第3話 妹達と速報

 なんとか学校から飛び出して、リュウは繫華街へと逃げ込んだ。通学路としていつも通っている場所だ。


「…………ハァ、ハァ、今日ヤバい今日ヤバい今日ヤバいってマジで!」


 お昼時で賑わう中、リュウは人込みをかき分けて走る。どこへ向かう訳でもない。ただ学校から遠くへ逃げたい一心で、息を切らしてアーケードを駆ける。


「ハァ、ハァ、何なんだ一体?なんで皆、俺のことを妹って……ミカもミカだ、なんで校長室……なんか……に……ハァ……駄目だ……もう、走れない!」


 と、ここまでぶっ通しで走っていたリュウの足が止まる。膝に手を付けゼエゼエと息を切らした。

 呼吸をするたび肺が痛い。あとSP風大男の自称妹2人に殴られた腹も痛いし、カレーを腹一杯食べたせいで吐きそうだ。


「……ハァ。アイツら、追ってくるのかな、オレの事。これってドッキリ?ホントにどうなっちゃったん

 だよ俺の学校?―――――ああもう!」

 走って酸素が行き渡らないせいか、先程まで経験していた出来事に思考が追い付かない。

 いや、例えリュウが普段通りだったとしても、自分を兄と慕ってトチ狂ったように愛してくる生徒や先生という状況は、理解不能。きッッッしょ。不快の何物でもない。悪寒が凄い。あーメンタルが崩壊しそう。うーんヤバい。泣きたい。両親に会いたい。

 そして吐き気がする、色々な意味で。


「ハァ……ハァ……………………………………………」


 ゆっくり息を整えて、これからどうしたものかとリュウは心の内で呟く。

 黙って学校を抜け出してしまったが、ハッキリいってあんな状態の学校には戻りたくない。戻ってしまっては自称自分の妹達(同級生や先生達)に何をされるか分かったもんじゃない。とゆうか真面に授業もしていなかったし、これどう考えても法律的に駄目だろ。


(あれ……?つうか、これもしかしなくても警察に通報するべきなんじゃ……………?)


『続いてのニュースです』


 思考が纏まろうとしていた時、リュウは、側にあるテレビから流れるニュースに気が向く。


(ん?)


 家電屋の窓ガラス付近に設置してある売り物の薄型テレビで、外からでもガラス越しに覗けた。薄型テレビは何台もあり、大中小様々。全て同じニュース番組を流している。

 リュウが覗くと、とんでもない内容が流されていた。


『全世界のお兄ちゃんであり崇め尊敬される存在の〝東野リュウさん〟が先程、自身の中学校を逃げ出したとの発表が政府からありました。現在リュウお兄様は行方が分かっていないという事です』


 ………………リュウの苗字は東野である。


『都内の反応を見てみましょう』


 キャスターが言って、都内でインタビューを受けている人間の映像に切り替わった。


『リュウお兄ちゃんがいなくなって、どう思いますか?』


 インタビュアーが茶髪の中年女性にマイクを差し出す。女性は泣きながら答える。


『お、お兄さんが心配で心配で、胸がいっぱいです……』


 次に杖をついた高齢男性の映像に切り替わる。男性は眉間にしわを寄せて答える。


『いまや全世界の人々がリュウお兄たまの妹だというのに、全く学校側は何をしているだ!もしリュウお兄たまに危険があったらどう責任をとるつもりだ!』


 最後に20代前半程の女性の映像に切り替わる。女性は頬を紅潮させて答える。


『こ、これ考えてみればチャンスですよね?私がリュウにぃを捕まえて監禁してぐっちゃぐちゃに犯し放だ……』


『お、おい何言ってるんだお前!ちょ、カメラ止めろ!』


 叫び声が聞こえて、慌てたように画面が変わる。再びキャスターが映し出される。


『これを受け実の妹であり〝世界を統べるナンバーワン妹〟である東野ミカさんは、特殊部隊〝お兄ちゃん大好き警察〟を派遣。失踪予想区域を捜索中との事です。海外の国々でも今回の事件を重く受け止めており、早急な発見が望まれています』


 そう言ってここで、ニュースが終わった。


「………………………………………はぁ?」


 リュウは、率直な気持ちを吐露した。

 因みに言うまでもなくニュースに出てきた人物達は赤の他人である。会ったことは一度もない。


「………………………………………………」


 そしてリュウは、恐る恐る後ろを振り返った。


「ちょっと、あれってお兄ちゃんじゃ……」


「え、やっぱりあれって……」


「どうしよ、お兄ちゃん大好き警察に連絡を……いやそれよりも俺が……」


「きひ、きひひ、にいにぃぃぃ……好きぃぃぃ……」


「あ、アタシが兄貴を捉えて監禁しちゃえば……ぐへへ……」


 理由は、ただならぬ視線を感じたからだ。


「………………………………………………」


 繫華街にいる全ての通行人達がリュウに危険な視線を向ける。

 集まった視線を受けてリュウは、「やべえ」と血の気の引いた表情になって、


「「「「「「「「「「「「「「「「――――待っておにいちゅわわああああんん‼‼」」」」」」」」」」」」」」」」


「――――う、うわああああああああああああああああああああああああああああッッ‼」


 リュウは一目散に近くの路地裏に逃げた。自称妹達の通行人大勢、リュウの後を追ってくる。

 このように、なんと学校の外でも人々はリュウの妹と認識していた。

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