第5話 大聖女ウルスラ

「くっ、とどめを刺さないのですね」


 エアはようやく目を覚ましたが、まだそんな事を言っている。


「俺の剣は人殺しの剣ではないと言ったろう。それより、アスラ教会を倒せと言ったな?」


「えぇ。教会を倒し、ドラゴンロードの支配する世を作るのです」


「乗ってやる。今しがた、師匠がウルスラに負ける未来が見えた」


 師匠が負けるなど、信じられないことだ。だが、竜の脳で拡張された俺の【天眼】がそう告げている。


 今なら。今から駆けつければ、師匠の死を回避できるかもしれない。天眼に覚醒し、竜の力を得た今の俺なら、足手まといにはならないはずだ。


「少し休んだら行こう。聖都シグニフィカティウムに」


 俺は、山脈の向こうのアスラ教総本山を見据えた。

                  ◇

「剣聖ルクレツィア・アイセンベルクどの。よくぞ参内してくれました」


 大聖女ウルスラは、相変わらず慇懃な態度で私を迎えた。以前、大聖女付きの近衛兵、【聖八武天】への加入を断って以来の対面。少しも容姿が変わっていないのが不気味だ。


 膨大な魔力が地に満ちているのが分かる。大地精霊の長、オレアードによるものか。あの誇り高い精霊までも従えるとは、大聖女ウルスラ。恐れ入る。


「私の弟子が帰っていません。無事を証明して頂けますか?」


 ミヤビが聖地シグニフィカティウムに行ってから一ヶ月。ウルスラへの謁見を済ませてすぐ帰るはずが、消息を絶った。


「いや、隠すつもりはなかったのですが。彼女は私の【聖骸兵】となったので、もうあなたのもとへ帰ることはありません」


 刹那、私の【人眼】は即座にウルスラの隙を見抜いた。全力の一撃を叩き込む。だが、その一撃は予想外の人物に止められていた。


 ミヤビだ。


 死者を操り従える秘術、【聖骸兵】。聖骸兵として現れたことで、ミヤビの死は確定した。


 そして、私の弟子たるミヤビなら、私の剣を止められる、あるいは、弟子相手なら私が躊躇するとでも思っているのだろう。


 不気味な女だとは思っていたが、ここまでの外道とは思わなかった。


 とはいえ、天映流は人殺しの剣ではない。どうにかして、殺さずにウルスラの悪行を止める方法を考えなければ。

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