ラスト・デザイア

若松カノン

 純白の世界から、独りの少女はベッドに眺めていた。

 透明な壁の向こうに広がる色鮮やかな世界を。


 多種多様な建物が建ち並び、草木がその隙間に彩を加えている。老若男女様々な人々が行きかい、遊具で遊ぶ子供たち、談笑しながら帰る学生など。

 彼女はそれをただ眺めることしか出来なかった。


 俯いた彼女の瞳から流れた雫は、頬を冷たくなぞり、上腿の開かれた手帳に跡を付けた。


***


 深紅。


 血のような深い赤がぼやけた視界を染め上げている。

 視界がはっきりすると、それが何かを理解した。

 地獄から生えてくる手のように放射線状に開く紅色の花弁を持つ花が、絨毯のように咲き乱れる様は、まさし“彼岸あの世”を連想させる。


「彼岸…花…?」


 その花の名前をポツリと呟いたのは、十三歳程の少女であった。透き通るような白い肌に、紺青のセーラー服に柘榴色のスカーフが良く映える。どこか儚げな雰囲気を纏う少女の頬にかかる絹は雪色、同色の瞳は不安そうに揺れている。


 鬱蒼と茂る少しの杉と彼岸花の森は、霧が立ち込め、数メートル先も見通せない。


(私は、何故ここにいるのだろう?)


 ここに来た経緯を思い出そうとしても、靄がかかったように上手く思い出せない。そこで私は、少しふらつきながらも立ち上がり、辺りを散策する事にした。

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