第35話 いやがらせ客

23時頃、春樹は栄から金山駅へお客さんを送ると、

すぐにまた、お客さんが乗り込んできた。

金山駅から五女子〔地名〕へ男性3名、

体格のがっちりとした40・50代の建設労働者のようだ。

なんだか、やばそうな話をしている。

目的地に到着すると、

「ありがとうございます。料金は860円です。お支払いはどのように・・・・・」春樹が聞くと、一番若いお客さんが千円札を出した。

すると、もう一人の男がここは俺が払うと言って、

千円札を出したお客を退け、一万円札を出した。


「すみません、先ほど、金山駅まで送ったお客さんも一万円札を出されて、もう、千円札が四枚しかありません、申し訳ありません」

と言って春樹が謝る。


「おまえな~釣り銭も持ってないで、商売をしているのか、

客をなめているのか、俺は金を払うと言ってるんだ、

おまえがそれに対応できないなら、金はいらんだろう、

早くしろ、どうするんだ、早く着きたいからタクシーに乗ったのに、

こんな所で時間を潰していたら、タクシーを使った意味がない、

えぇ、そうだろう」と迫るのだ。


春樹はもう一人のお客さんが千円札を持っているのを知っている。

その方にお願いしようとすると、

「ここは俺が払うって言ってるのに、おまえは俺の顔に泥を塗るのか」と、

最悪のパターンになってきた。

前にも、無賃乗車で、警察を呼んだ時、

お客さんはお金を払うと言っているのだから、

警察は介入できないと言われた事を覚えている。


そんな時、〔スナック茜〕からメールが入った。村井さんたちの送迎だ。

春樹は、

「どうもすみませんでした」と言って、

お金をもらわずにそのチンピラたちを降ろした。

降り際、さっきの男が

「チョロいもんよ」と言葉を吐き捨てて出て行った。


春樹は、この時、

タクシーGOOのように、お客さんがご乗車された時点で支払いまで

紐付くような形にならない限り、

このような嫌がらせはなくならないと思った。


また、嫌がらせをする客は、

自分で自分の首を絞めている事に気がついていない。

運転手はイヤな客の顔はしっかり記憶しているのだ。二度と乗せない。

また、運転手によっては、

そんなお客の態度にいたたまれなくなって辞めていく人も多い。


次にそのお客がタクシーを使おうとした時、

タクシーが見つからないとすれば、

それは運転手がその地域をいやがって近寄らないだけなんだ。

タクシーは一見さんではない。何回も同じ客を乗せている。

春樹は心の中でつぶやいた。


今日は、金曜日だけあって〔スナック茜〕も忙しいようだ。

春樹は茜専属タクシーに加わった高木さんと辻さんに、

お客さんの行き先とルートを伝えた。

あかねがぞろぞろとお客さんを従えてタクシーに乗せる。

玲香は島さんたちをいつも担当して送っていた。

春樹は一番最後に 瀬戸の村井さんたちを乗せて発車した。


あかね・智美と香奈子が深くお辞儀をしてお客さんを見送った。

修平の引っ越し


あかねの実家は、玄関を入ると正面にキッチン

その左側には八畳のリビングがある。

キッチンの右側には、トイレ・バスがあり、

その奥に六畳間のお父さんの部屋があるのだ。

あかねの部屋はリビングの左奥にある八畳の洋室だ。

2階には6畳3間と4畳半1間 3畳ほどのベランダが あり、

そこに洗濯機も設置されていた。

修平の荷物は、ひとまず2階の4畳半の部屋に置いた。

デルのPCはデスクトップ型でかなり大きい方だ。

モニターはSONYの32型TVに接続しているので、

PCを使用していない時はTVも見る事ができる

また、プリンターはキャノンを2台も持っていて、

一台はA3サイズまで印刷ができる。もう一台の方は、

CDやDVDの表紙も印刷ができて、スキャナーも付いていた。

そして、ハードデスクは8台も持っているのだ。

昔からの撮影ファイルがやまのようにある。修平は、

そのPCのインターネット接続やPCの接続が終えたのは、

午後三時を過ぎていた。


今日は休日だ。

あかねとお父さんがなにやら、言い合っている。2階にまで聞こえる声だ。


「お父さん、なんで、浴槽に入れ歯なんか落ちているのよ、

私、足で踏んじゃって、痛くて痛くて、

まさかと思うけど風呂場で入れ歯を洗っているんじゃないわよね」


あかねが風呂のドアを半開きにして、顔を出すとお父さんにわめいている。


「よかった、良かった、探していたんだ、

どこにやったのか、分からなくて、

明日、歯医者に行って作ってもらおうかと思っていたけれど、

いや、見つかって良かった」


お父さんは手を出して、入れ歯を返せと言っている。


「もう、きたないね~、やめてよ、

浴槽で、入れ歯なんか洗わないでよ!」

と言って、浴槽に落ちていた入れ歯をお父さんに渡すと、

それを洗いもせずにお父さんは、口の中へ入れてしまった。

それを見て、また、あかねが怒る。


「お父さん、何してるの、汚いね、

入れ歯を洗わないで口の中に入れたらダメでしょう、

早く、外して、ハイ、しっかり、洗いなさいよ、もう、恥ずかしいわ

ちょっと、お父さん、口を先にゆすいでから入れてよ、もう、全く・・・・・」


あかねは2階から下りてきた修平がその一部始終を見ていたのに気が付き、お父さんをにらみながら、修平にあきれ顔を見せた。

修平は、交わす言葉が見当たらず、黙って2階に上がっていった。

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