傲慢と慢心で滅びた国の話
サドガワイツキ
本編
前編 用済みのお払い箱
魔族を率いる魔王が人類に宣戦布告をしてから5年、魔王は勇者によって討たれた。
魔王が死んだことで各地に残っていた魔王軍の残党達も撤退していったことで、平和が戻って来た。
ただ、魔王を討った後に勇者は姫と結婚させる約束を反故にされただとか、満足な褒美を用意されないまま追い払われただとかそんな話が聞こえてきたのは気になるところだけれども。
そんな俺はというと、魔族との戦争が続く5年の間、勇者を有する大国セコケチールの王都を守る最終防衛線のサイゴノ砦で傭兵として戦っていた。
ここを抜かれれば王都が丸裸になる最重要拠点のため兵士の損耗も激しい最大の激戦区でもあり、正規の騎士や兵士たちの殆どが戦死した後は冒険者を傭兵として迎え入れて戦線を維持していたのだ。
戦時中は高い死亡率の代わりに高い級金が支給されるので我こそはという腕利きの猛者から金に困った後のないものまでが玉石混合で集まり、赴任したころは未熟だった俺も生き延び続けた事で今は小隊を率いる程に強くなっていた。それは他の傭兵たちも同様で、このサイゴノ砦は駐屯する傭兵の力で支えられていたのだった。
世が平和になったのでこれからどうするかを皆が考え出した矢先に歴戦を誇った砦の司令官が更迭されて、代わりに無駄に装飾だけ凝った鎧を着込んだ一団が司令官と司令付の騎士団として砦に赴任してきた。
「これからこのサイゴノ砦は、我々選ばれしエリート貴族達が駐屯することになった。王都に近く注目を集めるこの砦は、我々騎士学校を卒業したばかりの若き精鋭たちにこそふさわしい
お前達との契約は破棄することになったので、退職金を用意してやった。各自、荷物を纏めて早々に退去するように」
新しく赴任したクラボン司令は、砦にいる傭兵全員を広間に集めるとそう言ってこれまで砦を死守してきた傭兵たちを労う事もなく、僅かな退職金・・・本当に僅かな、兵士の一か月分にもみたない捨て銭を渡して傭兵達の解雇をすることを宣言したのだった。
「マット隊長、なんなんですかあの無能なボンボンが鎧を着たみたいな無礼な一団は!」
クラボン司令が去った後の部下の一人、アニッシュが先ほどの宣言に対しての憤りを零している。
「口を慎めアニッシュ、アレでも今は司令だ。・・・さて、この砦はこれからどうなるんでしょうね」
副官のラリーがアニッシュを窘めた後、俺に視線を向けながら苦笑をしている。
「まぁそれが命令なんだ、俺達は此処を去るしかないだろう」
理不尽で無礼な命令であっても傭兵である以上は契約が破棄されるというのならそれに従うしかない。
「あ、あのっ!隊長はこれからどうなされるんですか?」
部隊の中では紅一点、回復担当をしていた僧兵のノエルが俺の方を上目遣いに見ながら聞いてきた。
「この5年間でため込んだ給金もあるしな・・・王国以外の安全な国に行こうかな。王国ではない国・・・そうだなぁ、オージン公国にでも行って冒険者稼業を再開でもするか、行った先で身の振り方を考えるさ」
俺の言葉に、ノエルは頭の上に「?」マークを浮かべているが、アニッシュとラリーは俺が言わんとしていることが通じたようだ。
たしかに魔王は討たれた。魔王軍も撤退した。しかしその残党は去って行っただけでまた仕掛けてこないとは誰も言っていない。それが一か月後か、一年後か、十年後か。その時に、あのボンボン達にこの砦を守り切れるかと言われたらその可能性はゼロだ。・・・もしも勇者が助けてくれたなら話は別だけれど。
そしてこの砦が落ちることがあれば、王都は丸裸になると同時に都を攻める側に対して有利な位置を取られることになる。
例えばこの砦を5年にわたっていた敵将がそれを率いていると仮定したら、王都は数日と持たず落ちるだろう。少し考えればわかる筈の事なのだけれど。王達はまさか魔王が倒されたから魔族は撤退していった、これで戦争も終結だ、くらいに軽く考えているのかもしれない。
この砦を攻めていたのは魔王軍全体の2割近い大軍団で、多方面に散っていた各方面軍と合わせて魔王軍そのものは相当数が健在だというのに。
・・・まぁ、そんな事を考えるのは俺の仕事ではないけれど。
「あのっ、それじゃ私もお供させてもらっていいですか?・・・どのみち行く当てがあるわけでもありませんし」
「うん?あぁ、俺は構わないよ。旅は道連れというしな」
「そう言う事なら俺もご一緒させていただきます。隊長は命の恩人でもありますからね」
同行を申し出たノエルに続いて、副官のラリーも俺についてくると言い出した。ラリーには部隊のNO2としてよく支えてもらったし、その狙撃の腕前には何度も助けられた。・・・とある戦場で瀕死の魔族が突撃してきたのをみて、それが少年兵だったためにラリーは撃つかどうかの判断に迷った事があった。その時に俺が“撃て、ラリー!”と言った事でラリーは少年兵をギリギリの距離で射殺して九死に一生を得た事があり、以降何かにつけて俺の事を命の恩人と言ってくれる。
「そいじゃ俺もよろしく頼んます。なんだかんだでこの部隊の居心地いいッスからね」
アニッシュもまた、態度こそ軽いけれど信頼のこもった目で俺を観ながらそう続けた。
「そうか。それじゃ皆、荷物をまとめ終わったら、出発しようか」
そう言って俺達マット小隊はサイゴノ砦を後にして、オージン公国に向かうのだった。
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