異世界で子犬ともふもふ生活!

ユルヤカ

1章 始まりの森編

1話「もふもふと始まりの出会い」

8月10日 一部訂正、書き足しを行いました


◻︎ ◻︎ ◻︎


 高校1年生の綿城麦は、小さい頃から周りの人とは少し違っていた。

 好きなものは可愛いもの、遊びはお人形…。子供の頃の親の口癖は、「もっと男の子らしくしなさい。」だった。

 その頃の僕は逆らうこともできずに従うしかなかった。

 しかし、年が経つにつれ我慢が効かなくなり、また可愛いものを集めるようになっていた。


 一体いつからだろう。世間の考え方の変化に伴って親に可愛いものを買うことを止められることは無くなった。

 そうしているうちにいつの間にか、男とは思えない柔らかい手、筋肉のない細い体、白い肌、色素の薄い長い髪、それらが全て揃ってしまったのだ。こうして誰もが羨む美少年が完成した。

 そんな僕の苦労は誰にもわかることはなかった。


 ある日のことだった。その日は空が青く澄んでいて、綺麗な太陽が空に浮かんでいた。僕にとっては日差しが強くて辛いだけだが。


「今日もかっこいいね、綿城くん。」


 教室に入ったら女子から声をかけられた。僕にとってこの言葉はいつものことだった。そして可愛いものが好きな僕にとって、それは褒め言葉ではないことを誰も分かってはくれない。

 いつも通りチラリと視線をむけ、また前を向いた。


 下校時間になると、真っ先に家に帰る。一刻も早く家のもふもふに包まれるためだ。そんな時だった。


「わんわん。」


 車に轢かれそうになっている子犬を見つけた。助けなくては、と思うよりも先に体が動き子犬を目掛けていて飛び込んだ。


キキキーッ ドン


 目を覚ますと、一面白だった。立ち上がって見渡しても、見渡す限りの白。真っ白の空間でひとつのことを理解した。自分は死んだのだと。


「目を覚ましましたか、綿城麦さん。ようこそ、死後の世界へ。」


 突然背後から声をかけられた。振り返るとそこには、白いドレスに身を包まれた女性が立っていた。目は青く澄んでいて、髪は綺麗な金色だった。


「あなたは残念ながら死んでしまいました。しかし、あなたが最後に助けた子犬は神の子孫です。その善行に免じてあなたを異世界に転移させようと思います。よろしいですか?」


 やはり死んでいたのか、という確信と共に希望が生まれた。

 もし、この女性のいう異世界がファンタジー世界でもふもふがたくさんいる世界なのだとしたら…。


「その異世界というのはもふもふがたくさんいる世界ですか?」

「そうです。あなたがいくのは剣と魔法のファンタジー世界。もちろん危険はつきものですが、きっと楽しい人生を送れるはずですよ。」


 ファンタジー世界。それは、僕が最も没頭していたオンラインゲームと似ている世界なんだろう。だとするなら、もふもふがたくさんいるはずだ。こんないい話受けないはずがない。


「お願いします。」

「それでは、私から3つスキルをお渡しします。この中からお選びください。」


 渡されたリストに並んでいたのは1000を超えるスキル。この中から3つか。


 それから何時間たったのだろうか。全てのスキルに目を通し終えた僕は3つのスキルを選び終えていた。


「本当にこれでよろしいのですか。もっと強いスキルがたくさんあるのに。」

「はい、大丈夫です。」


 驚くのも無理はない。「魔剣」だの「経験値増加10倍」だの強いスキルはゴロゴロあった。だが、そんなスキルを取らずにとったのは「テイム:もふもふ」「鑑定Ⅰ」「言語理解」の3つだ。


 テイムは難易度が高いし、言語理解はなくても困らない。しかもこの3つでは戦闘能力が著しく低い。でもそんなことより、もふもふと心を通わせる方が僕にとっては大切なことだったのだ。


「あなたに幸運が訪れることを心からお祈りします。それでは、行ってらっしゃいませ。」


 ここから、僕の異世界もふもふライフが始まるのだ。

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