに対し、ある正の実数δが存在する。(中略)なので題意は示された」

 

「終わりましたが。戻っていいですか?」

「チッ、早く席につけ」


相変わらずの対応である。まあこっちが悪いからね。仕方ない。

席に戻って座ると、またメモが飛んできた。


『ゆうちゃん先生のお話聞いてたの?相変わらず早いんだね』

『あれぐらい見てからでも出来るわ。光莉ならもっと早いだろ』

『まあそうかもだけど、でもスラスラ答えを書いてるゆうちゃんカッコよかったよ☆』

『おう。機嫌良くなったから帰ったら抱き枕にしてやろう』

『やったぁ!!』


相変わらず態度を改める気がない俺たちであった。

単位が取りやすいし、光莉と一緒に講義を受けるのも楽しいので微分積分を選んだんだよな。

学園生活が楽しければ良いのだ。


光莉と戯れているとチャイムが鳴り、古河が出ていった。昼飯の時間だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る