第3話 侍従長エア
「俺が次代のドラゴンロードだって?」
恭しく近づいてきた少女に、俺は訊き返す。
「そうです。誠に残念ながら。先代はあなたを後継に指定したようです」
銀髪の少女は無表情のまま告げる。ザルカインの側近か何かなのだろうが、それにしては簡素な貫頭衣を纏っている。
「ということは、お前はザルカイン配下のドラゴンか。立ち去れ。そうすれば見逃してやる」
「そうはいきません。私はザルカイン様に、あなたへ仕えるよう言われています」
「大した忠義だ。では主君として命じる。自害しろ」
ドラゴンは一匹たりとて見逃すわけにはいかない。
「私をドラゴンだと思っていますね? 残念ですが、私はザルカイン様に育てられた人間です」
そんな人間が居たのか。
「大聖女ウルスラ率いるアスラ教会がザルカイン様と和睦する際、恭順の証として引き渡されたのが私です。申し遅れました。私、侍従長のエアと申します」
嘘をついているわけでも無さそうだ。何より、ドラゴン特有の魔力が感じられない。
「そうか。それはすまなかった。ドラゴンでないなら見逃す。さっさと失せろ」
「ですからそうはいきません。あなた様はドラゴンロードの一角として、この世界を征服しなくてはなりません」
そんなものに付き合う義理はない。俺はさっさと立ち去ろうとした。
「あなた、剣聖の弟子ですね。しかも天眼持ちの。ならば、見えているでしょう? 真に倒すべき敵が」
アスラ教会のことか。確かにウルスラは15の種族を従えた覇権主義的な政策で知られている。だからといって、剣聖の一門は中立を貫かなければならない。何もできることはない。
「悪いが、この剣は人を斬るためにあるのではない。人の慢心を断つためにあるのだ」
「ではその剣で大聖女ウルスラの慢心を斬ってください。殺せとは言っていません」
人間相手の争いか。それでは本当にドラゴンに成り下がったのと同じだ。熟考せねばならんな。
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