第8話
温泉旅行の翌朝。俺は、女性陣三人と同じ部屋の布団の中で目を覚ました。腕の中には佐野志保が、安らかな寝息を立てて眠っている。その隣には鈴木美保が、そして奥には菊池緑が、それぞれ布団に包まれて横たわっていた。
部屋には、昨夜の情事の濃密な余韻が微かに漂っていた。甘い香りと、熱の残り香。俺は、志保との初体験、そして美保と緑の行為を志保が見守り、美保と緑の行為を志保が見守ったという、衝撃的で、しかし甘美な体験を鮮明に思い出す。人生で経験したことのない、深く複雑な愛の重みが、心にずしりと響いた。部屋全体に満ちる、昨日までとは異なる、親密で、しかしどこか混沌とした空気感。俺自身の人生が、この一夜で大きく変わったことを実感する。
俺はゆっくりと身体を起こし、窓を開けた。外からは、新緑の清々しい朝の空気が流れ込んでくる。
「みんな、起きて。朝風呂、行かないか?」
俺が優しく声をかけると、美保と緑は、少し気だるげに身じろぎ、薄く目を開いた。志保も俺の腕の中で、んん、と微かに甘い声を出してから、ゆっくりと目を開いた。三人は、俺の誘いに素直に応じ、それぞれ布団から身体を起こす。
混浴露天風呂へと向かう途中も、湯船の中でも、昨夜の出来事について言葉を交わすことはなかった。しかし、湯けむりの中、水着姿、あるいは湯に濡れて透ける肌が露わになるたびに、互いの視線が交錯し、言葉以上の深い理解と、ある種の「了解」が交わされた。それぞれの身体に、昨夜の行為の痕跡が微かに残っていることを、俺は意識する。
志保は、以前よりも堂々とした雰囲気を纏い、俺の隣に自然と寄り添ってきた。その肌は、湯に濡れて艶やかに光り、新たな自信に満ちているようだった。美保は、クールな表情の中に、どこか満足げな笑みを浮かべ、時折俺の身体に触れる。その触れ合いは、遠慮がなく、親密さを増している。緑は、まだ少し羞恥心があるものの、男性への苦手意識はほとんど感じられず、むしろ俺に甘えるような仕草を見せた。そのふくよかな身体が、湯の中で柔らかく揺れるたびに、俺の目に、昨夜の彼女の情熱が蘇った。
朝食を終え、部屋に戻って団欒していると、美保が口火を切った。彼女の視線は、まず俺に向けられ、次に志保と緑へと移る。
「これで、私たち、もう何も隠し事をしなくて済むわね。本田くんは、私たちにとって、特別な存在。私たち三人は、あなたを共有します」
美保の声は、はっきりとしていて、そこにはクールな中にも、忠勝への独占欲と、志保の「覚悟」を受け入れたことへの、ある種の満足感が込められていた。彼女の言葉は、まるで宣言のようだった。
次に緑が、はにかみながらも、震える声で自分の気持ちを伝えた。
「私、本田くんが……みんなで、一緒にいるのが……好き、だから……。このままで、い、いいです……。みんなで、幸せになりたいから……」
男性への苦手意識を乗り越え、俺と、そして他の二人との絆を重視する彼女の、純粋で健気な心情が、その言葉から溢れ出す。
最後に志保が、まっすぐ俺を見つめ、昨夜の自分の「覚悟」を改めて言葉にした。
「私は、真面目ですから、正直、まだ複雑な気持ちもあります。でも、本田くんが、私たち三人を、こんなにも真剣に、そして大切に思ってくれていることが分かりました。だから、私も、本田くんのことが好きだから。私たち三人は、本田くんを、共有します」
彼女の言葉には、葛藤を乗り越えた強さと、俺への深い愛情、そしてこの関係性を「正しい」ものとしたいという、彼女なりの「正義」が込められていた。
三人のそれぞれの言葉と、その背後にある深い感情を受け止め、俺は改めて自身の責任の重さを感じた。彼女たちは、俺の優柔不断な部分も含めて、全てを受け入れようとしている。
「ただし、本田くん」
美保の声が、その場の空気を一変させた。彼女の瞳は、未来を見据えるような、鋭い光を宿している。
「私たちには、一つ、あなたに宿題があります。卒業までに、答えを出してください。誰か一人を選ぶのか、それとも、私たち全員と、この関係を続けていくのか。曖昧な答えは許しません」
その言葉に、志保と緑も真剣な視線を俺に送った。彼らの瞳は、「答え」を真剣に考えてほしいという願いを込めている。
「4人でいるのがいくら楽しくとも、いつまでも4人でいられるほど現実は甘くないわ」
美保は畳みかけるように言った。
「就職や妊娠、結婚の在り方を考えれば、いろいろな覚悟が必要になってくる。その選択を、あなたに私たちは丸投げしたうえで、その選択結果を私たちに説得するように求めています。あなたが、私たちを、納得させる義務があるのよ」
美保の言葉は、俺の優柔不断な性格を真正面から突きつけ、俺に真剣な決断と、その責任を負うことを明確に要求していた。それは、これまでの人生で感じたことのないほどの、「選択」の重圧だった。
温泉旅行からの帰路。列車の中で、俺たち四人の間には、以前とは全く異なる、強固な絆と、秘密を共有する親密さが生まれていた。俺の人生は、彼女たちによって、より深く、そして複雑なものになった。
このグループ交際が新たな局面を迎え、俺の「人生の選択」というテーマが、より鮮明に提示された瞬間だった。
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