なんか全人類がオレの妹って事になってた。

本郷隼人

第1話 妹達と妹

「ふっ、ふふ~ん。遅刻確定ぃ~」


 寝坊により遅刻が確定したリュウは、鼻歌を歌いながらゆっくり登校していた。

 ま、一時間目には間に合いそうだしいいかぁ~的な心情で中学校の校門をくぐり、昇降口で靴を履き替え、階段を上り、ゆっくり廊下を歩く。

 廊下には生徒の姿はない。どうやら今はホームルーム中のようだ。

 よし一時間目には間に合ったか~と安堵して、リュウは自分の教室のドアに手をかける。


「すいませ~ん、遅刻しました~」


 と景気良くドアをスライドすると、


「「「「「「「「―――あ、リュウお兄ちゃんおはよ~」」」」」」」」


 というクラスメイト達(男女混合)の元気な返事が。


「おーみんなおはよ~」


 リュウが自分の席へと向かう。教卓に立つ腰の曲がったおばあちゃん先生(もうすぐ定年)がそんなリュウに対して、子供のように頬を膨らます。


「も~リュウお兄ちゃん!遅刻してるのに急ぐ素振りもないの?全くもって〝めっ〟だからね!もうしないでよ!」


「あはは、いやーすんませんっす」


 リュウが頭を搔きながら着席して、鞄から一時間目に必要な教科書を取り出す。


「もう、全く兄さんはズボラなんだから……」


「まあでも、兄貴っぽいわね」


「ふふ、遅刻するお兄様も素敵ね」


「それにしても俺達のおにぃは今日もかっこいいなぁ~」


 クラスがリュウに対し好意的な反応を見せる。リュウを微笑ましく見ている者や、何やら熱い視線を送ってくる者や、リュウを見て頬を赤らめてる者、など反応は様々。全員そんな感じである。

 先生はそんなクラスに「皆静かに~」と宥めた。


「はい、じゃあホームルームは終わりね。あ、リュウお兄ちゃんはこの後、校長室に行ってね?校長先生に呼ばれてるから」


「はーい」


 リュウが返事をして、クラスの全員が起立して、ぺこりとお辞儀。そしてリュウは。


「――――――ん、は?お兄ちゃん???」


 ようやく気が付いた。


 ☆


 校長室に向かっている途中の廊下。行きかう生徒たちはリュウに元気よく挨拶。


「おにぃ!おはよ~大好き~!」


「兄ちゃん!今日の部活見学に来てね!」


「ぐ、ぐへへ。リュウお兄様の匂い………ぐへへ」


「にいに!俺と一緒に男子トイレ行かないか?べ、別ににいにのにいにを見たいわけじゃないんだからね!」



 横切る生徒全員がリュウに声を掛ける。全員好意的に。自分を兄だと言って。


「…………………………………」


 今まで関わりのなかった生徒にまで声を掛けられるが、リュウは全て無視して素通り。早歩きで校長室まで向った。そして校長室のドアを勢い良く開ける。


「校長先生大変です!学校の全員がオレの事お兄ちゃんって…………!」


「お、来たね」


 部屋の奥には太々しく座る人物が、長い髪を払ってニッコリと微笑んだ。

 いつもは校長が座っている豪華な椅子。しかし今日は別の人物がいて、そしてその人物はリュウにとって見慣れた存在だった。


「って、ミカ⁉何でお前が⁉」


「待ってたよリュウ君」


 リュウを君付けした彼女、ミカは二歳下の妹である。黒いロングヘアでスラッとした体躯、小学校から上がったばかりでまだ幼い顔立ちが特徴の、眉目秀麗、運動神経抜群、そして頭めっちゃいい系の実妹である。

 取り敢えずラブコメによくいる『こんな完璧超人いるわけねぇだろ〇すぞボケカス』な人物像を想像していただければOKである。


「おまっ、なんで校長先生がいつも座ってる席に!てか校長は⁉」


 辺りを見渡すが校長の姿はない。実妹のミカは動揺しているリュウに言った。


「校長先生は私が殺したよ。だから今日から私がこの学校の校長ね?ついでに話すと学校の生徒と先生をリュウ君の妹にしたし、だから全員がリュウ君に対してブラコンだし、これから町内、県内、日本中、世界中の人々をリュウ君の妹にする予定。楽しみにしててね?」


「………………え、は?」


「じゃ、今日も授業頑張ってね~」


 ぱんッ。話を終えたミカは両手を叩いた。部屋中に乾いた音が響いて、そしてすぐに黒スーツを着たSP風の大男2名がガラス窓を派手に破って侵入。リュウの両腕をそれぞれ掴んだ。


「お兄ちゃん!早くしないと授業遅刻しちゃうよ!」


「ほら急いで急いで!」


「………………は、え?」


 大男2名は気持ち悪いぐらい優しく微笑むと、


「「――――おりゃああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ‼‼‼」」


 リュウを校長室の外へと投げ飛ばした。「ぐぎへぇ⁉」背中が思いっ切り壁に激突。リュウが悶える。


「「頑張ってね!お・に・い・ちゃ・ん♡」」


 そんなリュウに大男達は投げキッスをして、バンッ!大きな音を立ててドアを閉めた。

 リュウは、背中の激痛に耐えながら、ゆっくりと立ち上がりながら、


「…………は、は……?え、どう、いう……えぇ……?」


 困惑。

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